| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リング

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

145部分:ヴァルハラの玉座その二十六


ヴァルハラの玉座その二十六

「一体誰が」
「それはそこで・・・・・・うっ」
 血を吐いた。それでタンホイザーの軍服も血に塗れた。だがタンホイザーはそれに構わなかった。
「これで・・・・・・」
 それが最後の言葉であった。ヴェーヌスの頭が落ちた。そして彼女はこの世を去ったのであった。
「公爵」
 ジークフリートは彼に語り掛けた。
「わかっている」
 タンホイザーはそれに返した。
「ラインゴールドへ行く」
「そうか」
「卿は。これからどうするのだ?」
「卿がラインゴールドへ行くのだろう?」
「そうだが」
「では私は遠慮させてもらおう」
 そうジークフリートに言う。するとジークフリートはその眉を顰めさせ彼に問い返してきた。
「何っ!?」
「引き下がると言っているのだ。ラインゴールドは卿に譲る」
「いいのか」
 また問う。だがタンホイザーの返事は変わらなかった。
「よい。既に目的は達したしな」
「帝国軍の殲滅か」
「そういうことだ。それが済めば他はどうでもよかった」
「わかった。ではこれからどうするのだ?」
 タンホイザーは妻の血でその服を濡らしていた。その姿のまま彼に問うてきた。
「ヴァルハラに向かう」
 ジークフリートはそれに応え一言こう言った。
「ヴァルハラへ」
「そうだ。今からシュバルツバルトに戻りそれに備える」
「そしてあらためてヴァルハラにか」
「縁があればまた会うことになるだろう」
「また」
「そうだ、その時を楽しみにしている」
 そう言い残して立ち去ろうとする。だがそこにタンホイザーが声をかけてきた。
「待て」
「!?」
 ジークフリートはその言葉に足を止めた。
「疑って済まなかったな」
「気にすることはない」
 だがジークフリートはそれを最初から意にも止めていなかったのだ。
「私ではないのがわかればな」
「そうか」
「ではな」
「うむ、また縁があれば」
「会おうぞ」
 こうして二人の英雄達は別れた。ジークフリートはそのまま艦橋を降り自身の艦へ戻っていく。戦いは既にワルキューレとタンホイザーの軍の大勝利に終わっていた。凱歌が銀河に鳴り響いていた。
「御無事でしたか」
「ああ」
 彼は部下にそう応えた。
「こちらも。無事勝利に終わったな」
「はい」
 部下達がそれに頷く。
「もう帝国軍はこの周辺星系にはおりません。当面の敵は倒しました」
「よし」
 ジークフリートはそれを聞いて頷いた。
「では戻るか」
「戻りますか、シュバルツバルトへ」
「そうだ。目的は達した」
 彼は言った。
「そして次の目的にな」
「次は」
「ヴァルハラだ」
 一言であった。
「ヴァルハラだ。いいな」
「ハッ」
 ワルキューレはラインゴールドを後にしてシュバルツバルトへと戻って行った。後には何も残しはしなかった。ただ風の様に戦場を後にした。勝利だけを持って。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧