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ランス ~another story~ IF

作者:じーくw
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第7話 魔人ホーネット

 
前書き
~一言~


ケイブリス! ド許さぬ!! と強く思ったのは ホーネットとのあのシーンからでしたw 

 

 何処か予感はしていた。

 サテラたちの会話、そしてホーネットの笑みと雰囲気、2人に任すと言いこの場に残った事。
 これらを総合させると答えは1つしかない。

『多分、見られていたみたいだな。消える前に』
『ああ。戯骸の時か……。でなければサテラが気付いてないのが不自然だ。此処に来る道中で気付いた、と言うのであればな』

 どうしたものか、と考え込んでいた時だった。
 ホーネットはそっと腰を岩場に降ろした。丁度隣に座る様に。

「例え見えなくとも……私には感じられます。貴方は此処にいる(・・・・・・・・)と。姿を見せてはくれないのですか……? ユーリ。いえ、今はゾロでしたか」

 透明化の魔法を看破するには、攻撃すると言う手段を除けば術者を上回る魔力を持ち得なければならない。魔人ホーネットの技能は確かに優れているが、ゾロはそれを上回る魔法Lv3の技能を持っている為、可視化するまでには至らない。それでも 彼を感じる事が出来るのは、ホーネットの想い故か、或いはゾロ達が言っていた様に 見ていたかどちらかだ。……あまり野暮な事は言わないでおこう。きっと想いの力だ。

「……ふぅ」

 ゾロは観念した、と言わんばかりにため息声を上げると、またぱちんっ、と指を鳴らせた。空間が歪み、ズレていたピントが徐々にあっていき 姿を現す。
 
 それを見たホーネットは 笑顔の質を上げた。

 心から嬉しい……と言わんばかりの笑みを浮かべ 頭を少しだけ傾け呟く。

「―――また、会えましたね」
「ああ。サテラ達を先に行かせたのは、私を配慮しての事……だったか」
「ええ。皆で会えばきっと貴方は逃げてしまう……と判断しましたので」

 クスクス、と笑うホーネット。普段の彼女の姿からすれば、かけ離れていると言える光景。『誰お前?』と男魔人からは 総ツッコミが来る事間違いなし! と断言できる程に。

 そんな他の魔人の誰にも見せないホーネットの素の姿がここにはあった。

 先々代魔王ガイによって英才教育を施され、常に導かなければならない存在として、王族としての振る舞いを、魔人の、魔物の前に立ち続けてきた彼女が心から安らぎを求める事などもっての他だと常々思ってきていた。

 100年を優に超える程の思想教育を受けてきた彼女の内の気持ちを浮き上がらせた存在が、目の前のゾロ―――ではない。

「何時までも勘違いをしてくれるのだな……。お前達は。私はお前を……ホーネットを救ったと言うユーリ・ローランドではない、と何度言えば判ってくれる? 丁度、この手のやり取り先程もしてきた所だ」

 肩透かしになる。それどころか傷つく結果になるかもしれない。でも ゾロはそう言うしかなかった。……すべてを終える(・・・)その時まで。
 だが、ホーネットは笑っていた。否定されたのは一度ではないから判っていた、と言わんばかりに。

「ええ。その様ですね。少々疲れ具合が見えますので、そうではないか、と。……ですが、私は貴方の前だと 心が安らぎます。とても楽しい気持ちになれる。心から笑う事が出来るんです。……それを、持っていた人がユーリと言う人間でした。私達は少々、特別な関係でしたが。私にとってはかけがえの無い存在。かけがえの無い人でした。……そんな雰囲気を纏っているのが 貴方なのです。違うと否定されるのに……不躾ではありますが、許してください」
「人に頭を下げるなど止めてくれ。……上位である魔人がする事ではない。ホーネットがそれをしていては示しがつかないだろう?」
「そう、ですね。それもあると思い、私はサテラ達を先に行かせました。貴方と話をしたかったから」

 ホーネットはそっと空を見上げた。この蒼く広い空のしたで、また出会う事が出来たという幸運をかみしめる様にそっと目を閉じる。

「私は難しい立場にいますから。今の魔王様の様に 自由気ままでに行動する訳にはいきません。……この平和も何時までもつか判らない現状ですので」
「……だろうな。ランスはもうそろそろか?」
「はい。進行しています。……最近は特に機嫌が悪く、誰も傍に寄せません」
「ビスケッタはどうだ? 彼女の甲斐甲斐しい世話だったら」
「はい。最低限してくれてとても助かってはいるのですが……」
「……そうか。人の身でありながら そこまで尽くす彼女には脱帽だ」

 ふぅ、と息を吐くゾロ。
 人間界において最高潮と言って良いメイドがビスケッタ。ご主人に尽くす事を喜びとし、全てのメイドとしてのスキルが備わっているスーパー・メイド。彼女と唯一張り合う事が出来る存在と言えば、まだとある 家を守り続けているメイド・クラリスくらいだろう。……そのクラリスと言う少女についてはまた後々に……。

「それとヒララレモンの消費がここ数日で数倍から数10倍に跳ね上がりました」
「本格的な魔王化……か。判った。教えてくれてありがとう。感謝する」
「いえ……私が好きでやっている事です。……魔王様を、裏切る行為に違いないのですが、貴方の前では私は私を偽る事は出来ません」

 少しだけ苦しい表情。その背徳に呵責を感じているのだろう。如何にランスとは言え魔王は魔王。自分たちの主なのだから。

「叶うのであれば、貴方(ユーリ)の傍で一緒に冒険をして、世界を見て回りたい。まだ知らない場所へ行ってみたい……といつも夢想をしている程です。……ふふ。そんな事が実現すれば、違う戦争が始まってしまいそうですが」
「―――あー、それは確かに。あの男(・・・)を慕う娘は数多くいたから」



――今ならよく判る。本当に罪な男だ……。



 と心の中でつぶやくゾロ。



――今のお前だって十分同罪だからな!



 と何処かで聴こえてきた気がするが、きっと気のせいだ、と一蹴した。


「だが、良いのか? 呑気な話を続けて。……ホーネットの気持ちも身の上も判った。理解できた。だが、現状が悪化する以上敵対する可能性が濃厚だ。私は目的をもって動いている。その延長上には間違いなく現在の魔王が存在する。………悲しくなるだけだぞ」

 時折、自分に正直になるとは言えホーネットは魔人。魔人である以上、魔王の命令には絶対。他の魔人も好き勝手動く者もいるが、自分が率先して行わなければ更に崩れてしまう。示しがつかなくなってしまう。戦いが始まると……両立させることが難しくなるという事だ。
 そしてホーネットは表情を落とした。笑顔が消え失せた。

「……判ってます」

 悪い事を言っているのはゾロとて判っている。人らしい感情を得ているからよく判っているつもりだ。それでも、最後に悲しい想いをするのであれば、と。
 全てが終わった先にどうなるのか……、そこまでは判らない。打ち明けたその時にホーネットがどうなっているのか、判らないから。

 ホーネットはぎゅっと目を瞑り、そして開いた。正面からゾロを見て精一杯の笑顔をうかべて言う。 

「今だけは……、忘れさせてください。お願いします」

 それは判っている、と言う様にホーネットは口にした。
 ずっと考えてきている。前回の戦争が終わってから今日まで、いや それ以上前…… あのLP時代最後の戦争以来からずっと考え続けているから。


 魔王がいて、そして自分が魔人である以上――変わらないから。

 ゾロは、そんなホーネットを見て 頭を下げるホーネットを見て。微笑んだ。
 右手を伸ばし、その頭を撫でてあげた。サラサラと心地良い質の良い髪は触っているだけでこちら側の気分も良くなるというものだ。

「っ……」
「私は、かの男の代わりにはなれん。……が、ホーネットがそれでも良いというのなら、手を貸そう。……ホーネットには恩もあるからな」

 とても優しい手だった。
 そして ホーネットは彼の胸にそっと肩を寄せる。ゾロも頭に乗せた手を、今度はホーネットの肩に回して、抱き寄せた。


 ホーネットは 彼の温もりを、感触を感じ…… そして改めて間違いない(・・・・・)と強く思った。











 そして、脳裏に思い返すのは あの時の悪夢の記憶。

 あの時とは 今から約15年前……LP7年の戦争時の悪夢。
 



 場所は――旧魔王城。
 
 元々は魔物界を二分し争いをしていた頃ホーネットとその一派が居城にしていた巨大な城。持ち主の人柄を現す様に綺麗に整頓された優雅な城だったが……、あの頃は 見る影もなかった。
 ケイブリス派に敗れ、悲惨な牢獄と化していたのだ。
 絶えず響き渡るホーネット派に味方した魔物たちの悲鳴。その全ては女だけだった。男は殆どが殺され、残された者は潜伏しているか、若しくは人間界への侵攻へと派遣された。

『げぶっ、いやっ、もう、もう許して!』

 今日続く……永遠に続くかと思う程の狂瀾の宴。
 その城の最上階に 魔人ホーネットはいた。
 
 いや、いた……ではない。幽閉をされていたのだ。特殊な結界の中に閉じ込められ、力を奪われ、縛られていた。

『ひぎっ!! ぎぃ!! う、うああっ、も、もうころ、殺じ…… ああっ!!』

 その傍では 自らに仕えていた使途ケイコが仇敵ケイブリスに犯され続けていた。
 数いた使途も、半数以下にまで減っていた。その全てが魔人ケイブリスに犯され殺されてしまったから。

『ぐぁはぁはぁはぁ!! どんな気分だぁ!? ええ、ホーネットちゃんよぉ! 目の前でてめぇの部下が犯されているのを見るのはよぉ!』

 怒りをぶつけても、泣き叫んだとしても…… いや、何を言ってもケイブリスを喜ばせるだけだという事はホーネットも判っていた。だからこそ、冷めた目を。冷やかな視線をケイブリスへと向けていう。

『………やりたければ、私から先にやればいいでしょう』

 使途たちが殺されていくのをただ見るしかできない。身を斬られる様な思いだったが、それを決して表には出さない。それだけがせめてもの抵抗だった。

『馬ァー鹿……、それじゃちっとも面白くねぇだろうが……。てめぇにゃ手間かけさせられた恨み! たっぷり使途や部下含めて受けてもらうぜぇ!』

 何を言っても変わらない。
 ただ、ケイブリスの手が強まるだけだ。ケイコはもう身体中で悲鳴を上げ血飛沫とケイブリスの白濁液を全身に浴び続けていた。

『それとなぁ、オマエはあの方への生贄でもあるんだよ』
『あの方…… カミーラのこと……』
『けけけ。カミーラさん、オマエの事嫌いだからなぁ……。きっとプレゼントしたら喜ぶぜ。それにお前が生きてる限り、シルキィとハウゼルもオレ様の命令を何でも聞く人形だしなぁ。人間との戦争で無茶苦茶コキ使ってズタボロになるまですりつぶしてやるぜ! それでもってよぉ…… その間にお前が守ろうとしたリトルプリンセスを捕まえて、ザクーっと殺す、と』

 ここまで喋った所で、ケイブリスは下衆びた大声で笑い始めた。

『ぐぁはははははははは!どーだ! 完璧な計画だろう! もう終わったんだよ。この世の全てがオレ様のものだ! ぐぁーーーーーはははははははは!!』
『………ッ』

 ケイブリスの言葉に反論できる筈もない。
 全ては自分の力不足のせいだった。そのせいで……すべてが終わりを告げた。 かすかに眉を寄せ、ケイブリスよりも不甲斐ない己自身を呪ったその時だった。




『セラクロラス。頼む!』
『うんー…… 判ったー。……でも、ユーリ……痛いよ?』
『それくらい構わない、だから急いでくれ!』
『判ったー…… うーん、とまれとまれとまれ~~~っ!』




 自分とケイブリス、そして 使途たちしかいないこの場所で、声が聞こえてきた。


『あん? 一体だ……れ………………』


 その途端にケイブリスの身体が石のように固まっていく。
 一体何が起きているのか……、はっきりと判らなかった。意識が混濁していて、幻覚や幻聴でも聞こえるのではないか? と思ってしまった程だ。

『うん…… おっけー。この部屋。ケイブリス周辺の時間だけ完全に止めたよ……』
『っ……あ、ぁぁ。あり、がと……な』
『……ユーリ、やっぱり痛い……。そんなユーリ見てるの……辛い』
『っ……。大丈夫だ。セラクロラス。それに、知ってるだろ? オレがもっと嫌なのは……』
『うん……。傷つく事、だよね……。だから、急いでー……』

 間違いなかった。幻覚じゃない。
 そして この声には聴きおぼえがあった。名前にも……聞き覚えがあった。

『ったく。ユーリ。瞬間移動でここまで連れて来いって時点で無茶苦茶なのに、更にそんな負担かけて……。アンタってヤツは』
『ハンティ。お叱りは後だ。……先にする事があるだろ。此処で効力が切れたらその時点でオレ達は全滅だ』
『判ってる。ちゃちゃっと終わらすよ。……んッ!』

 光が輝いたかと思えば、自身を封じていた結界が完全に破壊された。

『ふぅ……。時間が止まってる間は攻撃出来ないし、しても意味ない、か。んー、なら 止まってる間に魔封印結界みたいなの仕掛けとく、ってのはどう? 敵の総大将だし、その時点で戦争終了になりそうじゃない?』
『多分ケイブリスに通じない。コイツは最古の魔人。魔王ククルククルの魔人。その力を甘く見るのは危険だ。変に警戒を強化されるのも後々厄介になる』
『だろううな。ったく…… ユーリも大概反則的って思ってたのに、コイツも規格外の魔人か。……ま、今はユーリは消耗してるし、ここにきてるのは私とセラクロラスの3人だ。あんま突っ込んだ無茶はしない方が良いか』

 ハンティがそう言って手を上げたその時だ。

『おそく……なってすまない。ホーネット……ッ』

 身体を引き摺りながら 傍へと向かうユーリ。その囚われていたホーネットを、ユーリは抱きしめた。

『あっ……あっっ……』

 ずっと気丈に振る舞い、何を言われても、たとえ使途達が犠牲になっても表情にも出さなかったホーネットが綻びを見せた。





 そして現在RA15年。

 あの時の感触と同じだった。温かくて、心から安心出来て……心地良い。



 ホーネットは目を閉じていて、身体で彼を感じていたが……気が付いたらもうこの場所にはいなかった。
 身体を預ける様にしていた為動いたらすぐわかると思ったのだが、そこにはもうおらず、代わりに大き目のクッションがあった。それにもたれ掛かっていた、と言う事だ。
 恐らく魔法で作ったクッションだろう。

「……ふふ。此処までせずとも、そのまま行ってくれるだけで良かったんですけどね。沢山、貰いました」

 ホーネットはそのクッションを持ち上げ、抱きしめた。仄かに彼の香りがする。それを感じて。





「きっと……何か理由がある。そう、ですよね……。ユーリ。また――また、会いましょう」



 
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