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158部分:ラグナロクの光輝その十二


ラグナロクの光輝その十二

「お互い正念場だ」
「そうですね」
「健闘を祈る」
「武力を使うことなく彼等を」
「うむ」
 二人はそれぞれの目的地へ向かった。彼等はその政治力と交渉力を駆使してマグデブルグ、ミュンスターそれぞれを自分達の勢力圏に収めることに成功した。これにより南方の諸星系は次々と連合に旗を変えた。彼等は僅か二つの星系を説得することで多くの星系を手に入れたのであった。
 これは北に向かったヴァルターとタンホイザーにも伝わっていた。ここにも中立の星系が点在していたのである。
「南は抑えられた」
 ヴァルターはモニター越しにタンホイザーと話をしていた。
「これで後は北と東だが」
「南に比べれば容易かな」
「安心は出来ないがな」
「そうだな、卿が北に行き」
「卿が東だ。それで行こう」
「わかった」
 タンホイザーはその言葉に頷いた。
「それではな」
「うむ。ところでだ」
「どうした?」
「卿の奥方のことだが」
「ヴェーヌスのことか」
「何故ニーベルングは彼女を求めていたのか。わかるか」
「いや」
 それはまだわからなかった。首を横に振るばかりであった。
「それはこちらが知りたい位だ」
「そうか」
「だが。クリングゾルには今も妻はいないようだな」
「どうやらな。そうした話は一切ない」
 それどころか人間らしい話も一切ないのだ。それが実に奇妙であった。クリングゾルに関する話はそういったことまでが謎に包まれているのだ。
「子もいないようだし親族も」
「ニーベルングの血脈があるだけか」
「一つふと思うことがあるのだが」
「何をだ?」
「あの男は。若しかしたら人ではないのかも知れない」
 ヴァルターは言う。
「そういうことだ、それは」
「若しかしたらだが」
「うむ」
「ニーベルング族というのは。我等今このノルン銀河で主流を占めている者達とは違うのかも知れない」
「第三帝国の者達か」
 所謂ホランダー達のことである。ヴァルター達は第四帝国の者達だ。それより前の第三帝国はホランダー達の国であったのだ。あまりにも長い時間の中で人も変わっていっているのである。
「それともそれより前の」
「いや」
 だがヴァルターの頭脳はそれとは別のものを見ていた。
「前ではなく。新しい存在なのかも」
「新しい」
「そうだ。若しくはそれを越えた、宇宙に普遍の存在なのかもな」
「それがニーベルングか」
「若しかしたらだが」
 ヴァルターといえど確証を抱くには至っていなかったのである。
「そもそもあの一族には今だによくわからない部分が多過ぎる」
「というよりもまだ何もわかっていないのに等しい」
「そうだ。一族とはいうが今まで出て来ることはなかった」
「出て来たのはバイロイト崩壊の時からだ」
「全てが謎に包まれている。我々が目指しているヴァルハラにしろ」
 それこそが問題なのだ。存在が明らかになっていないことが。
「場所すらもわかっていないな」
「卿の奥方は造られた存在だったというな」
「そうだ」
 タンホイザーはその言葉に答えた。
「夢の中で。エリザベートに教えられた」
「エリザベート」
「ヴェーヌスの。もう一つの人格であるらしい。ヴェーヌスの死後私の夢の中に現われる」
「そうなのか」
「彼女が教えてくれるのだ」
 タンホイザーはヴァルターに語りはじめた。
 
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