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麦飯

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第二章

「これを食する」
「牛の肉に野菜を」
「あと向こうの醍醐も食する」
「ああ、それはそれがしも聞いております」
「チーズというがな」
「醍醐は非常に滋養によいので」
 古から言われていることから述べた石田だった。
「是非です」
「食するべきじゃな」
「はい、そうしてです」
「長生きするぞ」
 秀吉は石田に笑って応えた、そうしてこの日はビーフシチューやチーズを食しそのうえで身体を養っていた。
 そうした中で北条家に降る様に言っていたが北条家はどうしても首を縦に振らない、そうしているうちに北条家は秀吉の惣無事令に反することをした。
 秀吉はここで決意し諸大名達に出陣を命じ自らも出陣を決めた、そして出陣の前の日にだった。彼は石田達に言った。
「明日大坂を発つ、だからじゃ」
「今宵はですな」
「兵達にですな」
「美味いものをたらふく食わせてやれ」
 力をつける為にである。
「無論あちらでの戦の前にもじゃがな」
「はい、それでは」
「兵達には大飯を食わせます」
「それも美味い馳走を出し」
「そのうえで」
「そうせよ、そしてわしもじゃ」
 秀吉自身もというのだ。
「今宵はこの世で一番美味いものを食うぞ」
「と、いいますと」
「どの様な馳走でしょうか」
「それは一体」
 仕えてまだ短い者達が秀吉の今の言葉に怪訝な顔になった。
「関白様の食されるものは馳走ばかりですが」
「その中で一番美味いものといいますと」
「それは一体」
「どういったものでしょうか」
「すぐにわかる、ではじゃ」
 秀吉は彼等に笑って応えて述べた。
「これよりそれを出せ」
「わかり申した」
 石田達秀吉がそれこそ織田家の一家臣だった時から仕えている者達ははっきりとした顔と声で応えた、そしてだった。
 秀吉の夕食の用意が為された、その用意されたものを見てだった。彼に仕える様になってまだ短い者達は驚いて言った。
「何と、漬けものですか」
「ごく普通の」
「そして麦飯」
「それがですか」
「そうじゃ、一番美味いものじゃ」
 その漬けものと麦飯を前にしてだ、秀吉は彼等に満面の笑みで答えた。
「この世でな」
「漬けものと麦飯が」
「その二つがですか」
「この世で最も美味なもの」
「そうなのですか」
「この漬けものは母上とねねがそれぞれな」
 秀吉が大事にしているこの二人がというのだ、実母と正室が。 
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