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39部分:エリザベートの記憶その十七


エリザベートの記憶その十七

「そして。我がワルキューレにもテロを仕掛けた」
「その女が何故ここに」
「知れたこと。この女もまたニーベルングの部下なのだ」
「ニーベルングの」
「そうだ。違わないか。クンドリー」
「如何にも」
 そしてクンドリーもそれを認めた。妖艶な笑みを見せた。媚びる様に、それでいて誘う様に。
「私はニーベルング様の僕であり血族である」
「やはりな」
「そして同時に」
 だが彼女はまた言った。
「私でもあるのだ」
 ここで突如として声に男のものも混ざった。
「!?」
 二人はそれを聞いて思わず身構えた。
「これは一体」
「私にもわからない」
 ジークフリートも狼狽を隠せないでいた。
「この声は知っている」
 タンホイザーは言った。
「これはクリングゾル=フォン=ニーベルングのものだ」
「馬鹿な、ではあの女にニーベルングの心が」
「如何にも。私はこのクンドリーの身体を借りて諸君等の前にいるのだ」
 そう言って哄笑する。無気味な笑い声が艦橋の中に木霊する。
「では貴様が来ているということは」
「そう、こういうことだったのだ」
 クンドリーの声とクリングゾルの声が重なっていた。あまりにも無気味な声であった。
「わかったか。本来の私は別の場所にいる。だがここにいるのだ」
「クッ、計ったか」
「計ったのではない、ワルキューレのリーダーと」
 彼、いや彼女であろうか。クリングゾルはジークフリートに対して言った。
「私がここにいるのは事実だからな」
「ではヴェーヌスは」
 タンホイザーは問うた。
「ヴェーヌスは何処だ。ここにいるのか」
「ヴェーヌスか」
 クンドリーの身体を借りたクリングゾルはそれを聞いて不敵に笑った。
「彼女ならここにいる」
「何処だ」
 タンホイザーはそれを聞き一歩前に出た。その手には剣がある。
「何処にいる、早く出せ」
「そう慌てることはない」
 彼は笑いながらこう言葉を返した。
「言われずとも。ここにいるのだからな」
 クンドリーの手が翻った。そしてその中に一人の少女が現われた。
「ヴェーヌス!」
 見れば彼女は目を閉じていた。意識はないようであった。タンホイザーは飛び出そうとする。だがジークフリートがそれを止めた。
「待て」
「何故だ」
 タンホイザーはジークフリートの顔を見据えた。キッとして彼を見据える。
「おかしいぞ」
「おかしい?」
「そうだ。急に出してきた。何かあると考えた方がいい」
「そうか」
 タンホイザーも名の知られた男である。すぐにそれを解した。
「わかったな」
「ああ。ここは様子を見るか」
「心配は無用だ」
 だがクンドリーはそんな二人に対して言った。
「オフターディンゲン公、今私の手にあるのは紛れもなく卿の奥方だ」
「何だと」
「その証拠に。見るがいい」
 クンドリーはそう言うとヴェーヌスの顔に手を当てた。すると彼女はゆっくりと目を醒ました。
 
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