| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第5章:幽世と魔導師
  第159話「追い込まれる」

 
前書き
実は司が一般人を隔離した結界内からは、シュラインが(余計な)気を利かせて、司の戦闘がサーチャーで見れるようになっています(今更)。イメージとしては、空中投影型のライブ放送です。
 

 






       =椿side=







 悪路王が京都に向かったのを見送り、改めて私たちは優輝を起こしに向かう。
 まだ優輝を守っていた結界は健在で、他の妖に襲われる事もなかった。

「………」

 だけど、その途中で私は足を止める事になる。

「……かやちゃん」

「ええ。……まだ、終わらないみたいね」

 振り返る。
 そこには、薔薇姫が持っていた瘴気が、そのまま残っていた。

「……なるほどね。あの薔薇姫は、他の守護者や妖と違って、幽世の門を基点としていない。だから、ただ倒しただけだと……」

「瘴気が、残るって訳だね……」

 “薔薇姫”という器は、既に葵に還元された。
 でも、その器を動かしていた瘴気はそのまま残っていた。
 私の術で多少は削れていたけど、ほとんどそのままだった。

「……葵、転移魔法で優輝を連れて逃げられる?」

「安全第一って訳だね。……でもごめん。既に瘴気に妨害されているし、式姫の力が戻ったばかりなのか、魔法そのものが安定しないんだ」

「そう……」

 出来れば優輝だけでもアースラか、そうでなくとも安全地帯に連れて行きたかったけど、それができないのなら仕方ない。

「守り抜くわよ」

「……了解……!」

 葵がそう答えるとほぼ同時に、瘴気は辺り一帯を覆うように広がる。
 そして、現れるのは……。

「……質より量、って所かしら?」

「守りの戦いだと、確かにそっちのが有効だけど、やられる身からすれば厄介すぎるね……」

 瘴気から生まれる大量の妖。
 現在進行形で生れ落ちているからか、今は数が少ない。
 でも、すぐに処理が追いつかなくなるかもしれない。

「……やるしか、ないわね」

「……そうだね」

 霊力を矢の形にし、同じく弓の形にした霊力に番える。
 妖の出現は瘴気がある限り続くだろう。だから、瘴気を消せば終わるだろうけど……。
 この出現頻度だと、倒すのだけで精一杯だろう。

「(……早く目を覚まして、優輝……!)」

 新たな力を得ても拭えない疲労を感じながら、私達は再び戦いに身を投じた。

















       =司side=







「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

     ズゥウウン……

 山に巻きつけそうな程の巨体が、地面に沈む。
 全力で押し切ったものの、ようやく倒せた……。

「……結界で隔離して、正解だった……」

 結界内は、完全に荒れ果てていた。
 建物は灰塵、または瓦礫と化し、まさに終末を連想するような風景になっていた。

「あんなタフだなんて……」

 最初の一撃で、既にだいぶダメージを与えていたはず。
 それでも、私に対して滅茶苦茶抵抗してきた。
 ……まぁ、ジュエルシードがあるから、攻撃は全部躱すか防ぐかして、全力の砲撃で頭を消し飛ばしたけど……。
 結構、時間が掛かってしまった。

「祠を探して……と」

 祠を探し出す……のも面倒なので、広範囲に封印を施す。
 これで、安全になったはず……。

「まずは私の結界を。次に……」

 先に私と龍を隔離していた結界を解除する。
 結界が消え、無事な姿を見せた周りの建物を見てから、もう一つの結界も解除する。

「か、勝った……のか……?」

「……シュライン?」

〈彼らにも状況がわかるように、映像を結界内に投影しておきました〉

 戻ってきた一般人たちの私を見る目が変に見えたので、シュラインに尋ねると、そういった返答が返ってきた。
 勝手な事を……と思ったけど、ある程度の説明が省けるので、都合がいい。

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

「っ!?」

 そう考えていた所への、突然の歓声。
 思わずびっくりしてしまったが、どうやら対象は私らしい。

〈片や襲い掛かってきた巨大な龍。片や聖女のような装いの、自分達を守った少女。……応援するならば、当然後者です。そして、そんな存在が勝ったとあれば、歓声も上げるでしょう〉

「人の心理ってそんなものなんだ……」

 まぁ、うん。自分で言うのもなんだけど、見た目的には味方としか思えないよね。
 そんな私が勝ったんだから、一般人の人達にとっては、勇者が魔王を倒したみたいなものだよね。

「(……喜んでくれてる所悪いけど、早い所移動しないとね)」

 妖が日本中に広がった時から、私が感じていた気配。
 それは大門の守護者だった。
 とんでもない力なのに、中身がまるでないような、そんな感覚で怖がってしまい、優輝君を心配させちゃったけど……。

「(……優輝君も、守護者も、遠くに移動している。転移じゃないとすぐには追いつけないかな)」

 今は、逆に優輝君が心配だ。
 格上の相手だろうと勝って見せる優輝君が、勝てるか分からないと、自信なさげにする程の相手なんだ。……早く援護に向かわないとね。

「『シュライン、アースラに通信を繋いで』」

〈『分かりました』〉

 多分、私が戦闘を終了したのはアースラも気づいているはず。
 指示や状況を確認するためにも、まずは通信を繋げた。

「ジュエルシード、一応索敵を」

 チカリとジュエルシードは光り、散り散りに飛んでいった。
 微弱な魔力を広げ、レーダーとして妖がいないか探ってくれるのだ。

〈『マスター、繋がりました』〉

「『じゃあ、一旦帰還しよう』」

 この場で情報のやり取りをするのは、周りの事を考えると得策じゃない。
 説明は他の人に丸投げして、私はアースラに帰還する事にする。

「…………」

 一言、周りの人達に掛けてから転移しようとして、やめる。
 皆、遠巻きに見ているだけだし、気の利いた言葉が思い浮かばなかった。





「状況は!?」

「司ちゃん!」

 アースラに転移して、管制室に転がり込む。
 すぐ近くにいたエイミィさんに状況を尋ねる。

「司ちゃん!急いで現場に行って!座標はこっちで調整する!」

「は、はい!」

 状況は説明されなかった。
 いや、説明する暇もない程切迫した状況なんだろう。
 一瞬気づけなかったけど、クロノ君がこの場にいないという事は、クロノ君自身も出向かないといけない状況。
 ……そして、私にすぐ向かうように言ったのは、少しでも戦力が必要だから。

「……お願い」

「……はい……!」

 本来なら、簡潔にでも状況を説明しないといけないのだろう。
 それすら省く程焦っている……そう言う事なんだろう。

「(……優輝君)」

 そこまで行けば、どういった状況なのか自ずと分かる。
 ……優輝君一人では、守護者を倒せないのだろう。

「(……転移した直後から、全力で行かないとやられる……!)」

 相手は大門の守護者。
 何より、神降しをした優輝君ですら敵わない相手。
 ……油断なんて、一瞬たりともしてはいけない。

「っ………」

 ……覚悟を決めて、私は転送された。









   ―――ゾクッ……!



「ッッ……!?ジュエルシード!!」

 転移直後、体に走る悪寒から、即座にジュエルシードによる身体強化を施す。
 身の危険から起動したその身体強化は、本能から守るべきだと思ったため、驚異的な効果を発揮した。

「っ、そこ!!」

 そして、それだけの効果だからこそ、見逃す事はなかった。
 飛んできた御札を大きく躱し、発動した術を回避する。
 直後、感じ取った泥のような黒い気配に、即座に砲撃魔法を叩き込んだ。
 しかし、それは躱される。

「……大門の、守護者……!」

 その瘴気を見れば、嫌でもそうだとわかった。
 それに、優輝君のリヒトからも守護者の映像は送られていた。
 神降しでの戦いについていけない代わりに、情報伝達に徹していたらしい。

「(ここに単独でいるってことは、優輝君たちが負けたって事……!?)」

 あの圧倒的な力を持つ神降しですら敵わない相手。
 そんな相手に、私が挑む……。

「(……やるしか、ないよね……!)」

 怖い。でも、やらなければならない。
 優輝君にも、皆にも頼られた。
 信頼して、もしもの時を任された。
 以前のように背負い込むんじゃなくて、皆の期待に応えるために……。

「……行くよ!!!」

〈“Sublimation(シュブリマシオン)”〉

 その魔法を合図に、私は守護者に肉薄する。
 ……と言っても、中距離系の攻撃をするための間合いまで。
 さすがに最初から近接戦を仕掛けるほど、迂闊な真似はできない。
 優輝君達ぐらい、戦闘の経験があればいいんだけどね……。

「はっ!」

 掛け声一つでできるとは思えないほどの弾幕を繰り出す。
 出し惜しみや、長期戦を考えた魔力運用なんて考えてられない。
 大門の守護者相手に、そんな事をすれば確実に殺される。

「(やっぱり、あの時感じた虚ろな気配は守護者だった……!)」

 同時に、確信を得た。
 昨日、妖が現れたあの日に感じた、不気味なほど虚ろなあの気配の正体。
 それは、やはりというべきか、目の前の大門の守護者だった。

「ッ、嘘!?」

     ―――ギィイイイン!!

 一発一発が弱いとは言えない威力だったはず。
 そんな弾幕の中を、まさかそのまま突っ切ってくるなんて……!
 予め障壁を張れるようにしていなければ、今ので死んでいた所だった……!

「っ……!」

 考えを改める。
 どの距離であってもまともにぶつかり合えば私が負ける。
 近距離は元より、中距離・遠距離も関係なく、あの二刀で迫ってくる。
 戦うとしたら、なのはちゃん並の長距離か……。

「ッ、シュライン!!」

〈はい!〉

     ギィイイイン!!

 否、長距離もダメだ。
 転移魔法で距離を取った瞬間に矢が飛んできた。
 なんとかシュラインで反らしたものの、すぐに転移してなければ追撃が刺さっていた。

「(全ての距離が、ダメ……!だったら……!)」

 もう一つの戦法を取るしかない。
 その戦法は確かに上手く扱えば私の中で一番強い。
 でも、その代わりに扱いが難しい上に、天巫女としての負荷も大きい。
 ……だけど、やるしかない……!

「……!」

 まずは手始めに障壁と転移魔法の術式をいくつも用意して()()()
 ジュエルシードと天巫女の力があるからこそできる、魔法の“ストック”。
 いくつかぐらいなら優輝君とかもできるけど、それが何十個、何種類ともなれば、私にしかできない代物になる。

「ふっ……!」

 魔力弾を繰り出し、砲撃魔法を繰り出す。
 シュラインも構えて、突破されても凌げるように準備しておく。
 ……この戦法には、私にとっての利点がもう一つある。

「ッ……!!」

     ギギィイン!!

 それは、天巫女だからこそある、魔法発動のタイムラグが無効化できる事。
 事前に魔法を用意しているから、タイムラグを無視できるのだ。
 現に、神速の二撃を何とか凌ぐと同時に転移魔法で距離を離している。

「(大規模な魔法を放っても、無駄な隙を作るだけ。だったら……!)」

   ―――“étoile filante(エトワール・フィラント)

 魔力弾で、勝負する。
 さっきまでと違い、威力も並の砲撃魔法よりも上だ。
 これなら、さっきみたいにあっさりと突破される事はないはず……!

「(でも、こうなると……!)」

   ―――“Barrière(バリエラ)

     ギギギィイイイン!!!

「ッッ……!(貫通力の高い攻撃を、してくる……!)」

 ストックしていた魔法を発動させ、飛んできた矢を防ぐ。
 わかっていた事だ。これでどうにか出来たのなら、優輝君が負けるはずがない。

「(でも、こんなあっさり貫通してくるなんて想定外かな……!)」

 障壁には大きく罅が入り、止めてはいたものの、矢は貫通していた。
 後一発矢が多ければ、障壁は破られていただろう。

「(それに、問題はこれだけじゃない)」

 転移し、設置型の砲撃魔法で牽制しつつ、守護者の動きを見る。
 そんな守護者にまとわりつくように、瘴気が蠢いていた。

「(……あれがまだ動いていないということは、絶対にこれだけでは終わらない……!)」

 その事実を理解すると同時に、攻撃を防ぎ、躱し、転移で間合いを取る。
 そして、その度に恐怖心が積もっていく。

「(……怖い)」

 今まで、ここまでの恐怖を感じた“人”はいなかった。
 カタストロフのような次元犯罪者は、ここまで強くはなかったし、私より互角以下の時が多かった。何より殺意が守護者と比べたら圧倒的に弱かった。
 アンラ・マンユはまず人じゃないし、“そういう存在”だと捉えていたから、例え負のエネルギーの塊だったとしても、真正面から受けて立てば恐怖は湧かなかった。……と、言うよりはあの時は死ぬ覚悟を決めてたからかな。

 ……でも、大門の守護者はそのどれとも違う。
 まず、殺意や殺気がこれまでとは段違い……というよりは、一点に集中している。
 アンラ・マンユのように無差別ではない。
 そして、そんな殺意や殺気を伴い、攻撃してくるのだ。
 正直言って、かなり場数を踏んでないと、あっと言う間に殺気に呑まれてしまう。

「(……もし、優輝君達に“殺気を耐える特訓”を受けていなかったら……)」

 実戦でもアリシアちゃんたちが戦えるように、実戦での“空気”を作り出す特訓を、私たちも交えて何度もやっていた。
 優輝君達の殺気を何度も受けてきたからこそ、“怖い”で済んでいる。

「ッ……!ッ……!」

 転移し、シュラインで矢を弾き、転移と同時に魔法で霊術を相殺する。
 決してまともにはぶつかり合わない。
 ……そんな事をすれば、絶対に障壁も何もかも突破してくるだろうから。

「(……言ってはなんだけど、この大門の守護者は優輝君の上位互換のようなもの……!力の保有量がまず違う……!そのせいで基本火力も高い……!)」

 私の放つ魔力弾を、切り裂いて相殺。
 そんな事は優輝君すらあまりしない。
 したとしても、それなりに強い魔法ででしかやらない。

「(だったら……!)」

 でも、だからと言って私にそれ以上の手がない訳じゃない。
 魔力弾は効かず、砲撃魔法は当てられない。
 拘束魔法は霊力であっさりと破られる。
 ……だとすれば、それ以外の魔法を使えばいい。

「(回避も相殺も出来ない魔法を放つ!!)」

   ―――“poussée(プーセ)

     ズンッ……!!

 その魔法は、所謂“重力魔法”。
 普通に術式を組み、行使するには複雑な術式と膨大な魔力が必要な大魔法。
 それを祈祷顕現の力で術式を編む過程を省き、一気に発動させる。
 この魔法は範囲内であれば回避も相殺も許さない。
 出来るとしたら、耐えるための“防御”だけ。
 あの優輝君ですら、対策では防御で耐え凌ぐ事しかできなかった。
 抜け出すには、転移か術式を破壊するしかない。

「(これで……!!)」

 これならば、さすがの守護者も動きが制限される。
 完全に止められないのは少し驚いたけど……。
 ともかく、これで明確な隙が出来た。
 重力魔法の範囲内だと拘束魔法は術式が壊れて発動しない。
 でも、動きが制限されている今なら、砲撃魔法が通じる!

「光よ、闇を祓え!!」

   ―――“Sacré clarte(サクレ・クラルテ)

 極光が守護者に向けて放たれる。
 これならば、防御も相殺もされないはず。

「ッ……!?」

   ―――“侵瘴(しんしょう)
   ―――“光吞瘴気(こうてんしょうき)

 ……そう考えたのは、油断だったのだろうか。
 守護者は、瘴気を放出してその窮地を脱してきた。
 まず、重力魔法の術式が瘴気に蝕まれて崩壊。
 そして、直撃の範囲内から避けた上で私の砲撃を瘴気で呑み込もうとしてきた。

「ぁ……ぁ……!?」

 その瘴気を直視して、恐怖心が一気に膨れがあった。

〈マスター!〉

「っ……!」

 だけど、私は天巫女だ。
 あのアンラ・マンユと相対できる力を持っている。
 シュラインの言葉ですぐに正気に戻り、転移でその場から移動する。
 寸前までいた場所が霊術の炎で焼き尽くされ、転移先でも矢を防ぐ。

「(危なかった……!)」

 転移魔法のストックを増やしつつ、転移で躱し続ける。
 転移を繰り返しているおかげか、守護者も無闇に近接戦を仕掛けてこない。
 それだけは救いだったけど、それ以上に厄介な事になった。

「(ここで瘴気を動かしてくるんだ……)」

 少しだけあった希望に、さらに陰りが差す。
 負けると思ってはならないと分かっていても、それでも希望が潰えそうになる。

「(ダメダメダメ!まだ負けると決まってないのに、諦められない!)」

 そんな暗い気持ちを振り払い、目の前のことに集中する。
 一見、さっきまでと状況は変わらない攻防が続いている。
 ストックした魔法で攻撃を凌ぎつつ、遠距離魔法で攻撃をし続ける。
 安定しているように見えるけど、瘴気がある時点でそんなのは簡単に瓦解する。

「っ、っ!ジュエルシード!!」

 転移を重ねても無駄だと言わんばかりに、瘴気は触手となって辺りを薙ぎ払う。
 そうなれば、瘴気がまき散らされ、被害がとんでもないことになってしまう。
 それはまずい。だから私は受け止めるために魔力を放出。
 障壁を重ね、その触手を受け止める。

「(してやられた!私を一か所に留めるために、態と!)」

 転移で躱し続ける事に、私はほとんど負担はない。
 何せ、その負担はほぼ全てジュエルシードが請け負ってくれている。
 対し、守護者はずっと連戦で攻撃を放ち続けている。
 さすがに守護者も無尽蔵の体力じゃないのだろう。
 攻撃も戦闘開始時より若干鋭さがぶれている。
 ……だから、私の動きを止めた。

「ッッ!!」

〈“Barrière(バリエラ)”!!〉

   ―――“弓技・金剛矢(こんごうや)-真髄-”、“弓技・重ね矢-真髄-”、“弓技・智賢征矢(ちけんそや)-真髄-”
   ―――“火焔旋風-真髄-”、“氷血旋風-真髄-”、“極鎌鼬-真髄-”、

     ギギギギギィイイン!!

 そう気づいた時には遅かった。
 シュラインが、ストックしていた障壁の半分ほどを展開してくれる。
 そこへ、次々と霊術や矢が突き刺さった。
 その一撃一撃が非常に重く鋭く、障壁が何枚か割られてしまう。

「ッ……!?」

〈させません!!〉

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”
   ―――“Barrière(バリエラ)

     ギギィイイイン!!

 だけど、それは囮だった。
 回り込むように、一瞬で間合いを詰められる。そして、二刀による斬撃が放たれた。
 気づいた時には私の判断力では防ぎきれなかった。
 シュラインのおかげで、何とか障壁は間に合う。

「(恐れていた近接戦……!でも、やるしかない!)」

 剣の腕は優輝君や葵ちゃん、蓮さんをも超える程。
 しかも、二刀流だ。手数の差でも私の方が劣る。

「ジュエルシード!!」

 ジュエルシード全てを援護に回す。
 個数と同じ数の、25の砲門を展開。それらから砲撃魔法を次々と放つ。
 それらは瘴気の攻撃を相殺し、牽制として守護者にも打ち込んでくれる。

「ッ、ァ……!!」

「……!!」

     ギギギギィイン!!

「ッ!」

     ドンッ!!

 やはり、少し交えただけで理解できた。
 少しでも剣戟が長引けば、障壁を張る間もなく私は斬られていた。
 それほどまでに速く、鋭く、重い連撃だった。
 もし、砲撃魔法による援護がなければ、私は逃げに徹していただろう。

「(早く、もっと速く!!)」

 祈りを強くし、さらに速く動く。
 そうでもしなければ、守護者とまともに打ち合えない。
 それだけ、近接戦では大きな差があった。
 ……剣道三倍段なんて目じゃなかった。彼女は、私の三倍どころか遥か高みにいる。

「ふっ……!!」

     ギギィイイン!!

 私が守護者と近接戦をして未だに無傷でいられるのは、偏に相性の問題だろう。
 先ほども言った通り、剣道三倍段という言葉があるように、刀と槍では槍の方が優位に立ちやすいようになっている。
 その優位性が、この場でも働いており、そのおかげで何とかなっている。
 ……逆に言えば、“何とかなる”までしか行っていない。

     ドン!ドン!ドン!

「くっ、せぁああっ!!」

 転移を繰り返し、攻撃を凌ぎ続ける。
 だけど、相手は守護者自身だけじゃない。瘴気もある。
 守護者が操作しているのか、ジュエルシードの砲撃を瘴気の触手が掻い潜ってくる。
 他の触手を相殺しつつ、魔力で一気に薙ぎ払う。

〈“Barrière(バリエラ)”〉

     ギィイイイイン!!

「ッ……!」

   ―――“刀技・紅蓮光刃-真髄-”

「嘘……!?」

 たった一つの技で、アンラ・マンユの攻撃も防げる障壁が破られた。
 まずい、これは致命的な隙……!

「っ、ぁああああ!!」

 咄嗟に、ジュエルシードによる砲撃魔法を私と守護者の間に着弾させる。
 多少のダメージが私にも入るけど、このまま斬られるのよりはマシだ。

「ッッ……!」

 ……でも、そんな事をして間合いを取れば、守護者に付け入る隙を与えるだけだった。
 間合いが離れた瞬間、守護者は手始めに瘴気を矢に込めて放ってくる。

「シュライン!!」

〈“Barrière(バリエラ)”!〉

   ―――“弓奥義・朱雀落-瘴-”

     ギィイイイイイイン!!!

 その矢の攻撃に、私は障壁越しに仰け反ってしまう。
 障壁にも罅が入り、何かしらの一撃ですぐに崩壊するだろう。
 ……その障壁越しに、集束する瘴気が見えた。

「まずい……!」

 回避は論外。周囲への被害が途轍もない事になる。
 防御はただただ隙を晒すだけ。あの瘴気と守護者は別々で動けるから。
 ……迎撃及び相殺しか、ない。

「呑み込め、瘴気……!」

   ―――“禍式(まがしき)束瘴波(そくしょうは)

「撃ち抜け、極光よ!!」

〈“Sacré lueur de sétoiles(サクレ・リュエール・デ・ゼトワール)”〉

 集束した瘴気の波動と、私の砲撃魔法がぶつかり合った。
 いくら大門の守護者が持つ瘴気と束ねたとはいえ、私が放ったのはあのアンラ・マンユにもダメージが入る砲撃。まず撃ち負ける事はない。






   ―――なんて、そんな事を考えてしまったからだろうか?



〈マスター!!〉

「ッ!?」

 砲撃を貫き、瘴気を大きく削った瞬間、守護者が私の懐へ肉薄しているのに気付いた。

   ―――“Barrière(バリエラ)
   ―――“極鎌鼬-真髄-”
   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

「しまっ……!?」

 ストックしていた障壁を繰り出し、攻撃を阻止しようとする。
 だけど、読まれていた。
 風の霊術を使い、加速系の霊術も併せて瞬間的に加速。
 ……一瞬にして、私の背後に回り込まれた。

「ッ……!!」

 ギリギリ。刃が皮膚に食い込む瞬間に、ストックしていた転移魔法が間に合う。
 だけど、それのせいで恐怖心が膨れ上がり、身体強化の効果が落ちる。

「なっ……!?」

 さらに、そこに追撃。
 それは矢ではなく、投擲された斧。
 しかも、タイミング的に転移先を先読み……いや、誘導されていた。

     ギィイン!!

「ぐぅぅ……!」

「ふっ……!」

「っ、ぁああっ!?」

 斧をシュラインで防ぐ。……防いでしまった。
 そこへ瞬時に間合いを詰めてきた守護者が刀を振るう。
 何とか斧を逸らし、刀自体は防げたものの、そこまでだった。
 霊力の放出に私は吹き飛ばされ、木々を倒しながら地面に激突する。

「ぐ……ぁ……」

〈マスター!!〉

「っ……!」

 地面に仰向けに倒れる私に、矢が撃ち込まれる。
 シュラインの警告がなければ、ストックしていた転移魔法で避けられなかった。

「(……あ……ダメだ……)」

 でも、転移先にさらに間合いを詰めてきた守護者を見て、避けられないと悟る。

   ―――“Barrière(バリエラ)
   ―――“戦技・金剛撃-真髄-”

「ッ、ァ……!?」

 ストックしていた障壁が展開されるけど、一瞬とは言え戦意喪失した私の祈りでは、その障壁はとても脆いもので、突き破られると同時に私は吹き飛んだ。
 攻撃の衝撃で息が吐き出され、声にならない叫びが出る。
 そして、そのまま地面を転がった。

「……お、おい……嘘だろ……?」

「(この、声は……しまった……!)」

 倒れ伏す私に、聞き覚えのある声が聞こえた。
 視界に、声の主である人物の赤い服が見える。

「司が……司が負けたのか!?」

「逃げ……て……!ヴィータちゃん……皆……!!」

 その人物……ヴィータちゃんだけじゃない。
 どれだけいるのか他の妖で良く見えないけど、いつもの皆がいた。
 守護者は追ってくる。そして、妖もいるこの状況では皆でも敵わない。
 私は、ただ負けただけではなく、追い込まれたのだ。この状況に。

















   ―――絶望が、すぐそこにあった。

















 
 

 
後書き
poussée(プーセ)…“圧力”のフランス語。範囲を指定し、その範囲内に重力による圧力をかける魔法。非常に強力な効果だが、その分魔力消費が大きい。

侵瘴…瘴気による術式の浸食。その術式が例え魔法のものだとしても効果を発揮する。浸食されると、乗っ取られるか瓦解する。魔法の場合は瓦解のみ。

光吞瘴気…文字通り光さえも呑み込む瘴気を放つ。攻撃にも使えるが、専ら防御に使われる。光を放つものに対しては効果が大きく、これによって司の魔法はほぼ無効化された。

弓技・金剛矢…筋力による防御無視ダメージの大きい突属性の二回攻撃。“金剛”の名に恥じない矢を二回撃ち込む。

弓技・智賢征矢…知力と器用さによる防御無視ダメージが大きい突属性の三回攻撃。重ね矢の上位互換のようなもので、放つごとに威力が上がる。

禍式・束瘴波…大門の守護者の瘴気を束ね、砲撃のように放つ術。威力のみでも相当な強さを持ち、そこへ瘴気の特徴が加わる事で、迎撃か相殺しか選択肢が取れない術になる。


緋雪との戦闘後、何気に緋雪が封じたもう一刀を回収しているため、守護者は再び二刀流になっています。
今更ですが、何気に優輝の“剣の腕”は飛び抜けて凄い訳じゃありません。“導王流”という流派がチート級に強いだけで、剣そのものの腕は恭也に大きく劣ります。レイピアに限れば葵にも劣ります。研鑽の量で、剣の腕が優れているのは蓮の方だったりします。
なお、導王流の場合、剣道三倍段(本来の意味含む)の理論を無視できます。真髄に至れば剣を持つより素手の方が強かったり……。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧