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蒼穹のカンヘル

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十三枚目

ガチャリ…

「先生、失礼します」

「おー篝なのだ、久しぶりなのだ。さぁ入るのだ」

先生は前と変わらず出迎えてくれた。

「アザゼルがゴソゴソやってたのだ」

「俺の神器が少しずつ分かって来たので」

「おー、それは良かったのだ。
それで今日はどんな話を聞きに来たのだ?」

「発動したら特定の相手以外を無条件に攻撃する術式はありますか?」

「ん~…………少し待っていてほしいのだ」

そう言って先生は資料を漁り始めた。暫くして。

「お?有ったのだ」

「本当ですか!?」

「あ…でもコレは攻撃…とは呼べないような物なのだ…それに…」

先生はあまり言いたくない様子だった。

「とにかく、コレは陣を敷く術式なのだ。
そして陣を描いた時に陣の内側に居た者以外を弾き飛ばす術式なのだ。
その後は中級悪魔、能天使クラスなら侵入できない結界を張るのだ」

「本当ですか!?その術式を教えてください!」

「ん…………そうしたいのはやまやまなのだ。
でも理解できないのだ」

「先生が…理解できない術式?」

「そうなのだ、コレが概要なのだ」

と分厚いファイルを渡された。

「こ、れ…は…」

開いたファイルには陣が描かれていた、発動しないよう分割され両開きになった陣を見る。

はっきり言おう、訳がわからない。

「何なんです?この頭がおかしいとしか言えない術式は」

そう、この術式は『頭がおかしい』としか言えない。

アルファベット。

ルーン。

梵字。

漢字。

etc.etc.……

西洋魔術、北欧魔術、法力、陰陽道、その他色々な物が入り交じっていた。

「それはつい最近作完成した術式なのだ。
それぞれが別々ではなく調和しているのだ」

そう、それぞれがそれぞれの弱点をカバーしあって一つの大きな術式を形作っているように見える。

といっても俺には断片しかわからない。

ペラペラとファイルを見ていく、理解出来るのはこの術式を編んだ人は天才だってこと。

本来別々の法則に従って発動する物を同時に行えば不和が起こり暴発暴走する。

だがこの術式はそれが起こらないように綿密に調整されている。

「いったい誰がこんな物を……」

「こんな物とは失礼だな。
まぁ、暇潰しみたいな物だがね」

その声に驚きドアの方を見ると一人の女性が立っていた。

「ジュスヘル、入るときはノックぐらいして欲しいのだ」

「おお、すまんなサハリエル。
どうも独り暮らしが長いとそういった物を忘れてしまう」

ジュスヘルと呼ばれた女性。

特徴的なのはなによりも先ずはその格好だ。

修験道の僧が着るような山伏に角柱の帽子、簡単に言えば『天狗』。

その髪は透き通るような白髪、ヴァーリとは違う美しさのある色だ。

瞳は海のように深く澄みきった蒼、空とは違い深い深い蒼海の色。

「この術式はあなたが?」

「ああ、といってもさっき言ったように暇潰しだがね」

「篝、我々の一生はとてもとても長いのだ。
人間とは縮尺が数倍…数万倍あるのだ
この術式は500年近く掛けて作られてるのだ」

五百年の暇潰し…そうか、そうだよな…先生や父さんはアダムとイヴが産まれた時から、否、それよりも遥か昔から生きている。

五百年なんて、本当に暇潰しをしている内に終わるのだろう…

「でも、その術式のままじゃぁ君やサハリエルには扱えなよ」

「確かに意味不明ですね」

「そうじゃなくて…その術式、妖力と神力が無いと発動しないよ」

「神力?妖力?」

「ああ、君はこの格好を見て何か思わないかい?」

「天狗…みたいです」

「そう、天狗だ。
私は堕天使でもあり天狗でもある。
さらに天狗は山の神でもある。
だから私は妖しき力とカミの力を振るえるのさ」

「ちょ、ちょっと待ってください堕天使でもあり天狗でもある?」

「ああ、少し主上と揉めてね。
それでこの有り様さ」

と黒い翼を展開した。

「出ていって偶々着いたのが日本でな」

「あ、そういう…」

「人の体に黒い羽、まさに伝承の天狗そのもの。
そのうち人々に天狗と呼ばれる事で本当に天狗になってしまったのさ。
ある程度なら風を操れるよ」

そう呼ばれる事でそうなる…妖怪の類いはは『信じられ』『怖れられ』『恐がられ』『疎まれ』『奉られ』『敬われ』『嫌われ』『忌まれ』『願われ』る事で存在する。

あれは東方…じゃなくて…結界師…じゃないよな…青エクでもない…たしか物語シリーズだったかな?

「因みにジュスヘルは日本版聖書にも名を連ねているのだ」

「日本版聖書?」

「天地始之事さ。聞いた事位はあるだろ?
その中じゃ御前の七天使のトップ扱い。
主上の祝福の気配がしてついに日ノ本まで主上の手が伸びたかと思って様子を見に行ったら見つかってねぇ…」

「あ~、御愁傷様です」

「それで、山の奥の奥に構えたのが江戸の少し前だから…うんだいたい五百年だね」

少し前って言っても江戸時代の始まりの時期と五百年という年月から考えて百年近いけどな。

「話を戻すけど、この術式は私が自分の巣穴を守るために作っただけさ。
だから妖力や神力が必要なのさ。
そして改良を続けてできたのがコレ、暇潰しって言ったけどちゃんと実益もあったよ」

「堕天使の使いを何度出してもこの陣で弾き飛ばされたらしいのだ」

「いやぁ、最後にアザゼルに割られたのは驚いた。
まさか抜かれるとは思わなかったからね」

「その話を受けてここに居ると?」

「ああ、それにしても主上が既に…」

「ジュスヘル!」

「!」

「?」

「それ以上は、言ってはいけないのだ」

堕天使幹部の『言ってはいけない事』。

ジュスヘルが主上と呼ぶ存在……多分既にヤハウェがいないという事だろう。

「あ、ああ、そうだったね…」

「ヤハウェが既に亡いって話なら知ってるけど?」

「「!?」」

シャラララララン…

「コイツが教えてくれたんです」

『おい』

いいじゃねぇか、俺の記憶覗いてんだろ?

『まぁ、そうだが…』

じゃぁ、合わせて。

『しょうがない…合わせてやる。
まぁ喋る気は無いがな』

と、心の中でセルピヌスと会話していて気付かなかったが二人が唖然としていた。

「ああ、三大勢力共通の最高機密でしたっけ?」

『白々しいな』

ハハッ!俺の心は真っ白だからな。

『お前がそう思うんならそうなんだろうな、お前の中ではな』

何故にそのネタを…てか記憶覗いてんなら当然か。

「「…………」」

「おーい?生きてますかー?」

「君、教えてくれたとはどういう事だ?
そのカッカラが教えてくれたと言ったが、それには何が封じられているんだい?」

「カッカラじゃなくてカンヘル。
まぁ確かに錫杖をカッカラとも呼ぶけどね」

「いいから答えろ!」

「怒んないでよ…ジュスヘルや先生も知ってるはずです…会った事があるんだから」

創られたばかりの先生やジュスヘルに祝福を与えた記憶を…持っている。

「我々が会った事がある?」

「セルピヌス」

「「!?」」

「五柱しか居ない、セラフィムよりも偉大な天使の一柱」

神が直接創り出した天使、悪魔、堕天使全てに祝福を与えた。

「祝福の龍」

今の悪魔、堕天使には少なくなってしまった純正の者。

神が手ずから創った者なら識っているはずだ。

「成る程なのだ…神器に封じられてしまっていたら戦争には出てこれないのだ…」

「う~む、我々に祝福を与えた後に全く見ないと思えばそういう事だったか…」

戦争…ああ、成る程。三大勢力の戦争か…

「多分…創成の四龍とセルピヌスが十全の状態で天界に付いてたら、天界の一人勝ちだったろうね」

「篝…シャレにならんからやめろ」

とジュスヘル。

「もしも、もしも再び戦いの火蓋が落とされたら、俺は堕天使に付くよ。
父さんが居るし、悪魔には多少ながら私怨もあるしね」

そう、ヴァーリの事だ…

「抑えるのだ、聖力とか諸々漏れてるのだ」

「おっと…」

「ん?『父さん』って…お前…だれの子だ?」

「篝はバラキエルの息子なのだ。
姉も居るのだ」

「へぇ…バラキエルのね…よしっ!篝!」

「なに?ジュスヘル?」

「お前にさっきの結界を教えてやろう!」

「え!本当に!?」

「ああ、本当だ」

「っしゃぁ!」

「そういう訳だから。
サハリエル、篝借りるぞ」

その後はジュスヘルの部屋に行った。

俺は北欧魔術や法術、陰陽道に疎いので先ずはそこかららしい。

あと何と言うか…やけにスキンシップが多い…ショタコンじゃねぇよな?

然り気無く聞いて見るとずっと一人だったから距離感がわからないんだと…まぁ、それなら問題無いか…

sideout…





side JUSUHEL

ふふふ…アタシ好みの男の娘と二人っきり!

ぐへへへ…おっと…自重自重。

襲ったりしたらアザゼルとバラキエルに消されてしまう…

これから徐々にアタシの色に染め上げて…

sideout





sideKAGARI

うおっ!?なんか寒気が…

堕天使の血が流れてるから免疫とか諸々の耐性は高い筈だが…

まぁ、せっかくジュスヘルが教えてくれるんだ!頑張らないと!
 
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