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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第157話「底知れぬ瘴気」

 
前書き
再びVS大門の守護者。
ただし、京都での戦闘の影響もあるようで……?
 

 






       =緋雪side=







「はぁ……はぁ……はぁ……」

〈お嬢様……〉

 肩で息をしているのを、何とか整える。
 確かに、決定的な一撃を守護者に与える事はできた。でも……。

「……まだ、終わってない」

〈……そのようですね〉

 霊力の気配はまだ消えていない。そのことから、倒せていないのがわかる。
 すぐに跳躍。一気に吹き飛ばした先まで飛ぶ。

「(刀は一刀だけとはいえ、封じた。もう一刀は弾き飛ばしたせいで封印し損ねたけど、これで二刀の脅威はなくなったとも言える)」

 それだけで、十分戦力の差を縮める事ができた。
 ……やっぱり、四神とお兄ちゃんが戦ってくれたおかげかな。

「(でも、油断は禁物)」

 守護者は……とこよさんは、追い詰められてからが本番な人だ。
 お兄ちゃんのように、どんな劣勢でも諦めることはせずに、勝利をもぎ取っていく。
 ……例え、それは守護者としての器だけの存在でも、変わらない。

「はぁっ!!」

〈“Scarlet arrow(スカーレットアロー)”〉

 吹き飛ばした箇所へ、魔力の矢を叩き込む。
 ……切り裂かれる。やはり、まだ終わってなかった。
 弾き飛ばした刀はやっぱり回収されてしまったようだ。

「はぁあああっ!!」

     ドンッ!!

 速鳥や神速を掛けなおし、一気に間合いを詰めてシャルを振るう。
 こうなれば、守護者の取る行動は大きく分けて二つ。
 避けるか……。

     ギィイン!!

「ッ……!」

 ……受け流すか、だ。

「“呪黒剣”!!」

「……!」

   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

 受け流された瞬間に、反撃を受けないように黒い剣を生やす。
 それを避けるように守護者は跳躍。私に対して矢を放ってくる。

「はっ!」

     ギィイン!!

 だけど、それは簡単に弾ける。
 そして、何よりも空中に無闇に飛ばれたら……。

「恰好の、的だね!」

〈“Zerstörung(ツェアシュテールング)”〉

     ドドドドォオオン!!

 連続で“瞳”を握り潰す。
 さすがに、守護者を直接爆発させようとしても、避けられるだろう。
 実際、そうなったし、だから連続で爆発させる。
 これで、ダメージは逃れられないはず。

「ッ!」

〈お嬢様!〉

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

 確かにダメージは与えた。でも、その状態から矢が放たれる。
 焔を纏ったその矢は、当たれば私でも一溜りもないだろう。
 ……だから、弾く……!

「斬り払え!焔閃!!」

〈“Lævateinn(レーヴァテイン)”!〉

     ギィイイイン!!

 焔を纏った大剣が、矢を弾く。

「唸れ!」

   ―――“Sturmwind(シュトゥルムヴィント)

 同時に羽の黄緑色の宝石に込めた術式を起動。
 未だに空中にいる守護者めがけて風の刃を大量に放つ。

「っ……!」

「逃がさない!」

 霊力を足場に宙を蹴り、守護者は即座に地面に降りる。
 そして、風の刃を回避しながらも私に近づこうとしてくる。
 もちろん、私はそれを阻止するために魔力弾を放つ。

     ギィイイイン!!

「っ……!」

 尤も、そんな事をしても近づかれる時は近づかれるんだけどね。
 鍔迫り合いにまで持ち込まれたけど、大丈夫。
 ただでさえ“力”なら私の方が上なのに、私の攻撃で万全の体勢ではなかった。
 ……やっぱり、動きが鈍くなっている。

「はぁっ!」

「ッッ……!」

   ―――“呪黒剣”

 お互いに鍔迫り合いの状態から術式を起動する。
 至近距離で術同士はぶつかり合い、相殺される。
 残ったのは、私が退路を断つために守護者の背後に放った呪黒剣だけ。
 もちろん、その分、術式の数が足りずに私の体にはいくつもの術による傷が出来た。
 でも、私の体なら再生するし、そこまで気にしない。……痛いけどね。

「ふっ!」

「っ!」

 魔法陣を目の前に展開し、守護者の首を刈るようにシャルを振るう。
 当然、それはしゃがんで躱される。でも、目的は別にある。
 シャルを振るった勢いのまま、体を回転させる。
 これで、守護者は“上に避ける”選択肢が潰された上に、退路を断たれた。
 そのまま、回し蹴りを魔法陣に叩き込み、術式を起動させる!

「いっけぇえええええ!!」

〈“Durchbohren Beschießung(ドルヒボーレンベシースング)”〉

 お兄ちゃんが使っていた魔法は、私も頑張って習得した。
 これも、その一つ。その威力は、当然ながら高い!

「ッッ!!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 避ける事ができない守護者は、障壁で凌ごうとする。
 でもね、実はその魔法。とこよさんのお墨付きの威力なんだ。

 ……咄嗟に張った障壁程度、突き破るよ!

     ドンッ!!

「ッァ……!?」

 障壁でほとんど威力が殺されたとはいえ、砲撃魔法で守護者は吹き飛ぶ。
 さぁ、仕上げだ。ここから、一気に決める!

「ふふふ、あはは……!」

〈……お嬢様……?〉

 笑いが漏れる私に、シャルが訝しむ。
 まぁ、当然だよね。まるで、“狂う”かのようなんだから。

「あはは、あははははははは!!」

〈ッッ……!?〉

 でもね、安心してシャル。
 ……幽世にいた間。私が“狂気”に対して何もしていないと思う?

   ―――“緋狂(ひきょう)

「あははは……6割って所かなぁ……さぁて……!」

 術式を起動。ここからが本番だ。
 これで仕留めきれなければ、私がまずい。

「さぁ、さぁ、さぁ!!我が狂気は世界をも浸食する!人の罪、人の業の権化を今ここになそう!いざ、染め上げろ!我が狂気に!!」

   ―――“悲哀の狂気(Trauer wahnsinn)-タラワーヴァーンズィン-”

 ……世界が、狂気に満たされる。

〈これは……!?〉

「今となっては“狂気”も私の一部。立派な“武器”なの。だから大丈夫だよシャル。ちょっと高揚してテンションが上がるけど、前のようにはならないから!」

 それでも、笑みを浮かべている私を見れば、不安にはなるだろう。
 だから、ここは行動で大丈夫だと示さないとね。

「奔れ、波紋!」

「ッ……!」

 結界内の血色の水面に波紋がいくつも広がる。
 地面に足をつけている守護者は、その波紋の一つに触れ、即座に飛び上がった。

「やっぱり、守護者にもこれは効くんだ。まぁ、とこよさんがそうだったから、おかしくはないけどね!」

 その言葉と共に、大量の魔力弾を生成。
 雨あられのようにそれを繰り出し、守護者を追い詰める。
 今の守護者は、地面に足をつけることも出来ない状態。
 ここは私のホームグラウンドのようなものだから、一気に追い詰められる。

「穿て、神槍!」

〈“Gungnir(グングニル)”〉

 魔力弾を術や刀で相殺している所へ、槍を投げつける。
 同時に、魔法陣を蹴って私自身も肉薄する。

「っ!!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

「あはっ♪」

「ッ!?」

     ギィイイイン!!

 グングニルは障壁に阻まれるけど、それより早く私は背後に回り込んだ。
 そして、そのまま背後から斬りかかる。
 刀で受け止められるけど、これで守護者は挟み撃ちと同じ状況になる。
 ……こうなっても障壁の維持が完璧なのは流石だよね。

「ふっ!」

     ドンッ!

「ッ……!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 だけど、私は今、シャルを片手で振るっている。
 よって、その空いた手で魔力を衝撃波として放つ。
 辺りにはまだ魔力弾もあり、何より挟み撃ちの状況。
 守護者は為すすべなく吹き飛ばされ……そして、私が“瞳”を握り潰した。

「……ふぅん、片腕だけかぁ」

「ぐ、ぅ……!」

 さらに連続で“瞳”を握り潰そうとしたけど、術と斬撃が飛んできて阻止された。
 でも、それでも守護者の片腕は潰せたみたい。
 “破壊の瞳”による爆発で、守護者の左腕は千切れ飛んでいた。

「刀を一刀封じて、片腕も潰した。さぁて、守護者さんはここからどう足掻いてくれるのかな?ふふ、あははは……!」

 そこまで笑って、すぐに心を落ち着ける。
 いけないいけない。“緋狂”の悪い特徴だ。
 少しでも追い詰めると、こうやって油断するように笑ってしまう。
 まぁ、狂気を見せれば見せるだけ、波紋は増えるんだけどね。

「………」

「……?」

 術式を構築しつつ、守護者を警戒する。
 ……何か、仕掛けてきそうだね。

「……させないよ」

 魔力弾と魔法陣を展開。魔法陣から砲撃魔法を繰り出し、退路を断つように魔力弾を追従させて放つ。

   ―――“火焔旋風-真髄-”、“氷血旋風-真髄-”、“旋風地獄-真髄-”

「無駄だよ」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 三つの術式が荒れ狂うように私に迫る。
 牽制のつもりだったのだろうけど、真正面且つ間合いが離れているなら無意味だ。
 爆風で視界が遮られるけど、即座に魔力弾を守護者のいる位置に叩き込む。
 同時に、気配を探る。これで、どこから襲ってきても……。

「(……あれ?)」

 だけど、襲ってくる事はなかった。
 それどころか……。

「(距離を取っている……?)」

 波紋が広がる水面スレスレを、固めた霊力を蹴りながら守護者は駆けていた。
 距離を離す事でやれる事と言ったら、大まかには二つ。
 溜めの長い攻撃をするか、私に阻止される“何か”を行うか。
 どちらにしろ、私がそれを見す見す見逃す訳もなく、魔力弾を先行させる。
 同時に、私自身も駆けて追いつこうとする。

「っ……!」

「(これぐらいなら……!)」

 それを阻止しようと、魔力弾は霊術で、私には斬撃を飛ばしてくる。
 魔力弾はともかく、斬撃は躱す事ができる。防ぐ必要もない。







 ……でも、それが間違いだった。







   ―――“界裂斬(かいれつざん)





「ッ………!?」

〈これは……!?〉

 避けた斬撃。それはそのまま私の後ろへ……この結界(世界)の端へと飛んでいく。
 ……そして、一部とはいえ結界(世界)を切り裂いた。

「私の結界が……!?いや、それだけじゃない……!」

 別に、結界そのものが崩壊する訳じゃない。
 問題なのは、その裂け目から流れ込む霊気と……瘴気。

「させ……っ!」

 すぐさま結界に魔力を送り、裂け目を閉じようとする。
 ……だけど、一瞬遅かった。

「ァァアアアアアアアアッ!!」

「しまった……!」

 結界を張る前より濃くなった霊気と、遮断しておいた瘴気の供給が守護者へと吸い込まれるように、流れ込んでいく。

「(霊気も明らかに濃くなってる……どうして……?)」

 確かに、幽世と現世の均衡を保つためには現世側の霊気を濃くした方がいい。
 でも、それができる紫陽さんは、現世に“縁”がないから……。

「(……でも、明らかにこれは紫陽さんが“縁”を辿って現世側に来た証拠。……とにかく、紫陽さんがどうやって現世に来たのかは別に問題じゃない)」

 問題となるのは、また別の事だ。
 霊気……大気中の霊力が増えれば、確かに現世側に残っている式姫が力を取り戻したり、霊術の運用がしやすくなる。
 でも、同時に妖も強くなるのだ。
 ……それは、私が相手している大門の守護者も例外じゃない。

「……タイミング、悪すぎるよ紫陽さん……!」

 そして、過剰とも言えるほど瘴気も供給された。
 これは、おそらく守護者が守護者としての本気を出してくる証だろう。
 今までは守護者というより、“有城とこよ”としての本気だった。
 ……どっち道、せっかく追い詰めていたのに逆転されたということだ。

「(腕も再生。そして、ここからが本番とばかりに溢れさせる妖気。……冷や汗が止まらないね)」

 獣のように声を上げる守護者から、途轍もない威圧感が発せられる。
 これは、以前見たとこよさんの全力の殺気と同等だ。
 ……結界による日光の遮断で、不利状況を打ち消していた私でも、これはやばい。

「(……本来なら、私が仕留める予定だったのに……)」

 これだと、私では勝てないだろう。
 ……だったら、後に託すために、何としてでも守護者の体力を削る。

「シャル!カートリッジ全弾リロード!」

〈はい!〉

「最後まで、足掻かせてもらうよ!」

 覚悟を決める。制限時間まで戦えるとは思えない。
 ……でも、せめて私と戦う前ぐらいまでは、弱らせてもらうよ!

「奔れ、反響せよ!我が世界を、狂気で満たせ!波紋よ!!」

   ―――“緋色の波紋(Scharlachrot Kräuselung)-シャルラッハロート・クロイゼルング-”

 私の叫びを合図に、血色の波紋が沸き立つ。
 それは、水面だけに留まらず、結界内の空間全てに広がる。

「(とこよさんですら無事では済まない結界内での秘技!さぁ、どう対処する……!?)」

 碌に対処法がない相手なら、たちまち精神は狂気に侵され、崩壊する。
 とこよさんは、秘術・神禊で対処したけど、それでも精神ダメージが大きかった。
 それほど強力な精神攻撃だ。
 ちなみに、とこよさんにそんなダメージを与えたのはいいけど、それでも負ける。

「ッ、ァアアアアアアアアア!!」

「っ……まぁ、わかってたけどさ……!」

 とこよさん本人ですら凌いだんだ。
 妖となり、理性が削られている守護者には効果が薄いだろう。
 ……だとしても、瘴気を放出して波紋を相殺するなんて……。

「ッ……“緋狂”、10割!!」

 結界内はどうあっても私が有利だ。
 そうだというのに、私の秘技があっさりと凌がれている。
 だとすれば、相手に動かれたら防戦一方になってしまう。
 ……だから、動きが止まっている今が千載一遇のチャンス。

「ク……ハ、あハはははハハハハハ!!………ッッ!!」

 狂う、狂う、狂う。
 狂気に満たされ、()う。
 ……その狂気を、力へと変換する。

     ドンッ!!

「壊れちゃえ!死ね、死ね、死んじゃえ!!」

 魔力が膨れ上がる。巨大な魔法陣が展開される。
 これは、私の狂気。その全てを込めた魂の咆哮。

「これなるは悲哀の狂気で積み上げられた魂の咆哮……!!」

   ―――“狂気に染めし悲しみの紅(Lunatic Granatrot)-ルナティック・グラナートロート-”

 紅色の極光が、守護者へと迫る。
 狂気を吐き出したかのように、“緋狂”は解け、私は正気に戻る。

「(波紋で動きを封じている。少なくとも、躱される事はないはず)」

 波紋自体でダメージは与えていないけど、その場に留める事は出来ている。
 そこへ、私の使う魔法の中でもトップクラスの砲撃魔法を叩き込んだ。
 タイミング的にも、躱される事はないだろう。



 ……だから、多分。こうなるだろうとは、予想できた。





「ッ……!」

   ―――“戦技・斬撃印(ざんげきいん)-真髄-”
   ―――“森羅断空斬(しんらだんくうざん)-瘴-”

 研ぎ澄まされた一撃が、全てを切り裂く。

「ぐ、っ……!」

 身を捻り、直撃だけは躱す。
 魔法を放つのにその場に留まっていないとダメだったからね……。
 何とか切られたのは片腕だけに抑えたけど……。

「嘘、でしょ……!?」

 ……結界が、両断されてしまった。
 私の砲撃魔法を切り裂いただけでなく、結界まで……。

「(あの一撃だけは、絶対に食らえない……!)」

 さすがに連発はされないだろう。
 それを差し引いても、あの一撃は危険すぎる。

「ッ……!」

   ―――“速鳥”
   ―――“扇技・神速”
   ―――“斧技・瞬歩”
   ―――“剛力神輿”
   ―――“霊魔相乗”

 一気に術を自分に掛け、さらに霊魔相乗もやり直す。
 短期決戦。長期戦であればあるほど、私はダメージを与えるチャンスを失う。
 多くても掴み取りにくいチャンスよりも、少ないけど掴み取りやすいチャンスを、今は選ばせてもらう……!

「は、ぁあっ!!」

     ギィイイイン!!

 結界が崩壊していく中、宙を駆け、一気に斬りかかる。
 だけど、その一撃は瘴気の障壁で阻まれ、相殺されてしまう。

「っづぁっ!!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

     ドドドォオオオン!!

 そこから、何度も“瞳”を握り潰す。
 でも、それも瘴気に肩代わりされる。
 さらに、瘴気が触手となって、私を殴り飛ばそうとしてきた。

「はぁっ!!」

 それを、片手で殴り飛ばす。
 私の力は強化すれば全力のとこよさん相手でも上回れる。
 いくら大門の守護者の瘴気とはいえ、力負けする訳ではない。

「っ!」

     ギィイイン!!

 次の瞬間、殴った手を切り落とそうと下から刀が迫る。
 それを空いた片手でシャルを振るい、何とか防ぐ。
 直後に殴った手でシャルを抑え、力負けしないようにする。

「っと!!」

 そのまま跳躍。刀を振り上げようとする力で一気に上に飛ぶ。
 そうすることで、瘴気の攻撃を躱し、さらに魔力弾で牽制する。

「っっ……!」

 崩壊していく結界を魔力に還元。私の手元に集める。
 その間に、守護者は矢を放ってくる。
 身を捻り、それを躱して……。

「我が魔力、我が血を喰らいて奔れ!!」

   ―――“Blut Beschießung(ブルートベシースング)

 一気に、魔力を放った。
 それは、血色の砲撃となって、守護者へ降り注ぐ。
 さっきは刀で両断されたけど、二度も放置なんてしない。

「ふっ!」

 牽制に使っていた魔力弾はまだ残っている。
 それを使って、あの斬撃を放てないように牽制した。
 “破壊の瞳”の方がいいんだけど、砲撃で守護者が隠れている状態では使えない。

「ァアッ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 刀では斬れないと認識した守護者は、障壁を張って耐える。
 瘴気も伴って、私の砲撃を耐え抜こうとしてくる。

「っ、貫けぇええええ!!」

 さらに、力を上げる。これで、貫く……!

「ッッ……!?」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

 ……多分、砲撃は障壁を貫いたのだろう。
 だけど、同時に矢が砲撃を突っ切ってきた。
 焔を纏うその矢を、私は避けようとしたけど、左腕を持っていかれる。

「ぐ、く………!」

「はぁ……はぁ……」

 ……まぁ、片腕を持っていかれた甲斐はあった。
 あの矢は所謂“攻撃は最大の防御”とする一撃だったのだろう。
 実際、中心を突っ切ってきた。でも、だからと言って砲撃魔法を打ち消した訳じゃない。

「(……瘴気を貫いてのダメージ。これが限界かな)」

 直撃は避けたのだろうけど、余波のダメージは防ぎきれなかったのだろう。
 守護者の着物は所々が焼け焦げ、守護者自身も息を切らしていた。
 
「はぁっ、はぁっ、っ、ぁああっ!!」

 ……あれほどの砲撃魔法を放った私も、無事では済まない。
 反動で体が痛む。だけど、休む暇はないだろう。
 倒せなくとも体力を削る。そう決めたんだ。
 だから、最後の最後まで、私は足掻かせてもらう!

「はぁああああっ!!」

「っ……!」

     ギギギギィイン!!

 シャルによる連撃は、刀で捌かれてしまう。
 それもそのはず。手数は瘴気の触手がある分、私は大きく劣っているのだから。

「ぐっ……!?」

 そして、瘴気の触手の一撃を、まともに受けてしまう。
 ギリギリ体を捻る事で、威力を軽減したけど、私は大きく吹き飛ばされてしまう。

「ッッ……!」

 間髪入れずに、矢と術、そして瘴気の触手が襲い掛かる。
 すぐさま体勢を立て直してシャルで切り裂くけど……。

「まずっ……!」

 繰り出された矢にも御札が貼られていた。
 そして、その御札の術式が発動。咄嗟に飛び退いたけど、また吹き飛ばされる。

「あ……かはっ……!」

〈お嬢様!〉

 まずい。防御もままならない。
 先ほど吹き飛ばされた腕はその気になればもう再生できる。
 だからと言って、事態が好転する訳じゃない。

「ッ……!奔れ、虹光(こうこう)!」

   ―――“Regenbogen Gebrüll(レーゲンボーゲン・ゲブリュル)

 羽の宝石に込められた術式を全て開放する。
 足りない分は私自身が放ち、14筋の極光が守護者を襲う。

「逃がさない!」

 真正面から放ったのなら、避けられるのは当たり前だ。
 だからその対策は当然してある。
 速度が落ちる代わりに、誘導性を上げて、避けた所をさらに追尾させる。

「ッ!」

     ギィイイイン!!

 そんな制御をしている私に、斧が投擲されてきた。
 咄嗟に、片手でシャルを振るい、それを防ぐ。
 だけど、その斧には何かしらの術式と霊力が込められていて、投擲のはずなのに打ち落とせずにシャルと鍔迫り合った。

「ぐ、く……!」

 斧を片手で凌ぎつつ、砲撃魔法を操作する。
 さっきの砲撃魔法の負担で、体に痛みが走る。
 その瞬間、僅かに砲撃魔法の制御が甘くなり……。

「ッ……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

 砲撃魔法を打ち抜きながら、矢が迫る。
 今の私は、矢と斧に挟み撃ちされている状態だ。

「くっ……!」

     ギィイイイイイイン!!

 だから、何とか体を動かし、斧と矢をぶつけた。
 矢は斧を打ち落とし、私は守護者へと牽制の魔力弾を放とうとして……。

     ザンッ!!

「……え……?」

 上半身から下の感覚が、消え失せた。

「ふっ!」

「がっ……!?」

 そして、そのまま頭から踵落としを食らい、私は地面に叩きつけられた。

「ぐ、ぁ、ッ……!」

 遅れて、体を二つに両断された痛みが襲ってくる。
 尤も、痛みが激しすぎて、むしろ痛みが感じないほどだったけど。

「あ、は、は……確実に、私を仕留める気?」

 視界に映る守護者は、強力な術式を練っていた。
 それは、明らかに大霊術の予兆。
 よりによって、一時的とは言え瀕死に追い込んだ私に使うつもりだ。

「……っ、私のトドメは直接じゃなくても、いいって訳……!」

 そして、尚且つ。



 ……守護者は、既に私を眼中に入れていなかった。




「………」

 視線の先は、おそらく京都。
 ……紫陽さんが、いる場所だ。

「(そっか。守護者にとっても、幽世の神は脅威に値する。先にそっちを処理するべきだと、守護者としての本能が反応した……!)」

 ……でも、それが分かった所で、どうしようもない。
 彼女は、私を閉じ込めていくのだから。

「(……一度だけ見たことがある。あの術式は……多分)」

 そこまで考えた所で、術式が発動した。
 風景が切り替わっていく。
 周囲が昔の……江戸辺りの建物などに、変わっていく。
 それは、まるで私のタラワーヴァーンズィンのように、世界を塗り替えているようだ。

「(……やっぱり……!)」

 否、“ようだ”ではなく、まさにその通りだ。
 これを、幽世で一度だけ見させてもらった事がある。
 記憶に、心に強く残る風景、もしくは心象風景で、世界を塗り潰す霊術。
 ……それが、とこよさんの、切り札の一つ。



   ―――“我が愛しき魂の故郷(逢魔時退魔学園)



「(守護者は……いない……!)」

 でも、術者である守護者は結界内にいなかった。
 おそらく、もう京都の方へ向かっているのだろう。
 そして、代わりと言わんばかりに、四つの陣が出現する。

「っ、はぁ……!」

 召喚されるまでに、少しでも体を再生させておく。
 とりあえず、形だけでも下半身を再生。何とかその場に立ち上がる。

「(陣は四つ。つまり、召喚される式神は四体。一体、誰が……)」

 この結界は、守護者……とこよさんが知っている人物及び式姫を、一時的に式神として召喚し、使役できるようになっている。
 そして、今回は四体召喚されるということだ。

「(……見覚えはない。でも、多分この人達は……)」

 召喚されたのは、少女と女性の二人ずつ。
 以前見せてもらった時に召喚された式神や、幽世にいる式姫の誰でもなかった。
 でも、とこよさんから聞いた事がある四人に、特徴がそっくりだった。

「………」

 菫色の髪をピンクのリボンで纏め、とこよさんと同じ配色の着物と丈が短めの袴を着て、淡黄色の羽織を羽織っている少女。
 長い金髪で、赤と緑の細目のリボンで一部の髪を纏めて降ろしており、鶴のような模様が刺繍された橙の着物と丈の短い淡黄色の袴を浅黄色の帯で締めた、気丈な面持ちの少女。
 紫の布で装飾された簪を洋紅色の髪に着け、赤い着物に淡黄色の羽織を江戸茶色の細い帯で締めた、凛とした佇まいの女性。
 紺色の髪を大きな簪で結って前に降し、白い着物と橙黄色の袴を紫の帯で締め、白い毛皮のマフラーのようなものを纏う、妙齢の女性。
 ……やっぱり、知っている。

「(……百花文(ももかふみ)土御門澄姫(つちみかどすみき)三善八重(みよしやえ)吉備泉(きびのいずみ)……。皆、とこよさんが仲の良かった人達……)」

 記憶を見せる霊術で、とこよさんに見せてもらった事のある人たちばかりだ。
 そして、この四人は一人を除いて……。

「ッ……!」

 ……強い。

「………やるしか、ないんだね……」

 刀の一撃を避けた所へ、炎の霊術、矢の追撃が来る。
 それらを何とか避け、再び私はシャルを構えた。













 
 

 
後書き
Sturmwind(シュトゥルムヴィント)…“暴風”。黄緑の宝石が対応している。強力な風を巻き起こし、風の刃で敵を切り裂き、屠る。旋風地獄よりも非常に強力。

緋狂…所謂バーサーカー化。シュネーだった時の狂気を呼び覚まし、その狂気を以って身体能力を向上させる。霊魔相乗のように、割合で段階分けしている。

界裂斬…世界を切り裂く事もできる斬撃。別の世界に入った際(結界など)、この斬撃を放てばどんな世界でも一時的に切り裂く事ができる。並の結界などではそのまま結界が崩壊する。

緋色の波紋(Scharlachrot Kräuselung)…悲哀の狂気を発動した上で、結界内に波紋を無作為に反響させまくる結界内限定魔法。Fateで言う、無限の剣製発動中での全投影連続層写のようなもの。水面限定だった波紋が、結界内の隅々まで広がるようになり、完全な耐性か防御手段がない限り、確実に精神が狂化(もしくは崩壊)する。

狂気に染めし悲しみの紅(Lunatic Granatrot)…40話、閑話6にも登場した、緋雪及びシュネーの切り札の一つ。積み重ねてきた狂気を込めた、魂の咆哮の如き紅色の極光を放つ。切り札の一つなだけあって、その威力は他の魔法と比べて一線を画す。

戦技・斬撃印…味方単体の斬属性を上げるバフ技。鋭く、研ぎ澄まされる。

森羅断空斬…ありとあらゆるものを断ち切る一閃。刀奥義・一閃をさらに昇華させたもの。“-瘴-”とついているのは、守護者が瘴気を用いていたため。

Blut Beschießung(ブルートベシースング)…“血の砲撃”。緋雪の魔力及び血を捧げた分だけ、強力な砲撃となる。今回は結界の魔力を使ったため、なのはのSLB並の威力を持っていた。

我が愛しき魂の故郷(逢魔時退魔学園)…Fateで言う固有結界のような霊術で、世界を塗り潰して展開する結界。大門の守護者、有城とこよが研鑽し、自らを鍛えた学園を写し取ったような風景が広がる。結界内では、一時的に式姫及び知り合いを式神として召喚し、使役する事ができる。術者本人が結界内にいなくとも、数体程度の式神なら展開し続けられる。式神には人格はない(なぞる程度の再現は可能)。ちなみに、“魂の故郷”であって、とこよ本人が生まれた故郷ではない。

召喚された四人…詳しくは式姫大全及びかくりよの門にて。皆、かくりよの門の主人公と親しい人たちです。ちなみに、本編の地の文であった“一人を除いて”の一人は、文ちゃんです(病弱なので)。なお、式神なので関係ない模様。


所謂第二形態な大門の守護者。
何気に連戦で減らしていた体力は瘴気によってほぼ全快してしまっています。唯一疲労だけは、そこまで回復はしていません。 
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