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おぢばにおかえり

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93部分:第十三話 詰所へその七


第十三話 詰所へその七

「慎重に考えて喋ったりしてね。さもないと本当に後悔してもはじまらないから」
「わかりました」
 先輩のその言葉にこくりと頷いて答えました。
「そうですよね、やっぱり」
「ええ。ここでもね」
 駅前です。天理駅から全部はじまるっていう感じです。コンビニもあったりして便利な場所です。
「美紀と二人で歩いたり話したりしてるけれどね」
「いつも御二人ですよね」
「気が合うのよ」
 それで美人ユニットって言われています。とにかく目立つんです。
「兵庫と岡山だけれど」
「大教会は大阪ですから何かそこは微妙ですよね」
「そうね。けれど大教会が遠いのってね」
 そっちの話になるとまた苦笑いになる先輩でした。岡山と大阪の距離に困っておられるのは本当みたいです。私も神戸なんでこれは少しだけわかります。
「やっぱりしんどくて」
「詰所はどうですか?」
「そっちもよ」
 先輩の悩みはおぢばでも同じみたいです。
「神殿から遠いのってやっぱり困るのよね」
「じゃあ私のところはやっぱり」
「正直恵まれているわよ」
 やっぱりそうでした。さっきからの先輩とのお話通りで。
「羨ましいわね」
「ですか」
「さっきも言ったけれど。それにしてもね」
 駅のガードレールの下を通ります。そこにもお店が幾つかあります。
「ここを通るのは嫌いじゃないのよね、昔から」
「何でですか?」
「ここを通るとね」
 先輩の顔が綻んで目が細くなって。食べ物のお店を見てです。
「子供の頃あれ食べたいとかこれ食べたいとかよく言ったのよね」
「そうだったんですか」
「詰所で色々食べたのに」
 詰所では御飯も出ます。信者さんからのお供えのお菓子もあったりします。
「それでもここに来るとあれ食べたいこれ食べたいってお父さんやお母さんにねだったのよね」
「それ、私もです」
 恥ずかしいですけれど。
「おぢばがえりの時とか屋台で」
「そうよね、屋台でもね」
 月次祭やおぢばがえりの時なんかになると商店街に屋台が一杯並びます。そこでクレープとか焼き鳥とかを買って食べるんです。
「色々ねだったのよ」
「それで買ってもらっていたんですね」
「ええ」
 先輩のお顔がさらに綻んで。何かとても素敵な笑顔です。
「そうよ。あれだけ食べてもお腹壊さなかったのが不思議な位ね」
「私もです」
 本当によく食べました。今もですけれど。
「それでも」
「またそれね」
 先輩も私が何を言うのか御存知でした。
「大きくならなかったのね」
「やっぱり遺伝ですかね」
「まあまあ」
 しょげる私を慰めてくれました。
「そんなに気にすることはないわよ」
「そうですか」
「ええ。私だってね」
 けれど先輩は私より背が高いんです。ガードレールの下をくぐって先輩の詰所に向かう時もやっぱりお店が並んでいます。おうどんとかラーメンの。
「そんなに高くはないし」
「ですか」
「それにね」
「それに?」
「それがいいっていう男の子もいるわよ」
 何か話がマニアックになってきました。
「小さいっていうのがね」
「そうなんですか?」
 何度言われても実感できない言葉です。
「そういうことよ。それにしても」
「はい?」
 今度は私の方をちらちらと見ての御言葉です。
「中学生にも見えるわよね」
「それもよく言われます」
 無意識のうちに憮然となっちゃいます。
 
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