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朱の盆

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第一章

               朱の盆
 川崎晶子の家は大阪市平野区にある、このこと自体については晶子は特に気にしていなかった。だが困っていることがあった。それは娘の奈緒のことだ。
 晶子は黒くウェーブをかけた髪の毛を背中の真ん中辺りまで伸ばしている、小さめの楚々とした目と細く小さい眉を持っていて唇も小さめだ。その顔には年齢を感じさせない美しさがある。耳の形は大きく白い顔によく似合っている。目や唇は小さめだが胸は九〇あり背も一六六はある。
 娘の奈緒は母によく似た小さな目と唇の整った顔立ちを持っていて豊かな黒髪を肩の高さまで伸ばしている。黒く首筋までボタンで止めている制服は袖やひらひらとしたミニスカートの縁は濃い黄色のラインで飾られ腰には革のベルトがあるがこれは制服の一部だ。彼女が通っている八条学園高等部の規定の制服の一つだ。
 その奈緒が学校から帰った時にだ、晶子は夕食の時に娘に言った。
「部活ね」
「駄目なの?」
「あの、どうして柔道部なの?」
 彼女が今入っている部活のことを言うのだった。
「中等部からそうだけれど」
「だって好きだから」
 それでと返す奈緒だった、見れば背は一五三位で母と違って小柄だ。
「だからね」
「高等部でもしてるの」
「もう二段になったし」
 今高一だがこの前そうなったのだ。
「先輩も同級生もいい人達で」
「部活も楽しいっていうのね」
「うん、凄くね」
 母に目を輝かせて言う奈緒だった。
「柔道自体もいいし」
「柔道って。もてないでしょ」
「そうなの?」
「怪我もしそうだし」
「それは気をつけてるから」
 奈緒の方もというのだ。
「しっかりとね」
「そうなの」
「ええ、受け身の練習も欠かさないし事前の柔軟もしっかりしてるから」
 だからだというのだ。
「大丈夫よ」
「そうなの」
「そう、怪我には本当に気をつけてるから」
「そこお願いね、本当にね」
「私が怪我するのが心配なの」
「柔道って投げて締めてじゃない」
 そうした武道だからとだ、晶子は奈緒に話した。
「お母さん心配よ」
「お母さん心配し過ぎよ、それが柔道でしょ」
「耳も潰れない?」
「いつもちゃんと冷やしてるから」
 練習の時は髪の毛もくくっている、そして耳も試合の後しっかりと冷やしているのだ。
「耳が膨れない様にね、気をつけてるわ」
「そうしてね、お母さん怪我とか心配だから」
 それでというのだ。
「柔道をしてることが」
「だから心配し過ぎよ、お母さんは」
「だといいけれどね」
「お父さんは喜んでくれてるのに」
 奈緒の父、晶子の母はそうなのだ。娘が頑張っているのならそれでいいと彼女が柔道をしていることに喜んでいる。
 だが晶子は違っていてだ、いつも娘が柔道をすることを心配していた。それが彼女の困っていることつまり悩みだった。
 しかもそれを誰に相談してもだった、夫はもう言うまでもなかった。
「二段なんて凄いだろ」
「ええ、あなたはそう言うわね」
「強くて何よりだ、女の子もな」
「強くて困ることはないっていうのね」
「ああ、だからな」
 晶子に笑って言うのだった。
「応援してやればいいだろ」
「怪我でもしたら」
「それを心配したらどんな格闘技もスポーツも出来ないだろ」
「それはそうだけれど」
 身体を激しく動かすものは絶対に怪我が付きものだ、このことは晶子もわかっている。晶子自身学生時代は陸上部で足の怪我にはいつも気をつけていた。 
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