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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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勧誘

 此処は王下七武海サー・クロコダイルがB・W(バロックワークス)創設以降、秘密裏に使用してきた地下室。

 今やこの場にはルフィを含めた数人が檻の中に閉じ込められていた。

「巧妙な罠だった。」
「ああ、俺じゃなけりゃ気付かなかったな。」
「あんた達、何呑気なこと言っているのよ!?」

 自分達が現状進行形で掴まっているにも関わらずルフィ達のこのふざけた態度。
 ナミは彼らのあんまりな態度に絶叫せざるを得ない。

「ああ、やっぱり私が頼れるのはアキトだけ……。」

 ナミは腕を組み、檻の天井を見上げ、嘆息する。
 ルフィ達では頼りにならない。
 ゾロは寝てしまっているし、残り一人は海軍の手先だ。

 やはり自分が頼れるのはアキトだけ。
 無論、ビビも信頼しているが、戦力的な意味合いも含めればアキトに軍配が上がるだろう。
 ナミは切実にこの場にいないアキトを強く求めた。

「クハハ、なかなか見ていて飽きないお嬢ちゃんだな。」

 クロコダイルはそんなナミを見て、実に愉し気に笑う。
 椅子にふんぞり返り、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら。

 その此方の神経を肴撫でるような態度にナミは一言申そうと前へと足を踏み出した刹那……







「クロコダイル!!」

 勢い良くこの地下室の扉を開け、姿を現すビビの声が響いた。
 背後にはビビに付き従うようにアキトが佇んでいる。

 何故かリトルガーデンに辿り着く前に出会ったあの女性もいるが。

「これはこれは、わざわざこの場にご足労なもんだな、アラバスタ王国王女ビビ。いやミス・ウェンズデー。」

 わざとらしく腕を広げ、クロコダイルはビビを歓迎する。
 口元に悪趣味な笑みを浮かべながら。

「何度だって来るわよ!貴方に死んで欲しいから…!Mr.0!!」

 憎々し気にビビはクロコダイルを睨み付ける。
 その瞳には憎悪の炎が燃え上がっている。

「クハハ、これは随分とした挨拶だな。まあ、座りたまえ。」

 見ればクロコダイルの前には豪勢な料理の数々が置かれ、芳ばしい香りを放っていた。

「どの口が……!」
「はい、ストップ、ストップ。」

 クロコダイルへと駆け出そうとする怒り心頭のビビをアキトが肩を掴むことで止める。

「何故、止めるのですか、アキトさん!?」
「今、此処でクロコダイルにキレてもどうしようもないことはビビも分かっているだろう?」
 
 感情のまま攻撃してしまえば奴の思う壺だ。
 相手は腐っても七武海の一人、サー・クロコダイル。

 どう転んでもビビの敵う相手ではない。
 圧倒的な実力差が存在している相手に無策で突っ込む行為は愚の骨頂だ。

 これまでB・W(バロックワークス)はビビの命を狙ってきたのだ。
 軽々しく敵の射程圏に入るものでない。

 それに今のアキトではビビを守ることも厳しい。
 普段の実力の2割の実力さえ引き出せるかも怪しいところなのだから。

「……すみません、アキトさん。」

 アキトの言葉を受け、彼女は冷静さを取り戻し、振り上げていた己の武器を収める。

 だがそれよりも……
 
「アキト、ビビ───!助けてくれ───!」
「俺達捕まっちまったんだよ───!」
「アキト、ビビ、ごめんなさい……。」

 先ずはクロコダイルに掴まったルフィ達の救出が先だ。
 少し敵に掴まるのが早過ぎると思うが。

 アキトは嘆息しながらビビを引き連れ、クロコダイルの下へと向かうべく階段を下り、席に座る。

 こうしてアラバスタ王国の王女であるビビと王下七武海サー・クロコダイルが遭対するのであった。







▽▲▽▲







 目の前では今なおビビとクロコダイルの口論という名の睨み合いが繰り広げられる。

「それにしてもよくこの場まで辿り着いたものだな。」

「当然じゃない……!」

 ビビは剣吞な雰囲気を隠そうともしない。

 そんな殺伐とした雰囲気の中、アキトは……







「あ、これ美味しいのでお代わり頂けます?」

 絶賛食事中であった。

「ふふ、残念ながらお代わりはないわ。」

 それは残念。
 アキトは素直に引き、次の料理へと手を伸ばす。

 驚くことにクロコダイルが用意した料理は普通に美味しかった。
 アキトの手は止まらない。



「あ、ズルいぞ、アキト──!」
「あんたは黙っていなさい、ルフィ。きっとアキトには何か考えがあるのよ。」

 ナミの期待を裏切るようで悪いが、策など初めから何もありはしない。
 海楼石の牢が相手では能力者であるアキトでは流石にどうしようもない。
 
 見ればビビとクロコダイルの口論は佳境を越え、終わりを迎えようとしていた。

「だが、死ぬのは、このくだらねェ国だぜ、ミス・ウェンズデー?」
「…!」

 遂に耐え切れなくなったビビがその場から跳躍する。

「お前さえいなければこの国はずっと平和でいられたんだ!」



"孔雀""一連(クジャッキーストリング)スラッシャー"!」
 
 ビビが放った攻撃は奴が座する椅子ごと両断し、クロコダイルの顏を破壊する。

「うおおっ!?」
()ったか!?」
「……無駄だ。」

 ビビの渾身の一撃を受けたクロコダイルの顏は崩壊し、否、砂へと変わり周囲へと霧散した。



「気は済んだか、ミス・ウェンズデー?」

「この国ぬ住む者ならば知っているはずだぞ?この"スナスナの実"の能力をな……」

 周囲へと霧散していた砂がビビの背後へと集まり、無防備な彼女を捉え、クロコダイルが現れた。
 右手でビビの顏を掴み、左手の義手のフックでビビを拘束する。

「ミイラになるか?」

 ビビの背中を支配する悪寒。

「砂人間…!?」
「ビビから離れろ、お前ェ!」
自然系(ロギア)の能力……!」

 周囲が驚愕に戦慄する中、アキトは即座に行動に移り、ビビの下へと向かう。
 クロコダイルの義手のフックを素手で弾き飛ばし、周囲の砂を能力で吹き飛ばすことでビビを救出する。

 アキトは宙へと跳躍し、テーブルシートを踏み、食器を散乱させながらビビを右腕で抱えることで大きく後退した。
 驚く程の手際の良さだ。

「うおお、ナイス、アキト───!」

 沸き上がるルフィ達の歓声。

「落ち着いたか、ビビ?」
「はい、すみません、アキトさん……。」

 アキトの指摘にビビは冷静さを取り戻す。

「……あのアキトさん、口元に食べかすが残っていますよ。」
「…。」

 アキトが口元をさすればビビの言う通り食べかすが付着していた。
 ビビを颯爽と救出した手前、普通に恥ずかしい。

 アキトは人知れず心の中で悲鳴を上げた。

「くはは、何ともまあ締まらないことだな?」

 あ、恐れ入ります








  

 一方、その頃……

 港町『ナノハナ』ではアラバスタ王国の国王であるコブラが群衆達の前へと現れていた。

「謝罪しているのだ。この国をダンスパウダーで枯らせているのは私だ。」

「嘘だと言ってください、国王様!?」

「嘘ではない、本当の話だ。」

「何をしている、貴様……。」

「そんな……。」

「ならこれまであんたのことを信じてきた国民達の気持ちはどうなる!?」

 途端、鳴り響く銃声。

「コーザさん!?」
「キャ───!?」

 阿鼻叫喚と化す広場。
 混沌と化す群衆達。




「そろそろ時~間だ~わねェいっ!」

 だがそれは国王をマネることで変身したMr.2。

「最終作戦の締めにかかりましょうか?」
「味気の無い作戦だがな……。」

 そして巨大船と共に姿を現すMr.1・ミス・ダブルフィンガーペア。
 遂にB・W(バロックワークス)の最終作戦の狼煙が上がった







 そして港町『アルバーナ』の国王の一件を受け……

「現アラバスタ王国は今、この瞬間に死んだ!我々はアルバーナへ総攻撃を始める!」
 
「国王を許すな!」

『うおおおおお!!』
 
 反乱軍が遂にアルバーナへの信仰を決断する。







 そして国王軍は……

「我々は自身の本分を全うする!」

「剣を取れ!背後を振り返るな!」

「反乱軍を迎え撃つ!」

「全面戦争だ!!」

 国王軍も遂に反乱軍との全面衝突を決意した。



B・W(バロックワークス)最終作戦、『ユートピア作戦』始動―







▽▲▽▲







 舞台は再び"夢の町"『レインベース』の地下の一室へ。

「いくらだ?」

「…?」

「幾ら出せば、俺の下につく?」

 クロコダイルはアキトを勧誘していた。

「貴様の要望通りの報酬を用意しよう。これでも俺はお前を買っているんだ。」

 余裕の笑みを浮かべ、クロコダイルはアキトへと提案する。
 自身の秘密結社であるB・W(バロックワークス)の幹部になる旨があるかどうかを。

「金も地位も用意しよう。」

「勿論、望むならば女も好きなだけあてがおう。」

 クロコダイルは初対面のアキトを熱烈の歓迎する。
 破格の好待遇だ。

「それは魅力的な提案だな。」

 アキトも対面するクロコダイルと同じ様に口元に笑みを浮かべ、肯定的な応えを返す。

「ほう、それでは……」







「だが断る。」

 だがアキトの応えはノー。
 逡巡するまでもないことだ。

「…何?」

 好感触であったアキトの即座の拒否宣言に眉根を寄せるクロコダイル。

「折角の提案だが、自分はあんたの計画に興味はない。」

 何かしらの野心を有しているわけでもない自分がこの提案に応える可能性は未来永劫存在しない。
 悪は必ず打たれる運命にあり、世界に淘汰される運命にあるのだから。
 自ら悪になるなど冗談ではない。

「それに、正直な話、あんたに魅力を感じない。」

 これは本当の話だ。
 わざわざクロコダイルの仲間になるメリットも魅力も感じない。

「くはは、それは残念だ。ならばこの部屋共々沈むがいい。この部屋は既に用済みだからな。」

 B・W(バロックワークス)創設以降、使用してきたこの秘密に地下室は『ユートピア作戦』が始動した今、無用の長物。

 どうやら奴は証拠隠滅に加えて、邪魔者であるビビ一行諸共処分する腹積もりのようだ。

「まあ、俺も鬼ではない。貴様らにチャンスをやろう。」

 取り出されるは怪しく光る一つの鍵。
 恐らくルフィ達を閉じ込めている牢の鍵だろう。

「この鍵を使って此処から脱出するのも貴様らの自由だ。まあ、できればの話だがな。」

 クロコダイルはその鍵を地面へと放り投げながら笑みを浮かべた。

「あ…!?」
「鍵が…!?」

 だが鍵が地面へと落ちる刹那、地下室の床が開き、鍵が……





 呑み込まれることはなく、アキトの掌へと吸い込まれた。

「敵の前でわざわざ牢の鍵を出してくれるとはお優しいことだな。」

 言うまでもなくアキトの能力である。

「うおお、ナイス、アキト───!」
「アキトが鍵を…!鍵を取った───!」
「俺はお前を信じていたぞ、アキト!」

 ルフィ達はアキトに対して歓声を上げる。
 そんなに褒めるな、照れる。

「ほう、これは珍しい能力だ。」

 だがクロコダイルはルフィ達など目もくれず、アキトを見据えていた。
 初めて見たアキトの能力の実態について思考を巡らしているのだ。
  
 それに有用性にも優れていることも伺える。
 だが本人はその能力に驕っている様子は見られない。
 どこまでも冷静だ。

「くはは、ますます俺の部下に欲しくなってきた。」

 上機嫌な様子でクロコダイルは笑う。
 実に愉し気に、まるで財宝を見つけたとばかりに。

「胆力・頭の切れ・敵を前に全く動じることはない貴様の冷静さは大した物だ。」







「……ならば戦闘能力はどうだ?」

 突如、クロコダイルが義手ではない右手を大きく振りかぶり、勢い良く振り下ろした。

 途端、顕現するは砂の刃へと変化した右手から繰り出される巨大な斬撃。
 アキトとビビの前の机が大きく裂け、タイル造りの強固な床までも大きく裂かれていく。

 アキトは即座にあれが途轍もない威力を秘める攻撃であることを理解する。
 即座に頭の中を駆け巡るいくつもの対処法。
 


 回避、駄目だ。
 此処は周囲が巨大な水槽に囲まれた地下室。
 回避の行動を選択してしまえば瞬く間にこの場は水で溢れかえってしまう可能性がある。
 そうなってしまえば海楼石の檻に閉じ込められているルフィ達が溺れ死ぬことは明白。

 ならば自身の能力による相殺。
 これも駄目だ。むしろ悪手と言っても良い。
 この場の地下室の正確な強度が推し量れない以上、衝撃波による対処は最悪の結果を招いてしまう可能性がある。

 だとすれば受け止めるしかない。
 右腕はビビを抱きかかえているため使えない。
 ならば左手で対処するしかない。

 必ずや受け止めてみせる。
 ビビは勿論、周囲に衝撃の一つも伝えはしない。

 アキトは左手の掌を迫る巨大な砂の断層攻撃へとかざす。
 背後には巨大な水槽、前方にはクロコダイル。
 自身の右腕にはビビを抱え、アキトは勢い良く迫る砂の猛威を迎え撃った。







 途端、アキトの掌に途方もない衝撃が伝わった。

 周囲に霧散する衝撃波。
 アキトはビビを庇いながらその猛威を一身に左手の掌で受け止める。

 想像以上の威力だ。
 アキトは自身の想定していた以上の威力に眉根を寄せる。

「くはは、効くだろう?」

「能力にかまけたそこらの馬鹿共とは俺は違うぞ。鍛え上げ研ぎ澄ましてある。」

 挑発にアキトが応えることはない。
 だがそんなことはクロコダイルにとって関係はなかった。

「だが、まだまだ余裕そうだな。」

 砂の断層の攻撃が鳴り止む。
 だが、これで終わりなどではない。
 
「そら、追加だ。」

 続けての第二波。
 クロコダイルは再び腕を振り下ろした。

 アキトは再度、左手の掌で砂の猛威を受け止める。





 だが、アキトはその身を僅かに後方へと後退した。
 驚くことに威力が先程よりも上がっている。 

 右手はビビを抱えているために依然として遣えない。
 アキトは眉根を寄せ、徐々にその身を後退せざるを得ない。

 アキトの左腕の肘が少しずつ折れ曲がり、掌からは血が流れ、服の袖が破けていく。
 両手と能力を十全に遣えない今、圧倒的に此方が分が悪かった。

 自分を心配し、声を荒げるビビの声も今は届かない。
 今なおクロコダイルから繰り出される巨大な砂の攻撃、砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)の猛威が止まらないからだ。

 それだけではない。
 奴は此方へと腕を振り下ろすその刹那の瞬間に腕を2度振り下ろしていた。
 つまり実質的に砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)は2度放たれているのだ。

「くはは、中々やるな。」

「ならばこれならどうだ?」

 だがそれでもクロコダイルは容赦などしない。
 続けて掌から小さな旋風を起こすことで砂嵐を創り出す。

「くはは、貴様らもこの国に来たのならば一度くらい見たことがあるだろう?」

 今なお砂の斬撃が止まることはない。
 アキトはまた少しずつ後退していく。

「そう、砂嵐だ。」

「実にこの国の連中は扱い易かった。ユバの穴掘りジジイ然りだ。」

 それはまさか……。
 途端浮上する最悪の可能性。

 ルフィ達の誰もがクロコダイルの言わんとすることを理解した。

「貴様らも覚えておくと良い。砂嵐はそう偶発的に何度も町を襲ったりしないものだ。」

 そう、此奴が全てユバへと砂嵐を解き放っていた張本人であったのだ。

「お前がやったのか……!」
「殺してやる……!」

 ルフィとビビが怒り心頭にクロコダイルを睨み付けるも、奴はそれさえも己を奮い立たせるスパイスとなっているのか笑みを一層深めた。

「そうだ、俺はこれまで何度も砂嵐を解き放ってやった。」







「丁度、こんな風にな!」

 漸く砂の断層攻撃を無効化したアキトとビビへとクロコダイルは腕を振り下ろし、砂嵐を直撃させる。

 その砂嵐は瞬く間にアキトとビビの2人を呑み込み、2人の姿を掻き消した。



―"レインディナーズ"の地下室にルフィ達の絶叫が響き渡った―
 
 

 
後書き
やっぱり敵の攻撃を片腕だけで、それも顔色を変えることなく受け止めるのは憧れます
それも動じることなく

というか一度はしてみたい 
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