| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

憤怒身

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章

「それからお湯に入りなさい」
「そうさせてもらうね。けれどね」
「また明日行くのね」
「そうするよ」 
 甲子園に行くと言ってだ、寿は風呂に入った。
 そして次の日は。
 寿は甲子園に行く時にまた千佳に言った。
「いいか、今日はな」
「阪神が勝つのね」
「昨日は不覚を取ったがな」
 それでもというのだ。
「今日は違うからな」
「勝つっていうの」
「ああ、勝つ」
 実際にというのだ。
「ネットで阪神の雄姿を見ていろよ」
「精々そうさせてもらうわ」
「カープの勝利も祝ってやる」
 カープについては寛容な彼だった。
「いいな」
「そこでそう言うのね」
「ああ、巨人じゃないといい」 
 是非にと言ってだ、そしてだった。 
 寿は甲子園に向かった、そうして。
 帰って来てだ、また母に風呂に入れさせられた。だが次の日もまた同じだった。
「今日こそだ」
「ええ、今日こそね」
「阪神は勝つからな」
「その前向きな気持ちは凄いわ」
 冷静に返す妹だった。
「それで今日もなのね」
「観戦するな」
「とりあえず聞くけれど」
 兄に冷めた目で聞いた妹だった。
「よく寝られてる?」
「お陰でな」
 西宮から神戸の端まで自転車で全速力で戻って風呂に入っている、身体を徹底的に使った結果である。
「快眠だよ」
「それはいいことね」
「そして今日もな」
「甲子園に行くのね」
「阪神の勝利をこの目で見てやる」
 是非にと言うのだった。
「その勝利の姿はな」
「私にもなのね」
「ああ、見えるからな」
 こう言うのだった。
「楽しみにしていろよ」
「それじゃあね」
 妹はこう言ってだ、兄を送ったが。
 ここでだ、今度は父に言った。
「ひょっとしてね」
「ああ、阪神か?」
「負けるんじゃないかしら」
「それは言うな」
 父は娘に眉を顰めさせて返した。
「あえてな」
「勿論お兄ちゃんには言ってないわよ」
「それはいいけれどな」
「けれどそれでもなのね」
「ああ、何か言うとな」
 それでというのだ。
「実際になりそうだからな」
「言葉を出すと現実になるから」
「そうだ、言わない方がいいぞ」
「それカープにも言えるけれど」
「阪神は他のチーム以上にそうなるかも知れないだろ」
「そうよね、何か阪神ってね」
 広島ファンの千佳から見てもだ、阪神というチームには不自然にそうした言霊めいたものが縁が深いと思ってだ。
 それでだ、千佳は父に答えた。
「何かが憑いてる感じがするし」
「憑いてるぞ」
 父の返事は兄以上に絶対のものがあった。
「そんなの見てわかるだろ」
「そうなの?」
「甲子園には魔物がいるんだ」
 まずはこの言葉を出した父だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧