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朱の盆

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第三章

「そのお話ね」
「知ってるの」
「急に出て来て驚かせるのよね」
「ええ、それだけらしいけれど」
「大丈夫よ、驚かせるだけなら」
 奈緒の返事は平然としたものだった。
「別にね」
「そうなの?」
「別に襲い掛かってこないなら」
 それならというのだ。
「怖くないでしょ」
「肝が座ってるわね」
「そうした妖怪じゃないならよ」
「平気なの」
「うちの学校そんなお話やたら多いから」
「聞いたわ、百はあるのよね」
「あるわね、多分ね」
 実際にという返事だった。
「保育所から大学まで合わせて」
「あそこ動物園とかもあるし」
 学園の中に施設としてあるのだ。
「そうした場所のも全部入れたら?」
「それ位はあるわね」
 実際にという返事だった。
「数えた訳じゃないけれど」
「妖怪とか幽霊とかそんなにいるの」
「あそこはそうよ」
「そうだったのね」
「けれど別に何もないから」
「襲われたりとかはないのね」
「見たって人が多いだけで」
 その妖怪や幽霊達をだ。
「平和よ」
「そうなの」
「というかお母さん妖怪とか全然知らないのね」
「興味ないから」
 その整った顔をやや曇らせてだ、母は娘に答えた。
「だからね」
「そこは知って欲しいわね」
「妖怪のことも」
「うん、私が通っている学校のこともね」
「これから気をつけるわ、あとね」
「あと?」
「奈緒って小柄なままだけれど」
 今度は娘のその背を見て言うのだった。
「お母さんの血ね」
「お祖母ちゃんの?」
「ええ、胸は大きくなったけれど」
 晶子程でないが奈緒の胸も中々の大きさだ、今の楚々とした服装にも似合っている。
「背はそうね」
「うちお父さんもお母さんも背高いしね」
「お祖父ちゃんも大きいでしょ」
 晶子は自分の父の話もした、奈緒に合わせてこう言ったのだ。
「そうでしょ」
「うん、それでお祖母ちゃんは小さくて」
「奈緒はその血なのね」
「遺伝ね。けれど別にね」
「小さくていいのね」
「だって柔よく剛を制すじゃない」
 奈緒は笑ってこの言葉を出した。
「そうでしょ」
「それ柔道の言葉よね」
「ええ、小さな身体で技を使ってね」
「大きな相手を投げるのね」
「それが柔道だからね」
 それでというのだ。
「私は小さくてもいいの」
「ここでも柔道なのね」
「そうなの、柔道だからいいの」
「そっちはやれやれよ」
 晶子は娘に自分の偽らざる気持ちを述べた、呆れた様な顔になって。
「本当にね」
「お母さん本当に私が柔道するの嫌なのね」
「何度も言うけれど怪我が心配だからよ」
 それ故にというのだ。
「だから言うのよ」
「そうなのね」
「何度もね」
「だから気をつけてるのに」
「折角奇麗な耳なのに膨らんだりしても」
「だからそっちは気をつけてるし」
「お顔が怪我したら」
「それも言うの?」
「とにかく心配が尽きないのよ」 
 母としてはというのだ。「だから言うのよ」
「お母さん心配性ね」
「それはね」
「それは?」
「怪我のことがあるから」 
 またこう言うのだった、奈緒に対して。
「だからよ」
「どうしてもなのね」
「心配でね」
「やれやれね。けれどどんな格闘技もスポーツもでしょ」
「怪我はあるっていうの」
「だからね」
 それでというのだ。 
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