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NEIGHBOR EATER

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EATING 26

清輝隊 隊室 リビング兼作戦室

現在時刻23:30

「ふーむ…」

今日は雪乃と陽乃は実家の方に居る。

そんな訳で翼はOP用PCを開いて先日の雪乃の戦闘のログを見ていた。

防衛任務時はカメラこそない物の、トリオン体の3Dワイヤーフレームのログは残る。

翼はそれを見ていたのだが…

「こんな夜遅くまで如何されましたか主様?」

自室から夜架が出てきたが、翼はそちらを見る事もなくワイヤーフレームの解析を続ける。

「んー?雪乃のログを見ていたんだ。
あとお前とハルの今までのログもな」

雪乃の動きはハルと夜架の動きを参考にしているようで、画面の中の動きに類似性があった。

「オペレーターというログを目にする事の多い立場だとしても、見よう見真似でここまでできるのはただただ感心するばかりだ」

「それはもしや…」

「雪乃にもトリガーを持たせてもいいかもしれないと思ってな」

「陽乃様が反対されるかと」

「防衛任務でオペレーターと戦闘員を代わった時点でそれは無い」

「……………」

「とにかく、明日は土曜日だ。
雪乃もたぶんこっちに来るだろうからその時に話してみるよ」

夜架が、気配を消して翼の背後を取る。

PCの画面にも移らない徹底ぶりだ。

「どうした夜架」

だが、翼はそんな事は知らないとばかりに夜架に声をかけた。

「やはりわかりますか」

「わからない訳ないだろう?
気配は消せても命は消せないからな」

「サイドエフェクト『ハイパーセンス』ですか?」

「知らん。申請も検査もしてないからな」

翼のトリオン量は『測定不能』。

食らった数百のトリオン器官の並列稼働とフリューゲルによる空間トリオンの吸収。

ほぼ無蔵限ともいえるトリオンを持つ翼に、サイドエフェクトがない筈がないのだ。

「主様、現在の知覚範囲は如何程ですか」

「【開眼】すれば三門市全域。ゲートの開閉から個々人の居場所まで全て。
通常時でもボーダー本部内の全て」

「トリオン感知能力…強化五感とハイパーセンスの中間といった所ですか」

夜架が翼の髪をすく。

照明の光を反射して七色に輝く長髪。

「市内全域をカバーする知覚能力…
普通であれば廃人まっしぐらですね」

「生憎俺は普通じゃない」

唐突に、翼の全身が膨張した。

一対の羽、光輪、虹色の髪はそのまま。

だが、PCの画面に反射する顔は夜架と瓜二つだった。

「俺にはもう肉体と呼べる物があるかどうかすら怪しい。
脳ミソすらもうトリオンに置き換わっているかもしれない」

「………」

「イメージ次第でこんな事ができるのが証拠だ」

翼の体が縮み、元の姿へ戻った。

「主様は普通の人間に戻りたいという考えはありますか?」

「いやぜんぜん。この体は楽でいいぞ。
一月は眠らずに済むし、物を食べる必要すらない」

翼の体は周囲からトリオンを集めれば休息や食事をする必要がない。

「よろしいのですか?ご自身の体に未練などは…」

「あると思うか?」

「失言でした」

「お前が『羽々斬』を捨てたのと同じだと思えばいいさ。
この体になったからこそ俺は生きてるんだから」

夜架は、翼の髪を触るのをやめ、後ろから翼に抱きついた。

「主様」

「なんだよさっきから。
今日のお前は酷く感傷的だな。
『羽々斬』を捨てたのはやっぱり無理があったんじゃないか?」

夜架は、翼の耳元で囁いた。

「もし、主様がヒトでなくなっても、私はこの身が朽ち果てるまで主様と共にいます。
もしも世界の全てが主様を排すると言うのなら、切姫の名の下に全てを切り捨てて御覧にいれましょう」

「それは…とても心強いな」

肩に乗った夜架の顔に手を伸ばし、頬に触れた。

「なぁ、夜架。お前はどうしてそこまで俺を慕ってくれるんだ?
俺はお前の思うような、神様みたいな人間じゃないぞ?」

夜架はクスリと笑った。

「そう言えば、主様には話していませんでしたね」

翼は他人に踏み込まない。

他人は、どこまで行っても他人なのだから。

「あの日、目の前でネイバーに父を殺されても私は何も感じませんでした。
でも父を殺したネイバーが光に貫かれ、その光を放った者を見たとき、私の中の何かが疼いたのです」

夜架は『死』に何も感じない。

生まれながらにして他者を害する事に戸惑いを抱かない歪な人間だった。

「私はその『何か』を確かめたくてボーダーに入ったのです。
そして初めて主様を見た時、私は主様に仕えたいと思ったのです」

夜架の奥底にあった物。

「私の全てを捧げたい。私の全てを支配して欲しいと、そう思ったのです」

それは従属欲。

その強さによって全てを退けてきた夜架は常に支配する側の人間だった。

実際に支配する事はなくとも常に上位者であり続けた。

そして、無意識の内に、自らを従えうる存在を、自らを守護してくれる存在を求めた。

「私は私を守ってくれる人を、探していたのかもしれません」

夜架の語った事は、翼の知り得ぬ事だった。

「そうか…」

「主様は、きっと私の事など認識していなかったでしょう。
ですが、私にとっては、あの瞬間こそが、始まりなのです」

話を聞いた翼は、笑いだした。

「はははは!そうか!あの時のやつか!
懐かしい!そうかそういう事だったか!」

ひとしきり笑ったあと、翼は体を回し、夜架と向き合った。

「いいぜ守ってやる。お前が俺に全てを明け渡すって言うなら、俺は全力を以てお前を守ろう」

夜架のサファイアとアメジストが翼の瞳の十字架に磔にされる。

「お前は俺の物だ。だから守る」

翼は率いる者として、支配欲を抱くようになった。

それは、子供が自分の玩具を取られたくないと言うような物。

「ええ、私の全ては主様の所有物ですわ」

支配する者。

支配される者。

その契約が、結ばれた時だった。










「主様そろそろ寝ましょう」

「ん。わかった」

二人はベッドに入った…が。

「主様」

「んー…? なにー…? どうしたー…?」

「私の全ては主様の物なんですよ?」

「うんー…守るよー…」

「私の胎も、主様の物なんですよ?」

「うんー…そだねー…」

「やっぱりわかってないじゃないですか」

「なにがー?」

「いえ、なにも。高望みはするべきではありませんね」

夜架としては、自分を支配してくれるというだけで満足ではあるのだ。

だが、それでも…

「zzz…」

「全てを捧げるって、プロポーズですよバカ…」
 
 

 
後書き
翼は隊室内では常に羽を出しているし光輪も隠していません。
あと翼と夜架が二人きりの状態は結構頻繁におきます。 
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