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経済侵略

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第一章

               経済侵略
 日本は第二次世界大戦の戦禍から立ち直り発展の道を進んでいた、世界各国と貿易を行い日本の製品を売る様になり貿易立国として繁栄の道を歩んでいた。
 だがその繁栄を見てだ、学生運動に参加している学生達は言い出した。
「今の日本の貿易は違う」
「そうだ、それは繁栄ではない」
「あれは侵略だ」
 それだと言い出す者が出て来た。
「第三世界にものを売りつけて儲けているだけだ」
「無理に買わせてな」
「現地に進出もしているぞ」
 企業、彼等が忌み嫌う資本家達がだ。
「そして現地でものを造っている」
「現地の人達を雇ってな」
「安い賃金でこき使っている」
「労働者として搾取している」
「そうして造ったものを現地で売る」
「買わせているんだ」
 そうなるというのだ。
「そうして儲けている」
「これは搾取だ!」
「資本家が労働者を搾取している!」
「植民地とどう違う!」
「植民地主義だ!」
「新植民地主義というものだ!」
 こうした造語まで出て来た。
「日本の経済侵略だ!」
「何が日本だ日帝だ!」
「やっていることは大日本帝国と変わらない!」
「日本の経済侵略反対!」
「資本家の横暴を許すな!」
「搾取をさせるな!」
 この時彼等はベトナム戦争に反対しアメリカに協力していると彼等がみなしている日本政府にも反対していたがこの経済侵略にも反対しだした。
 それでヘルメットを被りゲバ棒を振り回し集団で主張したがその彼等を見てだった。八条商事の新入社員田中直哉はその細面で太い眉と四角の形の顎、やや彫のあるしっかりとした目の顔をいぶかしみさせて言った。背は一七五程で空手で鍛えた逞しい身体をしている。
「あの連中何言ってるんですか?」
「言ったままだよ」 
 彼の直接の上司である荒岩健作主任はこう返した、一九〇近い堂々たる体躯は今も嗜んでいる柔道によるものが大きい。見事な顎を持つ偉丈夫である。
「日本の経済侵略に反対しているんだよ」
「あの、前はですね」
「ベトナム戦争にだな」
「反対とか言ってましたよね」
「それで今はだよ」
「ああしてですか」
「日本の経済侵略に反対しているんだよ」
 二人は仕事の外回りに出ていた、それで乗っている車が京大の前を通ると丁度彼等を見掛けたのだ。二人が勤務しているのは京都支社であるから京大の方も通ったのだ。
「現地にものを売りつけるとか労働者をこき使ってるとかな」
「現地って」
「東南アジアとかだよ」
 荒岩は田中にすぐに答えた。
「あの辺りだよ」
「あそこうちの企業も進出してますけれど」
「グループ全体でね」
「普通に給料も高いですよね」
「待遇もいいね」
「商品も売ってますけれど」
 それでもと言う田中だった。
「高く売りつけたりしてないですよ」
「そうだね」
「普通にしてますけれど、あとうちのグループ以外の企業も進出してますけれど」 
「おかしな企業もあるけれどね」
「はい、そんな企業はかなり少ないですし」
 あくまで少数派だというのだ、不心得者はどの世界にもいるということだ。
「大抵の企業は普通にです」
「仕事をしているね」
「ビジネスですね」
 田中はこの時代では新しい言葉を出した。 
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