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第五章

「それじゃあね」
「CDか。代えるか」
 私は子供達に言われて実際にCDに代えた、そしてだった。
 今度はCDで聴いた、けれどもう高校時代のあの頃とは全く違ったと思っていた。
 日本はすっかり変わっていた、木造の家も白黒テレビもなくなっていて列車は全部電車になって今じゃクーラーもついている。
 そして昭和も終わって平成になった。私の髪の毛もすっかり白くなってしかも薄くなってだ。気付いたら息子も娘も大学に行って就職した。何でもバブル期でいいところに就職出来たと言って喜んでいた。
 孫も出来て私は定年して妻と二人でシルバーワークに勤しみながら生きていた、二十一世紀になって結構経って。
 ある休日に妻と一緒にテレビを観ている時にこう言われた。
「今度あの娘がここに来るでしょ」
「ああ」
 結婚した娘がだ。
「それでだな」
「家族で来るから」
 ご主人、私達にとって義理の息子と孫達がだ。息子は家族で北海道に行ってもう数年会っていない。
「ご馳走用意しておきましょう」
「そうだな、そうするか」
「ええ、うんと腕を振るうからね」
 妻は嬉しそうに言った、二人だけでくしかも年寄り二人だと食べるものも何か寂しくなる。それで妻も久しぶりにと言ったのだ。
 私達は二人で娘の家族を迎えた、特に孫達を可愛がったがその時にだ。
 一番下の孫娘、まだ小学生のその娘が私に尋ねてきた。他の孫達は妻の方にいて何かと遊んでいる。
「お祖父ちゃん音楽好きだって?」
「その話を何処で聴いたんだい?」
「大叔母さんからよ」
 妹からだというのだ、何でも最近神経痛が辛いとか言っている。
「そう言われたの」
「別にな」
「好きじゃないの」
「いや、嫌いじゃないよ」
 私は孫娘に笑って答えた。
「けれど菊ちゃんが好きな曲はないかもね」
「そうなの?」
「菊ちゃんが生まれるずっと前の曲ばかり聴いてるからね」
 孫娘を仇名で呼びつつ話した。
「だからね」
「そうなの。昔の曲ばかりなの」
「そうだよ」
「昔の曲ってどんなのなの?」
 孫娘はかえって興味を持ったみたいで私に聞いてきた。
「それで」
「どんなのって言われても」
 そう言われると私も返答に窮した。
「具体的には」
「言えないの」
「そうだよ」
 こう孫娘に話した、そして私は思ったことをそのまま話した。
「直接聴いた方がいいだろうね」
「じゃあ聴かせてくれる?」
 孫娘は私に言ってきた。
「昔の曲をね」
「それじゃあね」
 私は孫娘の言葉に頷いた、そしてだった。 
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