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蒼穹のカンヘル

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八枚目

此所は……何処だ?

気付くと俺は深い深い森の中に居た。

いや少し違う。深い森の中に出来た不自然に木がない広場にいた。

此所は何処だ?俺はさっきまで何をしていた?

思い出せない…

「グウォォォォォォォォォォォ!」

なんだ!?

突如聞こえた咆哮に俺は耳をふさいだ。

突然影が出来た。

その影は周囲を覆うほど大きい。

俺は不審に思い空を見上げると…龍がいた。

空高く太陽を背に悠々と飛んでいた。

俺は慌てて広場から回りの森に入った。

そこから上空を窺う。

やがて龍が降りてきた。

太陽から出てきたその龍は純白だった。

翼や各所に宝玉を持つ美しい龍だった。

ズンッと音を発てて龍は広場に降り立った。

「そこの人間、話がしたい。出てこい」

話…だと?どうする?出ていくか、留まるか…

出よう、もし俺を殺る気ならもうやってる筈だ。

俺は龍の前に踊り出た。

「よう、人間、龍を宿せし者よ、まず礼を言わせて欲しい、ありがとう」

礼?何の事だ?

「何を言っている?俺は龍を助けた覚えは無いが?」

カンヘルを召喚する準備をしないと…

「人間、気付いてないのか?
まぁ、それもそうか、自己紹介といこう」

自己紹介?

「我が名はアルビオン。
二天龍にして白龍皇の名を持つ者。
先程はヴァーリが世話になった」

ああ、そうか、そういう事か。

思い出したぞ。なら此所は俺かヴァーリのアストラルサイドもしくは神器の中か…

「俺の名は姫島篝、堕天使の血を引き龍を宿す者」

「では篝、一つ聞きたい、お前はまだ童ではないのか?」

言われて気付く、体が前世の体になっていた。

「俺の前世の姿さ。アンタにとってはどっちにしろガキだろ?」

「それもそうだな…では少しヴァーリの事を聞いてはくれまいか?」

「いいぜ」

「ヴァーリは何処にでもいる悪魔の子供だった。
しかしヴァーリは俺を宿していた…」

その声に現れるのは『後悔』。

「ある日ヴァーリの祖父がやって来た。
あやつはヴァーリを一目見た瞬間、殴ったのだ。
龍を、俺を宿しているからと…」

そしてその声は懺悔のようでもあった。

「その日から、父親はヴァーリを虐待した。
祖父に唆されて」

そして言い様のない怒りが込められていた。

「俺はせめてもの償いにヴァーリに保護の力を使い、体を治してやった。
故にヴァーリは余り痛みはなかった、しかし心は…」

その声は自らの無力さを悔いていた。

「やがてヴァーリの父は祖父に殺された!
ヴァーリの目の前でだ!
俺には何故そのような事になったのかはわからない!
だが虐待されていたとはいえ目の前で父親が殺されたのはショックだったのだろう」

その声は憐れみに満ちていた。

「それが3日前の事だ。
そして一夜開けた日、ヴァーリは呑まれた、おびただしい数の怨霊に…」

その瞳は自らに対する叱責をたたえていた。

「ヴァーリは至ったのだ。
バランスブレイカーを経ず、ジャガーノートドライヴに…」

その声は戸惑いと不安を孕んでいた。

「何時もの俺であれば喜んだのだろう…
だが、だが!俺は見ていられなかった!
神器に呑まれ、その命を削られていくのを!
俺は何とか覇龍を止めた」

少しだけ安心感を滲ませた声だった。

「そしてあの堕天使に出会ったのだ」

そして僅かな喜び。

「後はお前の知る通りだ」

そうして白龍皇アルビオンの独白は終った。

「お前はずっとヴァーリを守って来たんだな」

「ああ」

「お前はきっといい父親になれるぜ」

「たわけ…」

そう言いつつも少し嬉しそうだった。

「篝、これからヴァーリの事を頼んでもいいか?」

「俺の出来る範囲でそうしよう。
しかしそれはアザゼルに頼むべきだ」

「いや、これはお前に言うべき事だ…」

「そうかい」

「では、また会おう」

その声と共に俺の意識は溶けていった。











「ふぁ~あ」

今何時だ?………二時か、アザゼルが来たのが十時ごろだから…三時間半ぐらい寝てたか?

「ううん……」

ヴァーリは……まだ寝てるかな。

さて、ヴァーリを抱えて寝てるから動けないな…

もうひとねむ…

ガチャ…

「篝、起きてるか?」

と扉を開けてアザゼルが顔を覗かせた。

コクリと頷くとアザゼルはニヤけながら言った。

「抱き合って寝てるたぁ手が早いな」

俺は少しイラッとしたのでアザゼルに向けて氷の礫を飛ばした。

「のわっ!っぶねーなー」

「チッ」

当たらなかったか…

「舌打ちっておまえ…まぁ、いいか」

いいのかよ…

「おい!アザゼル何とか出来るか?」

「う、ううん?」

あ、ヤベェ…

俺はアザゼルを睨んだ。

「おいおい、睨むなよ…今のはおまっ!」

もう一回氷の礫を飛ばした。

「起きたか?ヴァーリ?」

「ううん…おはよぉ……篝」

か、可愛い!

「え、えーとちょっと退いてくれないかな…」

そう言いながら俺は翼を開いた。

「うん……わかった…」

ヴァーリはのそのそと俺の膝の上から退いた。

「篝、ヴァーリ、メシ食え。
もう二時だぞ」

とアザゼルがいうと…

「ひゃっ!?」

アザゼルになついてたんじゃないの?

「篝、どうやらヴァーリはお前の方がいいらしい。
先行ってるからヴァーリ連れて来いよ」

「はいよ」

アザゼルめまた俺に投げたな。

「ヴァーリ、昼飯食べるぞ」

と言って手を差し出すとちゃんと握ってくれた。

「よし、行こうか」

この後居間に行ったらアザゼルがニヤニヤしながらからかってきたのでまた氷の礫を飛ばしておいた。

氷の礫便利だわー雷みたいに逸れないし練習すれば真っ直ぐ飛ぶし、こういう威嚇程度ならつかえるな…

あとメシ食ってるヴァーリも可愛かった。

『可愛い』は唯一絶対不変の正義だな。
 
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