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英雄伝説~西風の絶剣~

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第41話 黒いオーブメント

 
前書き
 話には出ていませんがフィーもアイナから予備の戦術オーブメントを借りていますのでアーツを使えます。 

 
side:リィン


 フィーを連れてロレントに戻って来てから一か月程が過ぎた。ロレントに戻って来てからは大きなトラブルもなく久しぶりに平穏な日々を送っていた。


「ふみゅ……リィン……」


 今は手伝いを終えてフィーと一緒にお昼寝をしている最中だ。フィーは俺の膝を枕にして気持ちよさそうに眠っていた。俺はフィーを撫でながら本を読んでいる。


「気持ちよさそうに眠ってるな……」


 幸せそうに眠るフィーを見ているととても安心できる、俺にとっては何よりもリラックスできる光景が寝てるフィーを見ることだ。


 暫くフィーの頭を撫でながらリラックスしていると部屋の扉が開いてアイナさんが入ってきた。


「あ、リート君。ここにいたのね。あら、フィルとお昼寝していたの?本当に仲がいいのね」
「はは……所でアイナさん、何か用事があるんですか?」
「そうだった、フィルの寝顔を見ていたら忘れてしまう所だったわ。実はあなたにお願いがあってきたの。ちょっと上まで来てくれるかしら?」
「そういう事なら分かりました」


 俺はアイナさんの言葉に頷くとフィーの頭を持ち上げて枕を差し込み、俺はベットから降りて上の受付に向かった。


「よお、お前がリートか?」
「あなたは?」
「俺はグラッツ。ボース地方を担当してる遊撃士だ。よろしくな」


 受付まで上がってきた俺に赤い髪の男性が声をかけてきた。どうやら遊撃士の人らしい。


「初めまして、グラッツさん。俺はリートと言います」
「知ってるよ、なにせあの空賊事件をシェラザードと一緒に解決した民間協力者なんだろう?」
「いえそんな……俺は大した事はしてません」
「謙遜すんなって、大したもんだよ。どうだ?将来は遊撃士になってみないか?」
「あ、あの~、俺に用事があるんでしたよね?」
「おっと、そうだった。まずはこれを見てくれ」


 グラッツさんは懐から黒いオーブメントを取り出して俺に見せてきた。


「これはオーブメントですか?でもこんな複雑そうな物は初めてみました」
「実はこのオーブメントは空賊たちのアジトに置かれていたらしいんだ」
「えっ?それにしては随分と発見が遅れましたね?」
「どうも空賊たちのボスが秘密の隠し部屋に色々価値のある物を隠していたらしくてな、こいつもそこに保管されていたため発見するのに時間がかかっちまったんだ。なにせそのボスがほとんどの事をおぼえてないんだからな」
「そうだったんですか、でもこのオーブメントをどうして俺に?見た所こんな物は初めて見たんですが……」


 俺はこんなオーブメントは無いのでどうしてグラッツさんが俺にこれを見せてきたのか分からなかった。


「これを見てくれ」
「手紙……ですか?」


 グラッツさんが懐から取り出した手紙を見てみるとこのオーブメントは誰かがカシウスさんに送ろうとしていたらしい。カシウスさんに送ろうとしていた人物の名前は書いてなくKというイニシャルだけが手紙に書かれておりそのKという人はこれをカシウスさんに『R』博士という人物にこのオーブメントを渡すよう手紙に描かれていた。


「送り主の名前はKか……このオーブメントは誰かがカシウスさんに送ろうとしていたんでしょうか?」
「そうみたいね、でもR博士って一体誰なのかしら?」
「博士って事は技術者なのは間違いないな、ただゼムリア大陸には名のある人物が多すぎて誰を示しているのか分からないな」


 まあRというイニシャルだけで判断するのは難しいだろう。


「でもこのオーブメントがカシウスさん宛なら俺じゃなくてご家族のエステルさんに渡すべきじゃないんですか?」
「俺もそう思ったんだが生憎依頼が溜まっててな、他の遊撃士も動けない状態なんだ。俺もボースからロレントまでの護衛の依頼を終えて近くに来ていたからここにこれたんだ」
「動けない状態ですか?」
「最近魔獣の動きが更に活発になってきたの。その対応のお陰で私たちは休む暇もないわ」


 だからシェラザードさんや他の遊撃士の人も朝から姿が見えないのか。


「そんなことも知らずに休んでいたりしていたなんて……すみません」
「謝ることはないわ、あなたは遊撃士じゃないもの。寧ろそれ以外の雑用を手伝ってもらっているのに文句なんて言えないわ」


 俺はすまないとアイナさんに頭を下げるがアイナさんは逆に俺に頭を下げてきた。


「かといって普通にエステルの所に送ろうとしても匿名までしてカシウスさんに送ろうとしていた物だ、何者かに狙われるかもしれないしな」
「狙われる……」


 俺はグラッツさんの言葉を聞いて不意にボースやルーアンで見た黒装束たちを思い出した。


「なるほど、ある程度腕が立つ者が必要なんですね。でもいいんですか?俺はあんまり危ない事は出来ないんですが……」
「まあな、でも今は猫の手も借りたいほど忙しくてな、正直どうしようもねえんだ」
「私としても本当は駄目って言いたいんだけど今は本当に切羽詰まってるの。頼めないかしら?」


 アイナさんがそう言うって事は本当に人手が足りてないんだな……よし、ここは力になろう。


「分かりました、それをエステルさんたちに届ければいいんですね。ちょうど暇をしてますし俺にやらせてください」
「すまないな、エステルたちはルーアンからツァイスに向かっているらしい」
「ツァイスですか、分かりました。直に向かいます」
「何だったらツァイスの温泉にでもよってゆっくりしてきてもいいのよ?」
「いや、流石にそんな……」
「いいじゃない。フィルと再会できたプレゼントだと思って行って来たら?というかフィルは行きたそうにしてるけど?」
「えっ?」


 後ろを振り返るとフィーが目を擦りながら階段を上がってきているのが目に映った。


「フィル、いつからそこに?」
「ん、ついさっき。ねえリート、温泉に行くの?ならわたしも行きたい」
「いや、まだ行くと決まった訳じゃ……」
「駄目?わたし、温泉に行ってみたいな……」


 フィーは上目遣いでおねだりしてきた。しょうがないなぁ……


「分かったよ、折角のご厚意だし行ってみよう。でもまずはエステルさんにこのオーブメントを渡してからだよ」
「ん、了解」


 こうして俺とフィーは工房都市ツァイスに向かう事になった。



―――――――――

――――――

―――


「着いたな、ここが工房都市ツァイスか」
「工場みたいな街だね」


 定期船を降りて発着場から街に出た俺とフィーは街を一望して言葉を漏らした。至る所に導力器が立ち並ぶツァイスの街はまさに工房都市の名に相応しい光景だった。


「あ、リィン見て。動く階段がある」
「帝国のルーレにもあったな。前にラインフォルト社の依頼を受けた時に見たものと同じだ」


 エレボニア帝国ノルティア州にある街、『黒銀の鋼都ルーレ』。そこで動く階段のオーブメントを見たことがあるがツァイスにもあるのか。


「おっと、珍しい物を見ている場合じゃないな。まずはエステルさんとヨシュアさんに会うためにこの街のギルドに向かわないと」
「ギルドは中央工房の前の大通りにあるんだよね、それじゃレッツゴー」


 フィーは俺の手を取ると嬉しそうにギルドへと向かおうとする。そんなにも温泉が楽しみなのか?俺は苦笑しながらもフィーに引っ張られながらギルドに向かった。


「ここがツァイスの遊撃士協会ギルドだな」
「んじゃさっそく入ろうっと」


 ギルドについた俺たちは扉を開けて中に入る、すると受付にいた黒髪の美人がこちらに振り返ってきた。


「こんにちは、ロレント支部から来た使いの者ですが……」
「来たわね、あなたたちの事は既に伺っているわ。私はキリカ・ロウラン、よろしく」
「リートです、宜しくお願いします」
「フィルだよ、よろしく」


 俺とフィーは偽名で自己紹介するがこのキリカって人は何か武術を学んでいるんだろうか?自然体に見えて隙が無い、フィーもちょっと警戒しているようだ。


「あら、どうかしたのかしら?」
「いえ、その……いきなりで申し訳ないんですがキリカさんって何か武術の心得でもあるんでしょうか?」
「どうしてそう思ったのかしら?」
「立ち振る舞いに隙がなくてその……失礼ですが一瞬警戒してしまって……すいません、変な事を聞いたりして」
「構わないわ、それにしても流石はあの八葉一刀流の使い手の事はあるわね。ある程度は抑えていたんだけど感づかれるとは思ってなかったわ」


 キリカさんが八葉一刀流の事を話したので俺は驚いてしまった。


「俺が八葉一刀流を学んでいることを知っているんですか?もしかしてキリカさんは同門の方なんですか?」
「残念ながら私は違う流派よ、あなたのことはアイナから聞いてるわ。危なっかしいお人よしの子がそっちに行くからよーく見張っていてね、と言っていたわ」
「アイナさん……」


 俺はアインさんに信頼されているのかされてないのか分かんなくなってきたよ、そりゃ問題を起こしたりしたかも知れないけど殆どがオリビエさんのせいじゃないか。


「ん、まあリートは危なっかしいとは思うから間違ってはないと思う」


 しまいにはフィーにまで言われるし……そんなに危なっかしいのか、俺は。


「ご、ごほん。キリカさん、話は伺っていると思いますが、エステルさんとヨシュアさんは何処でしょうか?早くこのオーブメントを渡したいんですが……」
「既に話は聞いているわ。ただその二人はまだツァイスに到着してないわね」
「あれ?そうなんですか。参ったな、早く来すぎてしまったか……」


 まさかエステルさんとヨシュアさんがまだ来てなかったとは思ってなかった。困ったなぁ……


「それなら二人が来るまで街の観光でもしてきたらどうかしら?」
「えっ、いいんですか?」
「何時来るか分からないしお客様をただ待たせておくのも悪いわ、二人が来たら話は伝えておくから今は時間を潰してきたらどうかしら?」
「うーん、どうしようか……」


 仕事も終えずに遊ぶには猟兵としてプライドが許せないんだよなぁ……でもこのままここでボーッとしてても邪魔になりそうだしここは甘えておくか。


「分かりました。お言葉に甘えて少しこの街を周ってきます」
「ええ、楽しんでらっしゃい。でも街道には行かないでね、流石に分からなくなってしまうから」
「了解です。じゃあフィル、行こうか」
「うん。キリカ、また後でね」


 キリカさんに挨拶をして俺とフィーはツァイスの街を観光することにした。


「さてと、まずは何処に行く?」
「適当にブラつきながら考えようよ、どうせこの街の事は詳しくないし」
「確かに初めて知らない街に来たら取りあえず地理を覚える癖が出来てるしそうするか」
「うん、それじゃレッツ…」
「はわわ、急がなきゃ急がな……きゃあ!?」
「リート!?」


 ぐわぁ!?背中に鈍い痛みが走ったぞ!?何が起きたんだ?俺は痛む背中を摩りながら背後を振り返ると金髪の少女が尻もちをついて座り込んでいた。


「大丈夫か?すまない、道の真ん中に立っていたからぶつかってしまった」
「怪我はない?」


 俺とフィーはぶつかってしまった少女の安否を心配するが少女は立ち上がると俺たちに頭を下げてきた。


「こ、こちらこそごめんなさい!慌てていたからってぶつかっちゃうなんて……お怪我はありませんか?」
「俺は大丈夫だ、君こそ怪我はないか?」
「はい、私は平気です。本当にごめんなさい」


 少女は済まなそうに頭を下げる、怪我がなくてよかったよ。


「気にしなくていいよ、それにしても随分重たそうな荷物を持っているんだね?」
「工具鞄に小型の導力砲……一杯ある」


 小さな女の子が持つには些か重いだろうと思うくらいの荷物を持っている、どれも技術者が使いそうな道具ばかりだ。お父さんのお手伝いでもしていたのかな?


「はい、これからカルデア隧道に行って導力灯を直しに行くところだったんです」
「直しにって……まさか君が?」
「はい。こう見えても私、技術者見習いなんです。導力灯くらいなら修理できます」


 技術者だったのか、でも一人で行くつもりなのか?


「護衛の人とかはいないのか?」
「はい、大人の人は忙しそうですし私が直してこようかなって」
「流石に危なくない?隧道には魔獣が出るはずだよ?導力灯は魔獣を近づけない効果があるけどそれを直しに行くって事は今は正常に起動していないってことだよね、直してる間に魔獣に襲われても戦えるの?」
「あ、それは……」


 どうやらそこまでは考えが回らなかったらしく少女はあうあうと困った様子で困惑していた。


「……もしよかったら、俺たちが付いていこうか?」
「えっ……?」
「こう見えても武術の心得はあるし足手まといにはなるつもりはない。どうかな?」


 俺がそう提案するとフィーが俺の服の裾を引っ張ってきた。


「どうした、フィル?」
「どうしたじゃないよ。街道には出るなってキリカから言われてたでしょ?」
「それはそうだが……この子、ほっといたら一人で行ってしまいそうだし見過ごすよりはマシだろう?まあなにかあったら一緒に怒られてくれ」
「もう……でもわたしもそう思ってたししょうがないから付き合うよ」
「ありがとうな、フィル」


 取りあえずこの少女についていくことにしたのだが当の本人は困惑した様子で俺たちを見ていた。


「ど、どうしてそこまで気を使ってくれるんですか?」
「んー、まああれだよ。東方の言葉で『旅は道連れ世は情け』っていう言葉があるんだ。要するに助け合いが大事って事さ」
「そういうこと、だからあなたが気にすることはない」


 俺とフィ―がそう言うと少女は嬉しそうに微笑んで頷いた。


「えへへ、ならお願いしますね」




―――――――――

――――――

―――


「ここがカルデア隧道です」


 中央工房からエレベーターを使って地下に降りると薄暗い地下道が続いていた。


「薄暗いね、導力灯が無かったら完全に真っ暗闇になってそう」
「地下というだけあって圧迫感も凄いな……」


 洞窟に入ることはそうないので地上とは違う景色につい目を奪われてしまった。


「それでティータ、その設備不良の導力灯はどこにあるの?」
「ルーアン地方側の入り口近くにある導力灯です、でも本当にいいんですか?護衛してもらってもお礼はできそうもないんですが……」
「いいんだって、このままティータを見捨てて君に何かあったら目覚めが悪いからな」
「そういう事、だからあなたは気にしなくていい」
「リートさん、フィルちゃん……はい!お願いしますね!」


 俺とフィーがそう言うとティータは嬉しそうに笑顔を浮かべた。ティータとは既に自己紹介を終えているのでお互いに名前を呼びあっている。
 俺たちはカルデア隧道の奥を進んでいくが道中はそこまで魔獣に襲われることはなかった、ちゃんと導力灯が効果を発揮している証拠だな。でも……


「リート、あそこ……」
「ああ、あれが問題の導力灯みたいだな……」


 前方に魔獣がうじゃうじゃと集まった場所が見えた、どうやらあそこが目的の場所のようだ。


「よし、まずはあの魔獣の群れを片付けるからティータは後ろにいてくれ。フィルはティータの護衛を頼む」
「了解」


 ティータをフィルに任せた俺は太刀を抜いて魔獣たちに向かった。まずは小手調べだ。


「四の型、『紅葉切り』!!」


 すれ違いざまに複数の斬撃を放ちワーム型の魔獣と亀形の魔獣を4体ほど切り裂いた。俺に気が付いた魔獣たちが攻撃を仕掛けようとしていたがそんな暇は与えはしない。


「遅い、ニの型『疾風』!!」


 魔獣たちが攻撃してくる前に俺は居合切りを放ち、残っていた6体ほどの魔獣を切り裂いた。


「……これで終わりか」


 太刀を鞘に戻して周囲を確認するが魔獣の気配はない、とりあえずは安全の確保が出来たな。


「二人とも、待たせたな」
「ん、流石リート。準備運動にもならなかったね」
「す、すごいです!消えちゃったと思ったら魔獣が斬られてました!」
「このくらいは大したことないさ。それよりもティータ、導力灯の修理はしなくてもいいのか?」
「あ、そうでした!早速始めちゃいますね」


 ティータはそう言うと工具袋からスパナやらドライバーを出して修理に入った。その間、俺たちは再び魔獣が来てもいいように周囲を警戒しておく。


「うんしょ、うんしょ……ここをこうして」
「……見習いとは思えないほど手際がいいね」
「えへへ、お爺ちゃんに比べたら大した事ないよ」


 フィーがティータの手際の良さを褒めるがあの年で大したものだ。俺とフィーもトラップや導力地雷を作ったりするがあそこまで手際よくはできないな……おや?


「……リート」
「ああ、なにか来るな」


 ルーアン地方側の隧道から何かがこちらに近づいてくるのが気配で感じ取れた。もしかしたらまた魔獣が来たのかもしれない。


「リートさん、何かあったんですか?」
「ティータ、何かがこっちに近づいてきているんだ」
「ええっ!?もしかして魔獣ですか!」
「もし魔獣なら俺たちが相手をするからティータは気にせず作業を進めていてくれ」
「わ、分かりました!お願いします!」


 俺はそう言うと再び太刀を出して警戒をする、そしてその気配がどんどんと近づいていき……


「あれ?リート君?」
「エステルさん!?」


 やってきていた気配はエステルさんとヨシュアさんだった……何故かデジャヴを感じるな。
 
 

 
後書き
 
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