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真田十勇士

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巻ノ百三十六 堺の南でその六

「先の戦と同じく二十万の軍勢が」
「そうか、大御所殿も来られておるな」
「御自らが」
「では余も受けて立ちな」
「ご出陣もですか」
「せねばな、そして皆と共にうって出てじゃ」
 そうしてというのだ。
「千の祖父殿、余にとっても義理の祖父殿だが」
「互いに死合うことも」
「覚悟するか」
「そこまでお考えですか」
「他の者達が戦っておるのに余だけ安穏としていられるか」
 秀頼の言葉が強いものになった、普段の彼からは想像出来ないものだった。
「だからじゃ、余も馬に乗りな」
「そうしてですか」
「戦う、そしてじゃ」
「大御所殿とですか」
「雌雄を決しようぞ」
 秀頼も決意を固めていた、そのうえでこれからの戦のことを見据えていた。その戦はまずは堺ではじまった。
 堺の者達は豊臣の軍勢が来ると皆逃げていた、治房はその町に火を点けて焼かせその燃える様を見つつ言った。
「幕府につこうとするならな」
「こうしたこともですな」
「仕方ありませぬな」
「町を焼くことも」
「そのことも」
「そうじゃ、我等が勝てばまた興してやる」
 堺の町をというのだ。
「しかし今はな」
「幕府につくならばですな」
「放ってはおけぬ」
「だから町を焼き」
「幕府につかぬ様にしておきますか」
「こうしてな、そしてじゃが」
 治房は馬上から燃える堺の町を見つつ己の家臣達に話した。
「これより浅野家の軍勢が来るが」
「迎え討ちますな」
「やはり幕府に味方する岸和田城を囲むと共に」
「そうしてですな」
「主力は岸和田よりさらに南に進み」
「そこで浅野家の軍勢を迎え討ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「退けるぞ、そうしてじゃ」
「紀伊から来る軍勢を防ぎ」
「そのうえで、ですな」
「平野川から来るであろう幕府の軍勢と戦う」
「そうしますな」
「もう城は裸城で兵も減った」
 この二つのことは治房の両肩にも重くのしかかっていた、敗れる要素として彼の脳裏から離れていなかった。
「だからな」
「ここは、ですな」
「浅野家の軍勢を退け」
「そうしてですな」
「平野の川を渡って来る幕府の主力とも戦いますな」
「返す刀で」
「そうする、余裕はないのじゃ」
 自分達にはというのだ。
「だからな」
「岸和田も紀伊も」
「両方ですな」
「勝たねばなりませぬな」
「何があろうとも」
「そうじゃ、ましてや浅野家はな」
 今度は南の紀伊の方を見てだ、治房は目を怒らせて言った。その怒りは誰が見ても明らかなものだった。
「豊臣家にとっては譜代中の譜代じゃ」
「ですな、それがです」
「幕府につくとは」
「許せませぬ」
「そうじゃ、だからじゃ」
 それ故にと言うのだった。
「ここはな」
「一気に南下し」
「そうしてですな」
「浅野家を討ちますか」
「その軍勢を」
「そして出来ればじゃ」
 紀伊の方を見て言う治房だった、そのまま。 
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