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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第四十五話 ナンバーズ 3

安全が確認され、アスカ達の任務は終了した。

出撃していた面々はヴァイスの迎えのヘリに搭乗して六課へと帰還する。

そのヘリの中でアスカは……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

事件の緊張感から解き放たれたフォワードメンバーは、思い思いに雑談をしていた。

ヴィータ、リインもそれは同じだった。

「はう~、これから書類仕事が待ってるかと思うと気が重いよ~」

デスクワークの苦手なスバルがため息混じりに言う。

「しっかりやりなさいよね。今日は手伝ってあげないんだから」

「そ、そんな~!ティア~~!」

いつものやりとりの中、アスカは何も喋らずにジッと自分の右手を見ていた。

(何だ?さっきから砲撃とディエチの顔がチラつく……)

アスカは思い出していた。ディエチの手を握った時の違和感を。

ギンガの手を握った時には、それは感じられなかった。その差異が分からない。

「どうしたんですか、アスカさん?ケガをしたんですか?」

黙ったままジッと手を見ているアスカを心配したキャロが話しかける。

「……キャロ、握手しよう」

「へ?」

アスカが何の脈略もなくそんな事を言うもんだから、キャロはキョトンとしてしまった。

「えっと、こうですか?」

戸惑いつつも、キャロがアスカの手を握る。

「……違うな。エリオ、いいか?」

「え?ボクも?」

エリオも握手をするが、アスカは首を捻るだけだった。

「考えてみれば、キャロもエリオもまだ手が小さいか」

そう言って、今度はスバルを見る。

「え、私も?いいけど、何なの?」

アスカはスバルの手を握ったが、やはり感覚が違うようだ。

「ギンガさんと同じ感じなのは当たり前か。ティアナ、握手しよう」

「……何なのよ、本当に」

呆れながらもティアナがアスカの手を握る。

(この感覚!似ている!)

ティアナと握手した瞬間、アスカはその感覚がディエチと似ている事に気づく。

同じ、ではなくあくまで似ている。スバルやギンガとは明らかに違う。

(この違いはいったい何なんだ?)

「え?ち、ちょっと、アスカ!?」

アスカの突然の行動にティアナが狼狽える。

急に両手でティアナの右手を包み込むようにして、そして今度は丁寧に、慎重に指を一本一本撫で始めたのだ。

「「「???」」」

エリオとスバル、ヴィータはその行動の意味が分からずに首を傾げるが、

「「「!!!」」」

リインとギンガ、キャロは顔を赤くし、両手をキュッと握って口元に当ててる。

((ア、アスカって大胆!!)(はわわわわ~)

そんな外野など目もくれずに、アスカはティアナの手を撫でくり回した。

優しく、ユックリと指の一本一本に自分の指を這わせ、手のひらを撫でる。

(な、な、な、何?何?何なの!?!?!?)

頭から湯気が出るほど赤面したティアナ。アスカは真剣な目でティアナの手を見ている。

「ア、アタ、アタシのテ、て、手がどうかしたの?」

上擦った声で、絞り出すようにティアナが聞いた。

「……」

「アスカ?」

無反応のアスカに、再び尋ねると……

拳銃ダコが、硬い」

「へ?」

シーン

水を打ったかのように静まりかえるカーゴ内。

相変わらず何の事だか分かってない朴念仁トリオ。

逆に、引きつった表情になる耳年増トリオ。

次の瞬間、

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

ティアナの豪快な踵落としがアスカの脳天に直撃していた。

合掌……





ヘリポートから司令室に向かう間、アスカはティアナに平謝りだった。

「オレが悪かった!な、許してくれ!」

「うるさい!話しかけるな!バカッ!」

取り付く島もないティアナ。

困ったアスカがキャロに応援を頼もうとするが、

『ちゃんと謝らないとだめです!』

念話で怒られてしまい、ならばとスバル、ギンガに目をやるが、

『よく分かんないけど、アスカが悪い!』

『あれは無いわよ』

と、こんな感じである。

『エ、エリオ、助けてくれ!』

とうとう10歳に助けを求める16歳だった。

『えぇ!ボクですか!』

『頼む!なんかアイデアくれ!』

ティアナに謝りながら、エリオに打開策を求めるアスカ。

そんな様子を、ヴィータとリインが少し離れて眺めている。

「……なあ、リイン」

「なんですか、ヴィータちゃん?」

「何でティアナはあんなに怒っているんだ?」

「……ここにもいたですよ、アスカと同類が」

「?」

こちらは呑気なものである。

だが、当事者たちは中々必死である。

巻き込まれたエリオが何とかアイデアを出す。

『えーと……アスカさん。こういう場合は、何かプレゼントして機嫌を直してもらうってのはどうでしょうか?』

『プレゼントって、今ないぞ?』

『えーと、例えば、今度どこか行った時にプレゼントするって約束したらどうですか?』

『なるほど!それで行こう!』

年下からのアドバイスに飛びつくアスカ。それでいいのか16歳。

「じゃあ、今度なにか奢るから!服でもなんでも!だから許して!」

ピタッ

ティアナが立ち止まる。そして振り返り、ビッとアスカの鼻先に人差し指を突きつけた。

「アンタね、アタシが物に釣られるとでも思っていたの!?」

「い、いや、そんな事は思ってないよ!」

逆効果だった事にアスカは焦る。

「少しは考えて喋りなさいよ!」

そう言葉を叩きつけて背を向けるティアナ。

「あ……う……」

アスカはオロオロとし、何も言い返せずにショボンとしてしまう。

『ア、アスカさん、ごめんなさい!ボクのせいで……』

良かれと思ってアイデアを出したエリオが慌てる。

『……エリオのせいじゃないよ。オレがもっと真剣に謝んなきゃいけなかたんだ……ごめんな、変な事を聞いて』

エリオにそう念話で返し、落ち込んだ表情でアスカは歩く。

『何か、ちょっとかわいそうだね』

さすがに同情したのか、スバルが隣を歩くギンガに念話で話しかける。

『そうね……ティアナ』

見かねたギンガがティアナを呼ぶ。

『何ですか、ギンガさん』

答えはするが、振り返らない。かなりご機嫌斜めのようだ。

『いい加減、許してあげたら?確かに、女の子に対して”拳銃ダコが硬い”なんて言われたら頭にくるかもしれないけど』

『嫌です!アタシはセンターガードで、拳銃型デバイスを使ってるんだから、拳銃ダコができてあたりまえじゃないですか!それをわざわざ言うなんて、無神経過ぎますよ!』

即答のティアナ。

やれやれ、と言わんばかりにギンガが苦笑する。

『デリカシーは無かったかもしれないけど、それは育ってきた環境がそうだったんじゃないかしら?スバルから聞いたんだけど、アスカって099部隊の出身なんでしょ?あそこは男所帯で愚連隊って言う話だから、色々大ざっぱなんじゃないかな?』

『環境……』

ギンガに言われて、ティアナは思い出す。

アスカは幼い頃に次元漂流して両親と死に別れた。

何も分からないまま、099部隊に入隊して、そこで育った。

「……」

あの時、拳銃ダコが硬いと言われて、頭にきたのは確かだったが、ここまで拗れるような事ではなかった筈。

なのに、なんでこんなに怒っているのだろうとティアナは考えた。

『ティアナ。もしかしたらなんだけど、あんな言葉を言われて、少し悲しかったんじゃないの?』

『え?』

『アスカはたぶん、ティアナを信頼できる仲間だって思っているんだと思うよ。だから、ティアナには女の子としてではなく、気が置けない仲間って感覚なんだよ。でも、ティアナは女の子として接して欲しかったのかな?て思ったんだけど』

いつもなら、そんなことありませんと答える所だったが、ティアナはそれを否定できなかった。

『ああ、今のは私の勝手な想像だから、気にしないでね』

何となく、ギンガの言いたい事は理解できる。だが、それを素直に認める事ができないティアナであったが、確かに何時までもこのままでいる訳にもいかない。

『……ああもう!分かりました!』

先頭を歩いていたティアナが振り返ってアスカを見る。

「欲しい服一式で勘弁してあげるわよ」

「え?」

突然切り出してきたティアナにキョトンとするアスカ。

「その時はアスカも一緒に行くんだからね!分かった?」

いきなりの事で一瞬固まったアスカだったが、それが許してくれる事だと分かると、

「ああ!約束するよ!ありがとう、ティアナ!」

笑顔になって答えた。

「もう……」

その様子に呆れたティアナだったが、不思議と胸が軽くなったような気がした。

さっきまで心を占めていた怒りが、キレイさっぱり無くなっている。

(……もしかしてアタシは……)

ティアナが軽く頭を振る。

そんな訳ない、と言葉になりそうだった考えを押し込める。

「んで、あんなバカな事を言った理由を言いなさいよね。アスカの事なんだから、意味なく言った訳じゃないんでしょう?」

ティアナがそう言った時、一行は司令室に到着した。

「後でな。ちゃんと説明するからさ」

とりあえず、先に事件後の報告などを済ませないといけないと言う事で、アスカ達は司令室へと入って行った。

「みんな、お疲れさんや。ヴィータ、リイン、お疲れさん」

中にはいると、はやてが迎え入れてくれた。

他には、グリフィス、フェイト、シャーリー、アルト、ルキノ。そして、先に戻っていたシグナムがいる。

「あれ?高町隊長がいませんね?」

アスカは、その場になのはがいない事に気づいた。

「なのは隊長は、保護した女の子を聖王病院に連れて行ってるよ。女の子の結果が出るまで付きそうって」

フェイトがアスカの疑問に答えた。

一通りの人間がそろった所で、はやてが話し始める。

「さて、お休みの所、緊急出動してもらって申し訳なかったんやけど、今日の事件をまとめておこうと思ってな。みんなに来てもらったんや」

はやてはそう言ってシャーリーに合図を送った。

「今回の事で、いろいろ敵について分かってきた事があるから、それの確認ね」

シャーリーはモニターに地下水路で起こった戦闘記録を映し出す。

「レリックを奪おうとした一味についてなんだけど、これはフォワードは直接関わった事だから分かってるよね」

モニターにルーテシアとアギトが出る。

「召喚士と思われるのが、この少女。アスカが聞き出した所によると、名前はルーテシア・アルピーノ。推定魔導ランクはA~AA。融合騎はアギトと名乗っていて、リインさんと同じくらいの魔力量があると思われます」

そして、場面が変わる。あの高架橋のシーンだ。

「突然現れたこの少女。地面から出てきたけど、どうやら無機物の中を泳ぐように移動できるみたいね。詳しい情報が無いから、はっきりとした事は言えないけど」

水色の髪をした少女がエリオに襲いかかり、ケースを奪った後、ルーテシアとアギトを救出しているシーンが映し出される。

「なんだよ、これは!?」

話は聞いていたが、映像を見たアスカは信じられないと首を振った。

「今までこんなレアスキルなんて聞いた事はないな。シャーリーの言う通り、無機物の中を泳ぐように移動してるし、自分に接触している物にも同様の効果があるみたいや。それは召喚士の女の子を救出している事から分かる」

はやての言葉に、シグナムが頷く。

「この能力に一番近い系統なのは、移動系でしょうか?」

「召喚士に無機物移動のレアスキルを持つ少女。この二人が組んでいるとなると厄介やね。シャーリー、次お願いや」

「はい。次は空での事なんだけど、空戦型ガジェットの記録は飛ばして、Sランク砲撃があった所からね」

はやてに促され、シャーリーが画面を切り替える。

「犯人は二人、幻影使いと砲撃手ね。レイジングハートさんとバルディッシュさんのメモリーに写っていたのがコレ」

シャーリーが一人ずつ映像を出す。

「メガネの彼女が幻影使い。こっちのセンサーを完全にだます程の高度な幻影を使うわ。海上のガジェットも、おそらく彼女の仕業でしょうね」

モニターにはクアットロが映っている。

レアスキルの少女、セインと同じようなボディスーツを身につけている。

「そして、Sランク砲撃を撃ったのが、この娘」

画面が切り替わり、栗毛色の長い髪をした少女が映される。

「あっ!」

その少女を見て、アスカが声を上げた。

「ど、どうしたの、アスカ?」

目を見開き、口をパクパクさせて驚いている彼を見て、ティアナが尋ねた。

アスカは震える手でモニターに写っている少女を指さした。

「オ、オレ……この娘に………アイス奢った」

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

はやてはもちろん、司令室にいた全員が叫び声に近い声を上げる。

「いや、だってさ……サードアベニューのバス停付近で道に迷っていたから、一緒に探そうって……」

ガシィッ!

言い掛けたアスカの肩をスバルが強く掴む。

「……どこのアイス屋さんのを奢ったの?」

「はぁ?」

「どこのアイス屋さんのを奢ったの!まさか、サードアベニューパークの中のじゃないよね!?」

ギリッ!

「いだだだだだ!」

肩を掴むスバルの手が強くなり、アスカは堪らず悲鳴を上げた。

「答えて、アスカ!」

スバルの追求も強まる。

「そ、そうだよ!パークの中の移動販売車のアイスだよ!」

「それって、車の屋根が赤と黒のギンガムチェックの?」

「そうだよ!いてぇ!離せ!」

しかしスバルは離さない。

「ラ・フォルテ」

と小さく呟くスバル。

「え?何だっ……どわっ!」

今度は両手で胸ぐらを掴まれ、ガクガクと揺すられる羽目になるアスカ。

「ラ・フォルテのアイスを敵に奢ったの?超人気でなかなか買えないのに?!」

「し、知るかぁ!オレが行った時には客なんていなかったぞ!」

「アスカのばかぁ!」

バン!

と壁に叩きつけられるアスカ。

「ティア~、アスカが酷い裏切りだよぉ!」

スバルがティアナに泣きつく。

「えーと……」

どう対応していいのか、ティアナは困惑するばかりであった。

「いててて……酷いのはスバルのほぅぅぅ?」

立ち上がったアスカだったが、今度は下方向に胸ぐらを引っ張られる。

「てめぇ!敵にアイス奢るくらいならアタシにおごれぇ!」

ヴィータちゃんでした。

見かけからは想像もできないような怪力でアスカをガクガク揺らす揺らす。

「アンタもかぁぁぁぁぁ!」

バン!

再び壁に叩きつけられて、そのまま床に沈むアスカ。

「はやて、アイツ逮捕するかクビにしよう」

ヴィータは床で伸びているアスカを指す。

「な、何でアイスでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ……」

今日だけで何度目かになるキャロのヒーリングを受けるアスカ。

そんなダメージの中、はやてがトドメを刺す。

「まあ、人として間違った事をした訳やないからなぁ。ただ、人を見る目が無かっただけや」

「orz」

アスカはガックリと床に手を付いてうなだれる。

「あぁー、キツイわぁ……世の中無情だ……」

結構本格的に落ち込む。

「そ、そんな事ないですよ!アスカさんは人助けをしたんじゃないですか!」

「そうですよ!たまたま相手が悪かったでけで、アスカさんは正しい事をしたんです!」

エリキャロ10歳コンビが必死に落ち込む16歳を慰める。

「おー、ヨシヨシ。優しさが仇になったかもだけど、アスカは良い事をしたんだよ。だからそんなに落ち込まないの」

とアルトも近寄ってアスカの頭を撫でる。

「エリオ~、キャロ~、アルトさ~ん。味方は3人だけだぁ!」

がしぃっ!とアスカは3人にまとめて抱きつく。

まあ、アルトとの間にエリオとキャロを挟むという細かい気遣いはしているが。

「……むぅ」

その様子を、ティアナは若干ムクレながら見ていた。

(別に、アタシだってアスカを責めてないじゃない!)

そう思っても、口には出せないティアナであった。

「アスカくーん、そろそろ次いくで?」

「あ、はい、どぞー」

あっさりと立ち直って、アスカがモニターに目を向ける。

「その砲撃手が使用していたと思われる遺留品がコレ」

シャーリーがイノーメスカノンを映す。

「魔力ではない、何らかのエネルギーで作動するカノン砲。エネルギー以外にも、口径が合えば質量弾も撃てる構造になっているわ」

その説明を聞いたアスカの目が少し鋭くなる。

「……つまり、殺人を視野に入れた構造、って事か」

アスカの言葉に、司令室の空気が冷える。

「……そうね。相手はそこまでの行動オプションを持っている、と考えた方がいいわね」

ティアナの言葉は、重い物だった。だが、

「今更だな。相手がどんな手で来ようと、オレ達のやる事は決まってる、だろ?」

な、とティアナに笑いかけるアスカ。

「アタシ達は管理局員。その職務を全うするだけ。みんなで力を合わせてね」

虚勢ではなく、ティアナは自然にそう言った。

過度な自信ではなく、本当にチームで力を合わせる事の強さを知っている言葉だ。

はやては、そんなフォワードメンバーを頼もしげに見る。

「ほな、一休みしたら今日の分の報告書、作成してな。アスカ君は砲撃手絡みの部分からや」

はやてに成長を感じさせたフォワードメンバーは、敬礼してそれに答えた。

「「「「「はい!」」」」」





傾いた日が、辺りを朱色に染める時刻。

なのはは聖王病院から念話でフェイトと話をしていた。

『検査の方は一通り終了。大きな問題点は無さそうだから、これから六課に戻るね』

『うん、了解』

『フォワードの子達は?』

『元気だよ。エリオとキャロの怪我も割と軽かったし。報告書を書き終えて、今は部屋じゃないかな?』

『そう』

そんな話をしている時、なのはは売店を通りかかる。

ふと、その棚の一番上にあるヌイグルミに目がいく。

『私も、戻って報告書かかなきゃ。今回は数多そう』

念話をしながら、なのははウサギのヌイグルミを手に取る。

『大丈夫、資料とデータは揃えてあるから』

『にゃはは、ありがと』

売店でヌイグルミを購入したなのはは、まだ目を覚まさない少女のいる病室に向かった。

眠っている少女の枕元に、ウサギのヌイグルミをそっと置く。

「ママ……」

その時、少女がうわごとのように呟いた。

なのはは、少女の頬を優しく撫でた。

「……大丈夫だよ、ここにいるよ。怖くないよ」

安心させるように、穏やかに語りかける。

「ママ……」

繰り返されるうわごとに、なのはは悲しそうに眉を潜めた。





それぞれが部屋に戻り、ゆったりとした時間を過ごしていた。

「はうぅぅ、今日はいつも以上に疲れたよぅ……」

ゴロリとベッドに横になり、大きく伸びをするスバル。

「そうね、色々あったものね」

ティアナはクロスミラージュの手入れをしながら答える。

「せめて書類仕事がなかったらな~」

「って、そっちはアタシとアスカがほとんどやったじゃない!」

間髪入れずに突っ込むティアナ。体質だから仕方がない。

「頼りにしてますよ~」

「まったく、もう……」

そんな何気ない会話しているうちに、時計の針は10時を回っていた。

「戦闘もあったし、そろそろ寝ようか?明日も仕事だしね」

クロスミラージュを待機モードに戻したティアナがベッドの上のスバルに言う。

「りょーかい。明日は午前中の訓練は無いんだよね?」

「そうよ。でも、書類仕事はあるんだからね」

「うえぇ~」

「ふふ、お休み」

いつも通りの会話を終え、ティアナは部屋の灯りを消す。

(本当に色々あったな)

ベッドに横になり、今日の出来事を振り返るティアナ。

真っ先に思い出したのが、ヘリでの事だった。

(……まったく、アスカは繊細さってのが無いんだから!)

拳銃ダコが硬いと言われた事を思い出し、少しご機嫌斜めになる。

(でも……まあ、それは奢らせる事で許してやる訳だし……防御面では本当に頼りになるしね。今日だって、矢面に立って守ってくれたし……)

アギトの攻撃を先頭に立って防いだアスカ。

ふと、ティアナはお姫様ダッコされた事を思い出して赤くなる。

(あ、あれは間合いを空ける為にやった事よね!当たり前じゃない!)

ティアナがゴロリと寝返りをうつ。顔が熱くなるのが自分でも分かる。

(あの時の閃光弾……アスカは直前に気づいたんだよね……だから……)

アギトが現れる時に放った閃光魔法、スターゲンホイルから、アスカは身を呈してティアナを守った。

ティアナを押し倒して……

ボン!

一気にティアナの体温と心拍数が跳ね上がる。

(な、な、なに考えてんのよ、アタシは!あれは閃光魔法の効果から守ってくれただけの事でしょ!)

そうは思っても、高鳴った鼓動はそう簡単には治まってくれない。

荒々しく押し倒され、覆い被さってくるアスカ……


(うぅ……こんなんじゃ眠れないよ!)

がばっ!

ティアナはベッドから抜け出した。すると……

「ん~、ティア?」

眠っていた筈のスバルがムクリと半身を起こす。

「ス、スバル!ちょ、ちょっと寝付けないから、飲み物でも買ってくるから。先に寝てて」

上擦った声で、しどろもどろになるティアナ。

普段なら、流石のスバルもティアナの様子がおかしいと気づくのだろうが、

「んー、おやすみぃ……」

寝ぼけているスバルは、そのまま夢の中に潜って行った。

「ふぅ」

かなり慌てていたティアナは、一呼吸おいてから休憩室へと向かった。

「……ったく、キャラじゃないでしょ。何を浮ついてんだか……」

ブツブツと呟きながら、ティアナは休憩室に近づいた。

「あれ?」

すると、休憩室から誰かの話し声が聞こえてくるのに気づく。

ティアナはそっと窓から中をのぞき込む。

そこには、アスカとアルトが何やら楽しそうに話していた。

”アスカって、アルトと仲いいよね”

昼間のスバルの言葉が脳裏を過ぎる。

チクリ

複雑な、言葉にし難い感情がティアナの胸を刺す。

寂しいような、悲しいような。

ポツンと置いて行かれたような感情。

アスカは笑ってアルトと話をしている。アルトも、楽しそうにそれに答える。

普段のアスカの笑顔とは、また違う笑顔。

アルトの笑顔も、また普段とは違うように見える。

二人だけが知っている、そんな笑顔だ。

入ってはいけないような雰囲気。

ティアナがそう思った時、

「あれ?ティアナじゃん。どうしたんだよ?」

アスカがティアナに気づいた。

「う……」

いまさら立ち去る事ができなくなり、覚悟を決めて休憩室に入るティアナ。

「ちょっと眠れなくてね、ジュースでもって思ったの。なんか楽しそうに話してたわね?」

極力、平静を装うティアナ。

「まあね。キャロの事をいろいろ聞いていたんだよ」

嬉しそうにアスカが話す。

「キャロの事?」

ジュースを買ったティアナがアルトの隣に腰を下ろす。

「ああ。ほら、なるべく一緒にいるようにはしてるけどさ、プライベートの事とかは分からないじゃん?だから、アルトさんに部屋ではどうなのかって聞いてたんだよ」

「そうそう。私もエリオの事を聞けるしね。何だかんだで、フェイトさんにも頼まれているし」

アスカとアルトの話を聞いて、ティアナはスバルが言った事を思い出す。

”エリキャロの事で色々話しているみたいだよ?”

でも、本当にそれだけなのだろうか?そんな思いがティアナを過ぎる。

そんなティアナの気も知らず、アスカが続けた。

「そしたらさ、キャロがなんて言ってたと思う?」

ニコニコしながらアスカがティアナに聞いてくる。

「そうね……お兄ちゃんができたみたい、とか?」

内心を悟られないように注意しながらティアナが答えると、アスカは驚いたように目を大きく見開いた。

「よく分かったな!そうなんだよ!」

「頼りになるお兄ちゃんができて嬉しいってキャロが言っていたのをアスカに話したら、すごい喜んじゃってね」

アルトの言葉に、アスカはさらに気を良くする。

「エリオも、アルトさんの事を優しいお姉さんだって言ってましたよ。オレが面倒みれない時に、アルトさんが見てくれてるから」

「えへへ、なんか照れるよね」

アルトが照れ笑いを浮かべる。

たぶん、これがアスカとアルトにとって当たり前の会話なのだろうとティアナは思う。

だが、そこにはティアナの知らないアスカの表情があった。

「こうやって、情報交換をしてるんだ」

アルトがティアナにそう説明した。

「……」

(もし、アタシとキャロが同じ部屋だったら、アスカのこんな顔を見れたのかな?)

嬉しそうに話すアスカを見て、ティアナは思う。

「あっ!もうこんな時間だ。私、もう戻るから」

時計を見たアルトが立ち上がって休憩室から出て行った。

「はい、また」「お疲れさまです」

アスカとティアナがアルトを見送り、少し静かになる休憩室。

すると、アスカがバツが悪そうに切り出した。

「あー、ティアナ。まだ言ってなかったよな、ヘリでの事」

アスカは落ち着きなく、チラチラとティアナを見る。

「ああ、あのバカ言った事ね?ちょうどいいわ。いま説明しなさい」

「……はい」

少し緊張するアスカ。

「えーと。ほら、ディエチにアイスを奢ったって言ったじゃん?」

「あの砲撃手ね。道に迷っていたて言ってたわよね?」

「うん。それでさ、レールウェイまで連れて行って、別れ際に握手をしたんだよ。その時に、握り癖に特徴があったんだ」

「握り癖?」

「ティアナは前っから拳銃型デバイスだろ?だから手を握った時に人差し指の力加減が他の指に比べて繊細なんだよ。スバルやギンガさんだと、全体的に握力が強いから」

「そんなので分かるの?」

アスカの言い訳を聞いて、着眼点が人と違いすぎる事に感心を通り越して呆れるティアナ。

「ああ。ディエチの方がもっと大ざっぱな感じだったけどな。それで、彼女の担いでいた荷物の事もあって、何となく気になってたんだ。その確認をしたくてヘリで……」

「バカ言った訳ね」

「う……もう少し言いようがあったと反省している……してます」

結構気にしていたのか、萎縮するアスカであった。

「そこそこ良い服を選ぶつもりだから、覚悟しておきなさいよね」

そんなアスカを見て、ティアナはちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた。

「わ、分かったよぉ。でも、オレだって本気で焦ったんだからな。ティアナを怒らせちゃったって」

少し拗ねたようにアスカが言う。

「その……オレ、099での経験しかないし、あそこは野郎しかいないから、女の考えなんてイマイチ分かんないし……だから、ティアナにはまた不愉快な事を言っちゃうかもだけど……その時はまた注意してくれよ」

しどろもどろになりながら、アスカは話す。

(なんだ。結構悩んでいるんだ、そういう所を。可愛い所もあるじゃない)

普段は見せない、アスカの別の面を見れた事に、ティアナは少しだけ嬉しくなる。

「じゃあ、改めて仲直りの握手。今度バカ言ったら許さないんだから」

「え?あ、あぁ」

いきなりそんな事を言われて、少し戸惑うアスカ。だが、すぐにティアナの手を握る。

「その……なんか照れくさいな」

ヘリでは大胆にも手を撫でくり回していたアスカが、頬を赤くする。

「フフ。まあ、良いものが見れたわよ」

日常は見せないアスカの照れた表情を見て、ティアナは微笑んで手を離した。

「じゃあ、お休み。また明日ね」

軽く手を振り、ティアナは休憩室を後にした。

「……何だったんだ?」

アスカは不思議そうに、自分の手を見た。






同刻、108部隊、部隊長室。

「……以上が今日の報告になります」

部隊長のゲンヤ・ナカジマに報告書を提出するギンガ。

「おう、ご苦労さん。つうかよ、報告書を出すんだから、わざわざ報告までするこたぁねぇだろ?」

生真面目なギンガに苦笑するゲンヤ。

「聞きたい事があったから、ついですよ。父さん」

「……召喚士の事だな?」

ゲンヤは報告書に目を通しながら言う。

「はい……もしかしたらと思って……」

ギンガは、少し言いにくそうにゲンヤを見る。

「部隊長として言うなら、可能性はある、だな」

ゲンヤは淡々と答える。そこに、特別な感情は無いようにも見える。

「……父さんとしてなら……ゲンヤ・ナカジマとしてなら、どうですか?」

「……」

ゲンヤは報告書を机に置くと、お茶を一口啜った。

「このルーテシア・アルピーノと名乗る少女。間違いなくメガーヌ・アルピーノの娘だろうな。目元がそっくりだ」

先ほどとは違い、ゲンヤの口調は重い。

「よく覚えていたな、メガーヌの事を」

「……母さんが亡くなった時、やっぱり私もショックがあったけど、でも知りたかったの。なんで母さんが死んだのか。それで色々調べているうちに、母さんの仕事の事や、メガーヌさん、ゼストさんの事を知ったわ。だから、もしかしてって思ったんです」

「そうかい……まあ、この事は八神には俺から報告しておく。ギンは出向準備をしておいてくれ。近々、辞令がでる筈だからな」

ゲンヤはそう言って、報告書をファイルにしまった。これで、この話はお終いだ、と言う事だろう。

「ところで、スバルは元気だったかい?」

部隊長の顔から、父親の顔になるゲンヤ。

「うん、元気だったよ。ティアナが相変わらず苦労しているみたい」

娘として、ギンガが笑って答える。

「はっはっはっ!そりゃ安心だな!それで……他の同僚なんかとも上手くやってんのかい?」

ゲンヤはちょっと言葉を濁した。それにピンとくるギンガ。

「ははぁ、スバルがメールで教えてくれたアスカの事が気になるんでしょ?」

管理局に属し、部隊をまとめる立場であっても娘の動向は気にかかるらしい。

「う……ま、まあ、親だからな。年頃の娘の側にいる野郎がどんな奴かは気になるさ」

胸の内を読まれたゲンヤが白状する。

「そうね……私も今日初めて会ったけど、悪い子じゃないと思うよ。むしろ逆。とてもいい子よ。まあ、ちょっと無神経な所もあるけど、男の子だしね」

ヘリでの一件を思いだし、ギンガが苦笑する。

もし、この場にアスカがいたなら、地下高速でギンガに逮捕されそうになったけど?と反撃するだろう。

「そうかい。ギンが言うなら間違いねぇだろ」

ゲンヤはそう言って身を乗り出した。

「ギンガ。スバルの事、頼むな」

「はい、父さん」
 
 

 
後書き
あー、相変わらずの長文で申し訳ありません。
文章力もなんか落ちているような気がする?!
それでも読んでくださる方々に感謝いたします。本当にありがとうございます!

今回はナンバーズのエピローグ的な感じになる筈だったんですけど……
アスカがティアナを怒らせてしまって大変だったようです。
そろそろティアナは自分の気持ちに気づくでしょうか?まだですね。
まあ、ティアナのヒロインゲージが溜まった事は間違いありませんが……
対抗馬のアルトさんがどう出るか?もう隊長達いいかな……まだ諦めないぜ!
結構前の話の伏線を回収できれば、一気に隊長ズどころか、副体長とのフラグを立てるのも可能な筈!

108部隊の人々も、色々出てくる事になるでしょう。
アレ?ゲンヤさん、初登場かな?まあいいや。


 
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