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狐の試験

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第二章

「それで今こうして人に変化することも出来ています」
「そのうえでだな」
「はい、さらに上の試験に及第してです」
 そのうえでというのだ。
「より格が上の仙人、仙狐になる必要がありまして」
「学問を積む為にだな」
「然るべき場所を探してここに来ました」
「事情はわかった、では一つ空き部屋がある」
「そこに入ってですか」
「学ぶといい、そしてだ」
「はい、より上の仙人つまり仙狐になります」
 李は確かな声で言った、そうしてだった。
 彼は陳が提供してくれた部屋に入り朝から晩まで学問に励んだ、陳は家の者達には科挙を受ける書生が入ったと話した。李は少なくとも知らぬ者にはそう見えたので問題はなかった。
 暮らしは李は銀や金を多少でも出せる術を備えていたのでそれで飯や服、筆を買っていて彼だけで行っていた。それで陳は部屋を貸すだけで済んでいたが。
 その李にだ、陳はある日彼があまりにも熱心に学問に励んでいるので彼を外に誘い共に飯を食いつつ尋ねた。
「毎日学問に励んでいるが」
「そうしないとなんです、これが」
「上の試験にはか」
「及第出来ないんですよ」
「まさに科挙だな」
「はい、科挙は三年に一度ですがね」
 試験が開かれるのはだ。
「こっちは毎年でその分機会が多いですが」
「それでもか」
「もう殿試までありまして」
「泰山娘々が直接行うか」
「そこまであって今私は郷試に及第してです」
「人に変われる様になってだな」
「人の言葉を喋られる様になりました」
 その段階だというのだ。
「後は仙術を備えて」
「それは介試に及第してだな」
「出来る様になります」
「それで殿試に受かればどうなる」
「それでようやく天狐になれるんですよ」
 狐の最高位にというのだ。
「言うなら進士ですね」
「科挙で言うだな」
「それになればもう」
「進士になれば位人臣を極めるのも夢ではない」
 陳は人の世界のことから話した。
「そうなるが」
「狐もそれは同じでして」
「天狐になればか」
「はい、狐祖師と言われるまでになります」
「神だな」
「そうなります、狐の神ですね」
 天狐になればというのだ。
「尻尾も九本になりまして」
「成程な」
「それで私はそれを目指してます」
「天狐になることをか」
「進士になることに」
「進士になれる者は稀だ」
 科挙を受ける者は多いがとだ、陳は李に険しい顔で述べた。
「それで狐もだな」
「それこそ試験を受けられるまでになる者も稀で」
「字を読める狐もだな」
「そうです、そこも人と同じで」
 明代の中国もそうだった、誰もが文字を読める様になれるのは近代教育が普及してからのことである。
「そこでかなり減りまして」
「字を読めてもだな」
「試験を受けてもです」
「生員になるにもだな」
「はい、難しくて」
「そして」
「はい、次の会試も難しくて」
 飯を食いつつ話す李だった。 
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