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真剣で納豆な松永兄妹

作者:葛根
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新章第一 夏休みの過ごし方



 あれから10日が経過した。
 川神百代、松永久秀の決闘は見物人達の心に今も鮮烈に残っている。
 そして、その結末は誰も口にしない。誰もがああ有りたい、ああ成りたい。誰もが羨む決闘は、皆の心に残っている。
 川神院の修行僧達はより一層鍛錬に励み、川神院の師範代達もまた、心に火が灯っていた。
 崇高な戦い、神聖な戦い。我もまたそう有りたいと思うのは仕方のないこと。
 川神鉄心は、この火を良い傾向だと思う。
 皆、成長した。戦いを見て、成長しようとしている。あの日あの時から川神院は盤石になったと感じた。
 川神鉄心もまた、初心に帰り、1から鍛え直す程である。
 川神百代は変わった。高潔な精神を戦いの中で得たらしく、以前にあった不安は無くなった。
 決闘の後、感謝を述べた彼女に皆が驚いたし、日に日に変わる彼女の成長を暖かく見守るのは喜ばしいことである。

『ありがとうございました。私の生涯の友であり、生涯のライバルでいて下さい。強い貴方を私は愛しています』

 と、愛の宣言にも聞こえる感謝には誰もが驚いただろう。
 決闘で、一皮も二皮も剥けた両名は壁を超えた者の更に先にいるだろう。
 川神百代は川神鉄心の手を離れ、松永久秀もまた、誰よりも成長した。
 川神流の瞬間回復を得とくした上に、対川神流のエキスパートになったのだ。
 それは、最強を名乗って良い。川神流は門外不出だが、盗まれたのならば仕方のないこと。
 川神院の代表になるだろう川神百代の生涯のライバルならば、仕方ない。
 それに、2人が婚姻してしまえば、何の問題もない。
 川神鉄心は、そう思い敢えて何も言わなかった。
 拳を交えるということは、相手を多く知るということ。既に乙女心に熱があるだろう。
 アレほどの戦いをしたのだ。男女仲になるのも時間の問題であろう。
 闘争と恋はよく似ている。相手を知る。相手の心を知る。どのような努力があったのか、どのような訓練をしたか。全ての結晶が闘争に出る。
 で、あるならば、アレほどの交わりを得て、何も感じないということはないだろう。
 事実、川神百代は松永久秀とデート紛いの遊びに出かけているし。

「青春、青春。熱いのう」

 夏の気温。乙女心。孫娘の行末を空に語った。



「水着がエロいです」
「唯の黒ビキニだ。ドヤァ」

 学生の夏休み。遊ぶならば、海水浴場だったり、キャンプだったりと様々。
 ダメージは抜けた。気が大きくなった。瞬間回復を覚えた。
 頭の中で、レベルアップの音楽が沢山流れたような感じで、俺は以前より格段に強くなった。
 決闘中にて成長した。俺も、川神百代も。
 俺は良いとして、相手はダメだ。以前から敵無しでバクキャラだった彼女が余計に強くなるとか世界の摂理に反しているだろう。
 たぶん、もう一度戦ったら負けると思う。成長が打ち止めというわけではないが、なんとなく勝てない気がする。
 決闘の勝敗は語らずべし。
 正直、どっちが勝ってもおかしくないし、どっちが負けてもおかしくなかった。
 勝ち負けで言えば、決闘は引き分けだろう。
 ダブルノックダウン。先に立ち上がったのは俺だが。勝鬨を上げる事はなかったし、勝ったとも思ってない。
 俺が気絶から目覚めた数分後に川神百代も目覚めた。
 で、彼女が敗北宣言したのだ。勝ちを譲られたとも思ったが。そうではなかった。
 俺達が気絶していた間に先に目覚めた方が勝ちと川神鉄心が決めていたのだ。
 川神院ではそういう取り決めらしい。
 知らんがな。と言いたかったが、依頼主もいたし、負けを認めている川神百代はきっと何を言っても覆さないだろう。
 決闘ではなく、試合であれば引き分け。
 決闘だから、勝ち負けははっきりさせなければいけない。
 武人であるならば、それは享受しなければいけない。
 よって、勝った実感はなくとも俺の勝利、俺が負けたと言っても無意味。
 いずれにしても、非公式であって、門外不出の決闘は決闘自体の存在が無かった事になっているので世間的には世界の頂点は川神百代なのだ。
 そう、目の前の巨乳が世界一。
 ああ、デカイなぁ。乳が。白い肌、黒いビキニ。ああ、認めよう。アイドル級に美少女であり、アイドル級の肉体を持つ川神百代はドヤ顔で谷間を見せている。
 皆というか、風間ファミリー及び源忠勝、俺と妹で海水浴場に行く予定なのに、何故か水着の買い物は俺と川神百代の二人きり。
 燕ちゃんはあの決闘以来、川神院にて修行中。
 どうやら、思うところがあるらしい。
 他の風間ファミリーは知らん。バイトなり夏休み課題なりをしてるのだろう。たぶん。

「決闘後に燃え尽き症候群になってればよかったのに……」
「なる理由無いだろう。もはや私は無敵を通り越した何かだ」

 黒ビキニの試着は良い。胸はあるし、腰は締まっているし、足もキレイだ。
 尻の形も良い。黒髪も美しい。
 そして燕ちゃんは可愛い。浄化。拳を交えて色々と知りすぎたからな。
 拳に宿る魂の叫び。孤独、敵が居ない寂しさ、虚しさ。
 それをぶつけても良い喜び、楽しみ、歓喜。
 
「たぶん何を着ても似合う。顔、プロポーションは良いからな」
「そうだろうな。年頃の女の子の素肌を見てぼっ――」
「おい。やめろ。女の子の発言ではないし、お前は目立っている」

 水着売り場の女性すら川神百代に見入っているのだ。
 公然の場で下ネタなどいけない。ましてや、一方的ではあるがライバルだ。

「お前? 百代と呼べよぉ。なあ、おい」
「はいはい。百代、百代。つーか、風間ファミリーは?」
「はて、気を探れば基地にいるな。しまった。夏休みの宿題を消化しているのか!」

 偉いもんだ。たぶん直江大和辺りが誰かに頼まれたのか、夏休みを思い切り楽しむためか。
 俺はと言うと、8割は消化済み。面倒なものは先に終わらせておく。
 決闘のダメージ回復の間に宿題を消化していただけなのだが。
 瞬間回復は、大量の気を使うし頼り切りになってはいけないので、封印指定能力にした。
 バクキャラは、川神百代だけで十分。
 
「それで、黒ビキニ買ったし、俺の水着も買った。海で遊ぶ予定は1週間後。百代は義経達の挑戦者との相手だったか」
「そうだ。義経は義経と呼ぶんだな。まあ、良い。じっくりねっとりと強くなるさ。それに、な。久秀には再戦して圧勝しなくてはっ……!」
「そりゃ無理だ。しばらくは戦う気無いし」
「なんだよぉ~。燃え尽き症候群なのか?」

 それは断じて無い。
 ただ、でかくなった気の扱いがまだ安定していないのだ。九十九髪茄子は外してある。これ以上気が増えても良い事など何も無い、はず。
 でかくなった気の方はあと3日あれば安定するだろう。約二週間でなんとかなりそうだ。

「急激にでかくなった気の扱いに感覚が追いついてない」
「気の安定はだな――」

 川神百代がアドバイスか。変わったのか、変わろうとしているのか。
 以前から彼女の内面にあったはずの凶暴性が薄まった気がした。



「本当か? あの百代ちゃんが負けるとはねぇ。いや、俺も仕事がなけりゃその決闘を見たかったぜ」
「総理大臣が非公式の上に世間的に存在しない決闘を見る為に仕事をサボるなど言語道断だわい」
「そりゃそうだ。しかし、あの松永が百代ちゃんと互角以上に戦って、今や彼女と同等の力を持った、と?」
「うむ。極めて珍しいミックスアップというやつじゃ。戦いの最中に限界をなくし、互いに成長する。武に生きるならば、一度は聞く単語じゃ。まあ実際に目の当たりに出来る事はまずないが」
「松永久秀の人となりは?」
「問題無いじゃろう。急激に気が増えたので少々扱いに戸惑うだろうが、そろそろ馴染む頃じゃろうて」

 だが、彼は成長中である。そして、彼女も。
 ライバルが居る。それは、良い刺激になるだろう。武神と呼ばれる孫娘のライバルか。
 孫娘に負けるかもと思い鍛え直し中の川神鉄心。大人気ないと言えばそうだろうが。
 まだまだ、負けるつもりはないのであった。
 
「爺さん、闘気が溢れてるぜ」
「年甲斐もなく、心躍るモノを見たのでな。彼の戦いを見た限り、何ら問題は無いと断じよう」
「そういうなら、何も心配はないな」

 男は立ち上がり、仕事に戻る。彼は国を代表する人間。忙しい中、川神院に立ち寄ったのだ。
 彼に取って、川神院は初心に帰れる心のオアシス。国の代表として、門外不出の決闘の話は川神鉄心から聞いていた。
 本当ならば、彼にすら秘匿しなければいけなかったのだが。元川神院の人間ならば、関係者である。
 屁理屈だが、強大な力を持つ人間を国の代表が把握していないなど、あってはならない。
 それに、彼は人格者であるし、漢だ。彼が川神院に来たのは、心を癒すため。
 それが、今日の総理大臣のスケジュールに刻み込まれた内容であった。
 

 
 

 
後書き
ダラダラと夏休みの話が続きます。たぶん。ヒロイン? まだ未定。ヒロインのリクエストがあれば感想に書くといいよ。参考にします。 
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