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ロボスの娘で行ってみよう!

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第27話 黒狐の暗躍 


今回の前半は、にしなさとる様の許可を受け、使わせて頂きました。
にしな様ありがとうございました。
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第27話 黒狐の暗躍 

宇宙暦792年1月9日

■自由惑星同盟首都星ハイネセン 後方勤務本部

 後方勤務本部長ニシナ大将が統合作戦本部で行われた第5次イゼルローン要塞攻略戦会議から帰ってくると、アンドリュー・フォーク中尉は取る物も取りあえず本部長への直談判に出かけた。

ニシナ本部長は帰部直後でありながら、フォーク中尉に会うことにした。
それは彼が、フォーク中尉の事務能力を、セレブレッゼ中将やキャゼルヌ大佐と同じように、得難い人材として高く買っていたがゆえである。
早速副官がフォーク中尉を案内してきた

「フォーク中尉入ります」
「入りたまえ」
「本部長閣下、小官の攻略案は採用されたのでしょうか」

フォーク中尉が期待した顔で質問してくるが、本部長にしてみれば、これさえ無ければ得難い人材であるのに残念と思うからこそ、今後のフォーク中尉の人生にも関わるからこそ、ここでしっかりと教え込んでおこうと考えたのである。

「フォーク中尉、これから言うことを聞けば、おそらく貴官は、気を悪くするだろう。
しかし怒らずに、最後まで聞いてもらいたい。」
「本部長閣下 どういうことでしょうか?」


「貴官が、作戦部門への配属を望んでいることは解っている。しかし、それは諦めたほうがいい。
貴官が提案した作戦案は投機的すぎるし希望的観測が多すぎて、使い物にならないと言われた」

フォークは顔を真っ赤にし始める。
「なんですって?!」

本部長はそれを見ながらも、淡々と諭すように話していく。
「もし貴官が、軍人としての栄達を望むのなら、この後方勤務本部で、それを目指したほうがいい。」

「…なぜです! 小官が、作戦家として無能だと言うのですか?!」
「…私が言ったわけではないよ。」
「は?!」

「作戦会議の席上で聞いたのだが、貴官については、『作戦家としては無能』という結論が、既にはっきりと出ているそうだ。統合作戦本部でも宇宙艦隊総司令部でも、そう断定済みだそうだ。」
「な……そんなっ!」

「ただし同時に、『デスクワークには優れている』という結論も出ているそうだ。……これがどういうことかは、解るね?」
「……つまり小官は、これからもずっと、後方勤務のままだと言うのですか? 作戦部門に配属される可能性は、将来もまず無いと言うのですか?!」

「そうだ。仮に配属されたとしても、部内で孤立すること、干されることは確実だ。それでは栄達などまず望めないのは、解るだろう?」
「………しかし、デスクワークでは優秀だと評価されている以上、後方勤務でなら出世できる可能性が有る………。本部長閣下はそう言われるのですか?!」

「そうだ。作戦部門で干されるよりも、後方勤務部門で栄達したほうが、まだいいと思うが。」
「………理由は何です?」
「? 理由?」

「小官を、『作戦家として無能』だと断定する、その理由は何です?! ご存じなら教えてください!」
「……ひとことで言えば、『教科書通りの作戦しか立てられない』からだそうだ。」
「…教科書通りの作戦の、どこが悪いのです!」

「…屁理屈はやめたまえ、フォーク中尉。『教科書通りの作戦を立てる』のと、『教科書通りの作戦しか立てられない』のとでは、まったく意味が違う。貴官にそのことが解らないはずはない。」
「う……。」

「もし貴官が、『教科書通りの作戦では目的が達成できそうになく、ゆえに教科書通りでない作戦が求められる場合でも、教科書通りの作戦しか立てられない』のだとしたら、私でも貴官のことを『作戦家としては無能』だと断定する。……そうせざるを得んよ。」

「………。」
「本当に貴官が『教科書通りの作戦しか立てられない』のかどうかは、私は知らん。しかし、いずれにせよ『作戦家としては無能』という結論が、既に出ている以上、貴官が将来、作戦部門で栄達できる可能性は、まず無いと見ていい。それなら、『デスクワークでは優秀』と評価されていることを生かして、後方勤務での栄達を目指したほうがいい。」

「・・・・・・・・・」

「それにだ、私は貴官の事を、セレブレッゼ中将やキャゼルヌ大佐同様に、後方勤務本部で得難い人材だと、常日頃思っているんだ。軍人なら誰でも知っている通り、戦争とは後方無くして戦うことは出来ん。何も前線で戦うだけが、軍人ではないのだ。フォーク中尉、後方勤務本部でお互い頑張ろうではないか」

そう言われたフォークであるが、無言のまま一礼して部屋を出ていった。
ニシナ本部長はその姿を見ながら、今は暫く頭を冷やさせてやろうと思いながら、自分の元に上がってきている決算書類の処置を始めるのであった。



帝国暦483年1月20日

■フェーザーン自治領 自治領主オフィス  アドリアン・ルビンスキー

「そうか、アルレスハイムでの帝国の損害は6割を越えたにも関わらず、
同盟にはたいした損害を与えられなかったか」
「はい、奇襲すべき艦隊全くタイミングを計らず狂乱の末の敗北です」

「しかし、カイザーリング中将は貴族にしてはなかなかの人物だと聞いていたが」
「部下の掌握に失敗したのでしょうか?」
「まあ過ぎたことは仕方有るまい。所で、又ぞろ同盟ではイゼルローン要塞攻略戦を決めたようだな」

「はい、ジリコフスキー弁務官から報告が来ております」
「同盟も懲りずに御苦労なことだ」
「3年前の大敗の傷が癒えましたし、来年は評議会選挙ですので、支持率アップの為の様です」

「ふ。くだらんな。しかしそれだからこそ、我がフェザーン自治領は動きやすくもある」
「同盟侵攻の情報、レムシャイド伯に連絡致しますか?」

「ここ2年ほど、帝国も同盟も大規模戦闘を避けた為に、フェザーン自治領の利益を損なう状態であったし、アルレスハイムでは帝国が一方的に損害を受けた。そうなれば、そろそろ同盟にも出血して貰わないとバランスの関係上些か不味いからな」

「では、一両日中にレムシャイド伯に伝えます」
「ボルテック、ジリコフスキーにイゼルローン攻撃の細評を探るようにな」
「はい、後方勤務本部で良い人材を更に見つけたようです」

「あの横流し大佐は脅すだけではなく飴をしゃぶらせておけば役に立つだろうが、それ以上の人材か」
「はい、士官学校卒業席次18位で後方勤務本部に配属された人材です」
「18位で後方勤務本部とは、未来の後方勤務本部長と期待されている人材ではないか?
そのような人物が、簡単に情報を漏らすだろうか?」

「そうとも言えないようです。何でも士官学校で戦略戦術家としては落第だと評され、
その為に後方勤務本部に配属されたと言うのが真相です」
「その様な人材、使えるのか?」

「自意識過剰で、自らを天才と称しているそうですが、未だに統合作戦本部や宇宙艦隊の参謀職に就く願望があるらしく、何かにつけて作戦案を私案として提出しているようです」
「ほう、でその作戦案は使える物なのか?」

「いえ、固定観念に囚われ過ぎているようです」
「ふむ、益々役に立たないのではないかな、もっとも使いようもあるだろうが」
「評議会議員のロイヤル・サンフォードと親しい間柄だそうです」

「ほう、政治力だけは一人前と言う事か」
それに、事務能力は折り紙付きらしく、後方勤務本部長も期待はしているようです」
「しかし、本人はそれに納得して居ないと言う訳か」

「心地よい聞き心地のいい甘言で惑わせば、情報を知らずに漏らさす事が可能と思いますが」
「うむ、ではジリコフスキーに手はずを整えさせるのだ」
「はい」

鏡を見たルビンスキーが心の中で呟いている。
ふ、アドリアン・ルビンスキーよ。お前の掌で帝国も同盟も踊るのだ、楽しいではないか。

 
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