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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督が居ない日常・その1

 カリカリ、カリカリ。書類にペンを走らせる音だけが響く。山のように発生する書類を片付ける為の、いつもの作業音。いつもの作業風景。しかしそこに無くてはならない『要』の姿が無い。だがそんな事を気にしている余裕はなく、山積みの書類は減るどころかついさっき追加がやって来た。これを片付けられるの?と不安が頭を過った時、

「ふぅ……一旦休憩にしましょう。ティータイムの時間ネ!」

 提督代理の金剛さんから、ストップが掛かった。時計を見やれば午前10時。業務開始が6時だった事を考えると、一息入れてもいい頃合いだろう。ペンを手放し、ん~……っと背伸びをする。背骨と肩甲骨の辺りからボキボキとえげつない音がする。また明石か提督に整体を頼もうかな?等と考えていると、

「よどっちは何飲みマスかー?」

 と給湯室から金剛さんの声が響く。

「あ、じゃあカフェオレを」

 私はそう答えて、お茶菓子を準備しようと席を立った。





「……ふぅ、やはり頭脳労働の後のティータイムは何倍も美味しく感じるな」

 ティーカップを置いて、今日の秘書艦当番のアークロイヤルさんが溜め息を吐く。夏の欧州救援作戦が終わり、残暑厳しい8月の末に着任して……約9ヶ月か。日本語の上達早いなぁとしみじみ思う。

「そうですカ?褒められるのは嬉しいネー」

 隣で照れているこの人みたいに、いつまでもエセ外国人タレントみたいな変な訛りが抜けない人もいるのに。まぁ、金剛さんの場合は場を和ませる為にわざと道化になってキャラを演じている所がある。提督と2人っきりの時は流暢にペラペラと日本語を話しているし、英語も堪能だ。

「そういえばアーク、もう鎮守府には慣れました?」

 クッキーをかじりながら金剛さんが尋ねる。実はこのクッキーも提督の手作りだったりする。執務室の隣に備え付けられた給湯室には専用の棚があり、提督が作り置きしているクッキーやスコーンなんかの保存性の高いお菓子が保管されており、執務室に詰めている艦娘なら好きな時に食べていい事になっている。

「そうだな……事前に聞いていた業務形態や艦娘の運用方法とは大分違うが、ようやく他の皆と同じ程度には慣れたといった所か」

 アークさんもカップから口を離して応じる。確かにウチの鎮守府は特殊という言葉では語り尽くせない位に変わった鎮守府だと、客観的に見ても思う。前線に近い地域の鎮守府であるにも関わらず、日勤の場合は定時上がりだし、3食おやつ付き、緊急事態が起きない限りは残業なし。その上福利厚生がしっかりしていて他の鎮守府よりも給料が高い(そもそも、他の鎮守府では艦娘に給料が発生しているのかも怪しい)とか、もはや変わっているを通り越して異常のレベルだ。

「まぁ、他の鎮守府ではこうはいかないでしょうね」

「それもこれもdarlingの経営手腕のお陰ネ!」

 いや、そこで金剛さんがどや顔する意味も解んないんですが。まぁ旦那自慢のノロケ話と思えば、そこでどや顔する意味もあるんでしょうね、多分。私は付き合い長いですから、そういう感じにならないんですよ。

「Admiral、か……もう半年以上になるが未だにどんな人物なのか掴み切れない。どんな人たなんだ?」

 アークさんにそう問われて、ウチの提督の事を思い浮かべてみる。普段は悪ガキのように無邪気でもあり、仕事嫌いの怠け者のようにも見える。けれど、その態度に反して仕事は早いし、艦娘達からの信頼も厚い。かと思えば、戦闘になれば苛烈に指揮を執るし自ら戦ってもアホみたいに強い。

「darlingの魅力は一言じゃ語り尽くせないネー」

「付き合いの一番長い私でも、掴み所の無い人としか」

「……ん?金剛よりも大淀の方が付き合いは長いのか?金剛は妻だから一番長いのかと」

「あぁ、私は最初艦娘としての着任ではなく、大本営との調整役兼事務系の補佐としての着任でしたから。同じような感じで、明石と間宮さんも最古参ですよ」

 一番最初に着任した五月雨ちゃんは、もう艦娘を引退しましたからね。

「ワタシが着任したのはdarlingが南西諸島の攻略に乗り出した頃ですよ。その前にもう2~3人戦艦は着任してましたヨ」

「えぇと、伊勢さん、山城さんに……あ、霧島さんもでしたね」

 着任して早々、『NOooooooo!何で霧島が先に居るデスか!?』と大騒ぎしたのはもう20年以上昔の話になるんだ。懐かしいなぁ……。

「そ、そうなのか?しかしあの提督の女性関係はどうにかならんのか……英雄色を好むとは言うが、アレは節操が無さすぎだろう?」

「あー、その件につきましては」

「そもそも、ケッコンカッコカリというネーミングが問題ネ!別に結婚を連想させなくてもいいのに」

「……え、ケッコンカッコカリとは結婚の事では無いのか!?」

 やっぱり。海外組とか新任の娘がよくする勘違いをアークさんもしていたらしい。

「ケッコンカッコカリはあくまでも艦娘の成長限界を突破させるのが目的で、そこに法的拘束力は発生しません。何時でも身に付けておける装身具として指輪が選ばれ、そこから大本営が提出用の書類を婚姻届みたいなデザインにしたりと悪ふざけに走った結果です」




「そ、そうなのか……私はてっきり、ケッコンカッコカリというシステムを悪用して艦娘達に無理矢理関係を迫っているのかと……」

「むしろ逆ですよ。提督から艦娘に関係を迫った事はありません。唯一の例外が本妻の金剛さんです」

 私がそういうと、金剛さんが大きくなった胸を張る。……揉まれると大きくなる、というのは本当なのだろうか?誰でもいいという事は無いが、提督にならいいかなと思ってはいたりする。口には出さないけど。

「艦娘の方が迫ってますね。特に空母勢の攻勢が強いです」

「攻勢って……」

「提督が逃げられないように艦載機で囲んで、スタミナを搾り取るのを攻勢とは呼ばないと?」

「……いや、私が悪かった。しかし、それだけ相手をしているのに……その、『枯れた』りしないのか?」

「それはありませんね。メディカルスタッフの明石も細かくチェックしていますが、そのような報告は無いです」

 あれだけ夜遅くまで(趣味を兼ねているとはいえ)仕事して、その後で艦娘のメンテナンス(意味深)までやっているのに疲れた様子などほとんど見せない。正に化け物と呼ぶに相応しいバイタリティだ。

「……いきなりそんな話を始めて。もしかして、アークもdarlingに惚れましたカー?」

 金剛さんがニヤニヤと笑っている。

「なっ!?そ、そんな事は……そんな事は……ある、と言うかその……」

「ほうほう」

「それはそれは」

 あの強面のガチムチ兄貴は、何人を虜にしたら気が済むのでしょうか。本人曰く、

『俺が告白した訳じゃなく、向こうが勝手に惚れるんだからどうしようもない』

 とほざいていやがりましたが、全方位に優しく紳士的な対応やらデキる上司的な対応をされたら、男に免疫の無い娘達ならコロッといっちゃうと思うんですが。まぁその辺が無自覚天然ジゴロの魅力なんでしょうね、ハァ。

「まぁその辺はお昼にでも聞くとして、後1時間半仕事を頑張りましょう」

「Oh!30分もティータイムしてましたか。こりゃ頑張らないといけないネー。ほらアーク!ボサッとしてないで仕事するヨー!」

「え、え?ええぇっ!?」

 昼時に尋問(という名の公開処刑)が決まったアークさんには、心の中で合掌しておこう。……私?提督には惚れてますけど、周囲にバラした事はありませんし、バレてもいませんよ。伊達に提督から『腹黒眼鏡』なんてあだ名を付けられてません。

 
 

 
後書き
提督が居ないからこそのぶっちゃけトーク、いかがでしたか?ただもうちょっとだけ続くんじゃよ……。

そしてリクエスト企画の締め切りは明日です。投票まだの方はお早めに。 
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