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103部分:イドゥンの杯その九


イドゥンの杯その九

 パルジファルはカレオールを去った。その後に多くの艦艇とザックス級戦艦一隻を残して。トリスタンはそれを港で見送ったのであった。
「行ったな」
「はい」
 参謀の一人であるモルがそれに頷いた。
「また多くのものを頂きましたな」
「うむ」
「これで多くの艦隊を再編成することが可能になりました」
「五個艦隊程だな」
 彼は言った。
「これで帝国と戦うぞ」
「はっ」
「そして陛下」
 艦隊司令達もそこに控えていた。その中の一人であるヴァイクルが問う。
「何だ」
「あの贈呈された新型艦ですが」
 彼はそのザックス級の戦艦について言及した。
「あの戦艦がどうかしたか」
「まだ名前が決まっていませんが」
「名前が」
 彼はその言葉にはっとした。
「そういえばまだだったか」
「はい。どの様な名前に致しますか」
「そうだな」
 トリスタンはそれを受けて考え込んだ。そして暫くしてから顔を上げた。
「イゾルデでどうか」
「イゾルデですか」
「そうだ。悪い名前ではないと思うが」
「確かに」
 そこにいた参謀達も艦隊司令達も特に反対はなかった。
「それでいいと思います」
「そうか、気に入ってもらえたか」
「ではそのトリスタンがこれからの我が軍の旗艦ですね」
「そうだ」
 そしてトリスタンはそう定めた。
「生体コンピューターも搭載している。これ以上の艦はない」
「わかりました」
「では出陣は」
「三日後とする」
 彼はそう決めた。
「三日後、まずは周辺の星系と同盟を結び、そして敵対的な星系は占領していく」
「はい」
「そしてコノートに駐留している帝国軍と雌雄を決する。それでよいな」
「はっ」
 こうしてトリスタンの方針は決まった。まずはこの周辺での帝国軍の拠点であるコノートを制することになった。まずは周辺の星系に次々に使者を送った。
「既に条約を結んでいる星系はよい」
 彼は友好的な星系にはまず使者を送らないことにした。
「ただ、協力を願いたい」
「わかりました」
「帝国と戦うのは我等が引き受ける。そのかわりに援助を願いたいとな」
 ギブアンドテイクの条約を提案したのであった。
「それでどうか」
「よいと思います」
 それにカレオールの外相であるプライが答えた。
「さしあたって我等は帝国軍以外に武力を用いる必然性がありません」
「うむ」
「ですが我等だけで戦うというのはやはりいささか心もとないと言えましょう。同盟者に対してもここは協力を願いたいところであります」
「同時に連帯感を強める」
 トリスタンはここでこう述べた。
「共に帝国と戦っているのだとな。一体感を持っておきたい」
 帝国を共通の敵としまとめるつもりであったのだ。
「その為にもな」
「はい」
 プライは頷いた。
「中立の星系にもそれを提示してみましょう」
 あくまで戦うのは彼であるが他の者達には援助を頼む。こうして彼は独自の勢力圏を築こうとしていた。
 
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