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ロボスの娘で行ってみよう!

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第37話 帝国の受諾


捕虜交換の帝国側です。

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第37話 帝国の受諾

帝国暦483年7月〜8月

■オーディン  

7月15日、フェザーンの高等弁務官レムシャイド伯から連絡が有り。叛乱軍の提案で5年ぶりに俘虜交換を行いたい為に話し合いを持ちたいと報告があった。帝国政府は表向きは帝国辺境部の叛乱勢力との取引をしないとの事であったが、俘虜交換の話が門閥貴族に知られた為、各所から圧力がかかり始めた。

門閥貴族にしてみれば、死して虜囚の恥を知らずであるが、それは建前で親族や家族が無事に帰ってくるならそれで良いではないかと言うのが本音であった。殆どの貴族はエル・ファシルで一族親族が俘虜になった恥を隠すために、負傷したり病気で養生中として俘虜の事実自体を隠していたのであるから、今回の叛乱軍の申し出は受けるべきであると考え、あの手この手で圧力をかけるのであった。

軍としても、イゼルローン要塞の修理が終わるまでは、攻勢に出られない事と要塞防備に不備がある以上、叛乱軍がイゼルローン要塞に攻めかかるのを止めることが必須であったため、俘虜交換自体に反対の声が少なくなっていた。

また、エル・ファシル、アルレスハイム、第5次イゼルローン攻略戦等での戦死者数が200万を優に超える状態で有るため、例え俘虜となった者でも300万人の将兵は貴重であると考えられていたのである。

今日もノイエ・サンスーシで門閥貴族からのアプローチが行われていた。
「国務尚書、誠に残念な事だが、俘虜とはいえ皇帝陛下の赤子だ。帰還させてその後、罪を償わせれば良かろう」
「ブラウンシュヴァイク公爵の義弟のシャイド男爵も俘虜になって居るのでしたな」

「いやいや、シャイド男爵は、エル・ファシルで負傷し、在所で長期の養生をしているだけでしてな」
「左様か、俘虜を境遇を気の毒に思う、公爵の慈悲の心と言うわけですな」
「その通り、陛下の婿としての責務を果たさんが故の事」

宮廷狐と門閥狸の化かし合いである。
「左様か、軍部も取りあえずは帰還させた方が良いと言ってきておるが、恐れ多くも陛下がどう仰るかですな」
「陛下とて、赤子が叛徒共の魔手から帰還するのだ、反対はすまい」

「そうかもしれませんな」
「陛下であれば、お分かりであろう」


■オーディン 軍務省

軍務省でも軍務尚書エーレンベルク元帥、統帥本部長シュタイホフ元帥、宇宙艦隊司令長官に任じられたミュッケンベルガー元帥達、帝国軍三長官が雁首並べて叛乱軍より提案のあった俘虜交換について話し合いが今日も行われていた。

「叛徒共から来た、俘虜交換だが卿はどう思う?」
「300万もの人員だ、規模としては40数年ぶりになるな」
「今は一刻早いイゼルローン要塞の修理が必要だ、それならば俘虜交換の時期だけでも叛乱軍の攻撃がないのであれば、交換もやむを得ないのではないかな?」

「門閥貴族からも、交換を求める声が上がっているからな」
「なんだかんだ、言っても彼等も家族は大事なのだよ」
「それで居て、俘虜になった一族は居ないと頑なに主張する様は滑稽だがな」

「俘虜ではなく、名誉の負傷の為、在地で養生中か」
「そうは言っても、メンツの問題だからな」
「此処でイゼルローン要塞が更に傷ついてでもしたら、前任の宇宙艦隊司令長官の様に、今度こそ我々の全員の進退を決めねば成るまい」

「となれば、軍部としては俘虜交換に賛成するしか有るまい」
「しかし、300万将兵をどうする。無罪放免とは行かんぞ」
「取りあえずは、憲兵隊に取り調べさせ、共和主義に毒された者除き、出来うる限り軍務に戻したいが」

「最前戦の陸戦隊や辺境警備か或いは、艦隊の前衛を任し玉除けにするのが良かろう」
「それしかないな」
「判った、軍部としての統一見解として、国務尚書と共に陛下にお伝えしよう」


帝国暦483年7月25日

■オーディン ノイエ・サンスーシ

相変わらず、朝寝が過ぎた皇帝フリードリヒ4世が俘虜交換に対する、政府と軍部の統一見解を報告に来た、国務尚書リヒテンラーデ侯と軍務尚書エーレンベルク元帥に会見したのは、午後2時を過ぎてからのことであった。相も変わらず、フリードリヒ4世はワインの飲み過ぎでへべれけに酔っていてフラフラの状態で有った。

「皇帝陛下、叛徒共が不当に捕らえし、臣民と叛徒の交換を求めて参りました」
「国務尚書、それがどうしたか?」
「はっ、臣としてもこのような無体は断固拒否すべきと愚行致しましたが」

「ははは、ブラウンシュヴァイク等が言ってきたぞ、陛下のお慈悲をとな、あの者も身内は助けたいと見えるの、昨夜はリッテンハイムも来おったわ」
「陛下」
「国務尚書、我が父オトフリート5世の時と同じように致せば良かろう」

「御意」
「軍務尚書、軍部は如何言っておる?」
「はっ、囚われし者共は、厳しく調べその後再配置を行う事と致します」

「良いわ、卿らに任せる」
そう言うと、侍従に支えられながら酒臭い息を吐きながらフリードリヒ4世は去っていった。
残された、リヒテンラーデ侯とエーレンベルク元帥はお互いを見合いながら溜息をつくのであった。


宇宙暦792年8月1日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン

同盟では、帝国から捕虜交換を受諾とその際の条件等の最初期案が届いたとの報告が来ると同盟政府及び統合作戦本部でも歓声が聞こえた。早速特使をフェザーンへ派遣する事にし、出来る限り早期の帰還を目指すことになった。

帝国からの要請は以下のようであった。

一、捕虜交換は銀河帝国政府の格別の慈悲を持って行う。
一、捕虜ではなく不当に捕らえられた臣民と明記する。
一、貴族の捕虜については実名を出さない。

一、交換数は300万人+αとする。
一、交換はフェザーン自治領にて行う。

このような要請があり、同盟政府では喧々諤々会議がもたれたが、300万人+αの帰還兵という魅力は、何物も代え難い誘惑を持っていたのである。
その為に同盟政府としては異常なほど早く、代表を決めフェザーンへ送り出したのであった。

その者の手腕で条件のすりあわせを行うのである。
到着予定は8月22日であり、会議が始まるのである。
 
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