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43部分:エリザベートの記憶その二十一


エリザベートの記憶その二十一

 そこには一人の男がいた。鎧の様な服を身に纏った黄色の髪の男であった。残念だが顔は見えなかった。
「貴殿は」
「パルジファル=モンサルヴァートと申します」
 男はそう名乗った。
「パルジファル=モンサルヴァート、確か」
「武器商人をしておりまして」
「ああ、そうだったな」
 タンホイザーはそれに気付いた。
「闇商人だったか。帝国に反抗する者達に武器を売っているという」
「はい」
「噂には聞いていたが。まさかこんなところで出会うとはな」
「貴方にお話したいことがありまして」
 彼はこう言った。
「それでお待ちしていたのです」
「私に話したいこと」
「はい」
 パルジファルはまた頷いた。
「貴方の運命のことで」
「私の運命」
「そうです、貴方は帝国軍と対立関係にあられます」
「それは否定しない」
 タンホイザーは答えた。二人はローマを後ろにして軍港において立って話をしていた。正対していた。
「あちらから仕掛けて来たからな」
「何故だと思われますか?」
「ヴェーヌスを狙ってとのことだったな。何でもヴェーヌスは本来はニーベルングの妻となる予定だったそうだが」
「その通りです。彼女はその為に造られた命なのです」
「そもそもが彼のものだったのか」
「そういうことです。何故ニーベルングが造られた命を必要としたか。御存知でしょうか」
「さてな」
 これには首を横に振るしかなかった。
「あの男にどういった事情があるのかはわからない。気にはなるが」
「彼は生身の女性を愛せないのです」
「生身の女を?」
 それを聞いたタンホイザーの眉がピクリと動いた。
「そうです。彼には男性としての機能がありません」
「宦官だとでも言うのか」
 皇帝の後宮にいる者達である。去勢された男達だ。男性であって男性でない存在とも言える。
「いえ、違います」
「宦官でなくては何だというのだ」
 タンホイザーにはわからなかった。あまりにもわからないので問うた。
「男としての機能がないなどとは」
「それは彼がアルベリヒ教の最高司祭でもあるからです」
「アルベリヒ教」
「はい」
 パルジファルは答えた。アルベリヒ教とは銀河で信仰されている宗教の一つであり巨大な神を信仰する一神教である。信者以外には教義を教えず謎の多い宗教とされている。
「彼はそれの最高司祭なのです。御存知ありませんでしたか」
「今はじめて知った」
 タンホイザーは答えた。
「まさか。あの教団の首領でもあったとは」
「あの教団の最高司祭は今空席となっています」
「私はそう聞いていた」
「ですが。実は存在していたのです」
「それがあの男だったのか。だが何故」
 また新たな疑問が出て来た。
「それを隠しているのだ」
「あの教団がニーベルング族のものだからです」
「ニーベルング族の」
「はい」
 パルジファルはまた答えた。
「ニーベルング族とは。一体何だ」
「一言で言いますとクリングゾル=フォン=ニーベルングの一族です」
 パルジファルは述べた。
「ニーベルングの」
「はい。ですが我々が普通に考えているような一族ではありません」
「血縁ではないのか?」
「いえ、血縁です。ですが」
「違うというのか」
「詳しいことは私にもまだわかっていませんがその通りです」
 彼は答えた。
 
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