| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リング

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

30部分:エリザベートの記憶その八


エリザベートの記憶その八

「それを考慮すると今の我等の戦力では不利だ」
「だからこそですか」
「そうだ。向かって来る敵だけを叩く」
 彼は言った。
「まずはこちらから手を出すことは控えよ。よいな」
「はっ」
 こうしてタンホイザーはチューリンゲンを本拠地として帝国軍の背後に回り込む形で軍を進めた。そして一個艦隊をチューリンゲンに置き彼は二個艦隊を率いて自らその帝国領へと入っていった。彼は百隻の艦隊の指揮を執っていたのであった。
「公爵」 
 ローマの艦橋でハインリヒが声をかけてきた。
「どうした」
「早速敵艦隊がこちらに向かって来ておりますが」
「数は」
「一個艦隊。五十隻程度です」
「そうか。艦隊としては数が多いな」
「おそらくはこの辺りの星系全体の防衛を担う艦隊の様ですが」
「ならば都合がいい。彼等はこちらに向かって来ているのだな」
「はい」
「迎え撃つ。全軍攻撃態勢に入れ、いいな」
「わかりました」
 彼はその下にある全ての艦艇に戦闘用意を命じた。そしてその場で陣を整え敵を待ち構えたのであった。
 彼は陣を敷く際左にアステロイド帯がある場所を選んでいた。そしてその後ろには恒星があった。それで双方からの敵襲を防いでいたのであった。理に適った布陣であった。
 そのまま敵を待つ。やがて前方に敵の艦隊が姿を現わした。
「数は」
「五十隻程です」
「そうか、報告通りだな」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「では予定通り作戦を執り行う。よいな」
「了解」
 まずタンホイザーは艦隊を前に出してきた。そして一度攻撃を交えた。
 すぐに帝国軍は反撃を加えてくる。タンホイザーはそれを受けるとすぐに退却を命じた。
「ひけ」
 それに従い彼の軍は兵を退く。帝国軍はそれを見て彼等が敗れたものと認識した。
 すぐに追撃を仕掛けてきた。だがこれこそがタンホイザーの狙いであった。
「よし、今だ!」
 彼は突如として叫んだ。
「攻撃開始!」
 その声と共にアステロイド帯からビームとミサイルの斉射が加えられた。帝国軍はこれを右側面にまともに受けた。
「攻撃成功です!」
 それを見た部下達が言う。見れば敵軍はその奇襲により混乱状態に陥っていた。
 本軍も反転する。そして帝国軍への攻撃に参加する。これで戦いの趨勢は決まった。
 戦いはタンホイザーの軍の圧勝に終わった。帝国軍はその艦艇の大半を失い残った者も多くが捕虜となった。これによりタンホイザーは周辺星系の大部分を手中に収めることとなった。
 だが彼はこれで満足してはいなかった。すぐに次の手を打った。
「まずはこの一帯とニュルンベルクのルートを確かなものとする」
 彼は言った。
「ニュルンベルクを拠点とされてですな」
「そうだ。そしてそこから北上し帝国軍の後背を衝いていくぞ。よいな」
「了解」
 こうして作戦は決定した。タンホイザーは艦隊をさらに一個設けると共に戦力を充実させ、そのうえで北上を開始した。そしてそのまま帝国軍の星系を侵食していったのである。 
 その間多くの情報が入ってきた。その中で一つ気になるものがあった。
「パルジファル=モンサルヴァート」
「御存知でしょうか」
「聞いたことはある」
 タンホイザーはラインマルの言葉に応えた。
「確か兵器の密売商人だったな」
「はい」
「顔を仮面で隠していて男か女かもわからないと聞いているが」
「その彼が何かと動き回っているそうです」
「動いているのか」
「はい。トリスタン=フォン=カレオール博士の軍の立ち上げに全面的に協力したそうですし」
「カレオール博士のか」
 タンホイザーはそれを聞いてまた考える顔になった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧