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食い合わせ

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第二章

 次の日板垣は朝から武芸の鍛錬に励み学問もしていた、そうして昼には飯をたらふく食っていた。それは夜も同じで。
 彼は笑ってだ、自分が何ともないことに驚いている村人達に話した。
「この通りじゃ」
「何ともないですな」
「それも全く」
「腹も下さず」
「平気に見えますが」
「観ての通りじゃ、腹も下しておらずな」
 そしてと返す板垣だった、今の自分に驚いている彼等に。
「武芸も学問もな」
「励まれていましたな」
「それも実に」
「夜も平気なご様子ですな」
「酒も美味いぞ」
 今は村人達を己の家に呼んで共に酒を飲んでいるがこの時もだった。
「実にな」
「酒も普通に飲まれていますし」
「それではですな」
「まことにですな」
「何もないですか」
「この通りな、あと昨日天麩羅の話も出たが」 
 板垣はふと出たこの言葉も忘れていなかった。
「天麩羅には西瓜じゃな」
「はい、この食い合わせもです」
「一緒に食うと腹を下しますな」
「共に食うとよくありませぬ」
「そう言われています」
「明日はどっちも食う」
 その天麩羅と西瓜をというのだ。
「そうするぞ」
「明日はですか」
「そちらを食されますか」
「天麩羅と西瓜を」
「そうされますか」
「そうする」
 こう言ってだった、板垣は次の日村人達に天麩羅を挙げてもらい西瓜も出してもらってだった。そうして。
 その二つを食べた、村人達はこの度も彼を心配したがそれでもだった。
 彼は平気だった、それで言うのだった。
「この通りじゃ」
「ううむ、何もありませぬな」
「この度も」
「そういうことじゃ、食い合わせはな」
 このこと自体にだ、板垣はこの度も笑って話した。
「迷信でしかないな」
「実はですか」
「何もないのですか」
「共に喰らっても」
「そうなのですな」
「そうじゃ、拙者を見てわかったな」
 実際に食った自分をというのだ。
「これで」
「はい、確かに」
「そういうことですな」
「食い合わせの話は迷信でしたか」
「それに過ぎませんでしたか」
「迷信は実際かどうか確かめることじゃ」
 それが大事だとだ、板垣は彼等に話した。
「実際にやってみてその通りなら信じよ、しかしな」
「そうならないなら」
「信じないことですな」
「それが大事ですな」
「そうじゃ、それをせぬことじゃ」
 くれぐれもというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「それではです」
「我等もう食い合わせの迷信は信じませぬ」
「二度と」
「その様にな」
 板垣は目を覚ました様な顔で頷いた村人達に会心の笑みで応えた、そうして彼が蟄居を解かれてだった。 
 土佐に戻った時に幼い頃から付き合いのある後藤象二郎にその話をすると後藤は板垣に笑ってこう言った。 
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