普通だった少年の憑依＆転移転生物語

ＳＩＤＥ ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

ゼノフィリウスさんへ〝身の振るまい方〟について幾らか忠告して──すっかりオリバンダーさんの事を忘れていたのを思い出してから３ヶ月弱が経過した１０月２９日。

「ツモ。……国士無双(コクシムソウ)。この雀荘では〝十三面待ち〟はダブル役満扱いなので、二本場は３２２００オール。……俺の勝ちですね」

「げぇっ！ そりゃあ無(ね)ぇぜ、兄ちゃんよぅ…」

「ダブル役満とかそんなん考慮しとらんよ…」

「東一から親倍ツモ（８０００オール）、親っ跳ねツモ（６０００）。そして最後はダブル役満ツモ（３２０００オール）で三人仲良くぶっトび──ふふふ…」

結局のところオリバンダーさんの事は、〝取り敢えず〝お辞儀さん〟を倒してから〟と──投げっぱなしジャーマンを決めた俺は、〝イギリス国内に居る意味無くね？〟と云うことで〝その日〟が来るまでは日本に滞在しようと云うことになった。……当然〝姿あらわし〟での密入国だ。

お金については、用意するのは至極容易で──雀荘で強面(こわもて)のお兄さん方から金を巻き上げていた。

当初は〝倉庫〟から出した金銀財宝を質に入れると云う発想もあったが、俺達は密入国者なので当然却下。

俺は〝ほぼ勝ち確定のギャンブル〟が出来るので、三人分の滞在費を稼ぐなんてわけ無かったのだが、地味に悩んだのがその〝稼ぎ方〟であった。

いくつかの候補から〝面倒が残らない物〟を残していって最終的にパチンコか麻雀かの二択になり、一瞬どちらを選ぶか迷ったりもあったが、どちらにせよどうせあぶく銭には変わらないので〝どっちでも良いか〟と思い至る。

更にだめ押しとばかりに、〝別魅〟と“己が栄光の為でなく（フォー・サムワンズ・グロウリー）”を悪用すれば金が貯まる速度が極悪なまでに上昇するので、稼ぎの方は──詳しく語らなくても判るだろう。

時々〝御無礼〟が口癖の〝某・黒ずくめ〟のようなイレギュラーが居るが、総収支で云えば黒字だ。

……ちなみに、何故か俺はその黒ずくめに狙われまくり百万ほど持ってかれてしまったが、そのお陰か──とは思いたくないが、今まであやふやだった〝金の流れ〟に干渉するコツが何となく掴めたので百万程度なら全然安い出費だったろう。

閑話休題。

「テーレッテー──ん…？」

（……三人か）

「ご機嫌だな、ガキぃ…！」

「……いや、ガチで出現されても困るんだが」

「何を言ってるか知らねぇが──よくもまぁ、アホみたいにむしってくれたなぁ…」

「兄ちゃんや、ちょっくら〝忘れもん〟が有るんじゃねぇの？」

「まぁ、そういうこった。諦めな。……これもちょっとした社会勉強だと割り切って、ここは大人しく財布を出しといた方が身のためだ」

それはある意味〝御約束(テンプレート)〟と云うもので。

上の三家トばしは入店直後のちょっとしたデモンストレーションだとして、その後は大きく勝ったり巧く負けたりしつつ卓を変えながら〝巧く〟やっていたのだが、それでも勝ち過ぎたせいか雰囲気の悪くなった雀荘を出て数分後の事。

時間も良い感じだったし、〝集積所〟へ金を回収しに行き、それからアニーとハーマイオニーが待っているアジトに帰ろうと、〝姿くらまし〟が出来る様な路地裏へと足を踏み入れながら有名な処刑用ＢＧＭを口ずさんでいたら、本当に──冗談抜きで指先一つでダウン出来そうな輩に背後から声を掛けられた。

後ろを見るまでもなく声で判る。三人とも〝特に〟むしったやつらで、俺が雀荘を出るまで律儀に待っていたのだろう。

雀荘側が雇った代打ち屋なのだろうが〝サマ〟なんて使ってきたので、〝某・黒ずくめ〟よろしくツモ運を弄ってやり調子を上げさせたところで、憔悴した振りをしながらレートの引き上げを申告してから〝八連字一色大四喜四槓子四暗刻単騎〟と云う──もはやロマンですらあるセプタプル役満で綺麗に三家トばししてやった。親ツモだったので１１２０００オール。……やはり〝イカサマはバレない様に〟である。

……しかし彼らある意味に於(お)いて幸運だと云える。もしもこれが〝本家〟なら〝生存出来ている幸運〟まで吸い尽くすので、俺はまだ有情だろう──悪趣味なのは否定しないが…。

閑話休題。

（……これが、マンガとかだった主人公が助けに来てくれるんだろうがなぁ…）

「……ふんっ！」

現実逃避気味にそんな考えるが、慈悲を掛けてやる理由も思い付かなかったので、〝覇王色〟をぶつけ、三者三様に泡を吹きつつ崩れ落ちる。

それをちゃんと見届けた俺はこの場所から〝姿をくらます〟。……“己が栄光の為でなく（フォー・サムワンズ・グロウリー）”を解くのを忘れずに…。

更にそれから二日が経過して１０月３１日──ついぞ〝その日〟が来るのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

１０月３１日。ハロウィーン。平素ならハロウィンの雰囲気で色めきだっているが、〝お辞儀さん（テロリスト）〟が猛威を奮っている今日日(きょうび)の魔法界は自粛ムードが漂っている。

そんな１０月３１日を迎えた俺達三人の姿は、ゴドリック谷に在った。

〝１０月３１日〟と云う、今日の日付は、この【ハリー・ポッター】な世界線に於(お)いて、一部の人物達からしたら、ハロウィン以上に強い意味を持っている。……アニーの両親であるジェームズ・ポッターとリリー・ポッターがピーター・ペティグリューの保身からの裏切りで命を落とした日にちであるからだ。

……早い話がアニーの両親の墓参りのついでに、いよいよ〝お辞儀さん〟に王手を掛けに──〝分霊箱(ホークラックス)〟を壊しに、ゴドリック谷へ訪れていた。

（……っ、ビンゴ…！）

ゴドリック谷に〝姿あらわし〟をして、まずは仙術でいつもより意識的に──１ｋｍ以上に探知範囲を伸ばし、〝在って欲しかった気配〟を察知して、破顔しそうになるのを堪(こら)える。

どうやら〝１０月３１日〟と云う日付に強い意味を見出だしているのは俺達だけではないらしく──もしくは俺達以上に〝お辞儀さん〟は、〝１０月３１日〟と云う日付に関して重く考えている様だ。

……その証拠が今しがた仙術で察知した〝在って欲しかった気配〟だ。……〝お辞儀さん〟は俺達が──と云うより、アニー・ポッターが今日(こんにち)である１０月３１日に墓参りに来るのを予測してくれていたらしい。

（……しかも、〝他の知った気配〟が無いってことは…。……〝お辞儀さん〟も難儀してるだろうなぁ…）

三人で墓地があるであろう教会の方へ歩きながら、他人事ながら俺はそんな事を考えていた。

今日(こんにち)──１９９７年１０月３１日のゴドリック谷は、アニー・ポッターが成人して初めて迎える両親の命日かつ、両親が逝去(せいきょ)した場所であることからして、〝アニー・ポッターが訪れる公算が高い場所〟と云っても良い。

そこに〝他の知った気配〟──つまりは、≪死喰い人(デスイーター)≫が居ないと云う事は、〝お辞儀さん〟は≪死喰い人(デスイーター)≫へと本格的に見切り付けだしたと云う事だ。

「……ここよ」

ハーマイオニーの言葉にメインの意識を呼び起こす。サブの思考でアニーとハーマイオニーの会話をしながら、メインの思考で〝お辞儀さん〟の現状についていろいろと考察している内に〝目的の場所〟──ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの墓前に辿り着いていた。

墓標には以下の様に記されている。


――――――――――――――


ジェームズ・ポッター
１９６０年３月２７日生、１９８１年１０月３１日没

リリー・ポッター
１９６０年１月３０日生、１９８１年１０月３１日没


最後(いやはて)の敵なる死もまた滅ぼされん


――――――――――――――


（最後(いやはて)て…）

「……これくらいしか出来ないけど」


――“花よ（オーキデウス）”


俺が形式ばった表現に嘆息していると、アニーは両親が永遠に眠る場所へ花を添える。ハーマイオニーはそんなアニーに寄り掛かるがアニーは「大丈夫だよ」と優しく、朗らかな口調でを安心させた。

アニーの雰囲気が元に戻ったのを確認したのか、改めて俺、アニー、ハーマイオニーの三人は改めてアニーの両親へと黙祷を捧げた。

………。

……。

…。

「……この［最後(いやはて)の敵なる死もまた滅ぼされん］って──やっぱり〝死後に生きましょう〟って事なのかしら」

「……だろうな」

「……うん、そうだろうね」

黙祷の後、墓標に最後に記されてある、［最後(いやはて)の敵なる死もまた滅ぼされん］と云う一文についてハーマイオニーがこんな持論を述べる。俺も──またはアニーの反応からしてアニーもハーマイオニーの推論にはおおよそ賛成なのだが、俺とアニーはビミョーな気持ちで答える事しか出来なかった。

俺とアニーは〝転生〟と云うカタチで、ハーマイオニーの言う、その──〝死後に生きているもの〟になっているのだ、然もありなんである。

……ちなみに〝あの夜〟にハーマイオニーには俺と円(アニー)が〝多生の縁〟であることは聞かせてある話だったりする。

閑話休題。

「……ここがボクの生家」

「ああ、掲示板に落書きしちゃいけないのに！」

「別に良いよ、ハーマイオニー。寧ろ父さんと母さんの死を悼(いた)んでくれて嬉しいし」

墓参りを済ませた俺達三人は〝どうせならアニーの生家を見ておこう〟となり、アニーとハーマイオニーの会話をサブの思考で聞き流しつつメインの思考では〝気配察知〟で〝それ〟の動きを随時観察していた。

（……そろそろアニーとハーマイオニーだけ帰して、単独で強襲しようかね──お？）

俺達三人がこの【ゴドリック谷】に訪れてから一時間半弱。そろそろ痺れを切らしていた俺は、サブの思考で時折二人から振られてくる話題に適当に相槌を打ちつつそんな事を考えていると、恐らくそれがフラグだったのか──〝それ〟が動き出したのを察知した。

（来たっ）

「……悪い、ちと中座するわ」

「トイレ？ 行ってらー」

「アニー、はしたないわよ」

そう断りを入れて、大して訝(いぶか)っていない様子のアニーとハーマイオニーから離れ、二人から見えなくなるやいなや〝倉庫〟へ手を突っ込み、“バジリスクの牙”を取り出す。

……その後、俺がアニーとハーマイオニーに〝現場〟を見せるまで──たった２５０秒弱のことであった。

ＳＩＤＥ ＥＮＤ