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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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上条御一行、ご招待

「ん?……ゲッ、奥歯折れてやがる」

 口内の左側の方に違和感を感じると思ったら……上条君に殴られた時に折れたんだな、コリャ。後で明石にでも差し歯頼むか。そんな事をボヘッと考えながら、医務室へと向かう。ついさっき、上条が目を覚ましたと明石から連絡があったんでな。

「うぃ~す、上条君目ェ覚ましたって?」

 軽いノリで医務室に入っていくと、上条君が寝かされているベッドを囲む艦娘達に睨まれた。特に加賀からの殺気がヤバイ。何でこうも俺は加賀という艦娘に妙な縁があるのか。でもまぁ手前の提督ボコった野郎が同じ部屋に入ってきたら心中穏やかって訳には行かねぇやな、そりゃ。だが、互いに納得した上での試合だったんだから、謝る気はねぇぞ?

「貴方、ウチの当麻に何かあったらどう責任を取ってくれるのかしら?」

 今もグイグイ迫ってくる加賀の圧力が凄い。

「まぁまぁ、落ち着きなよ。別に検査結果に異常はねぇんだろ?明石」

「へっ?えぇ、MRIの結果とか脳波計の結果を見る限り、後遺症の心配も無いと思います。ただ……」

「ただ?」

 明石が俺の側につつつ、と寄ってきて耳に口元を寄せてくる。

『頭を強く打ったせいか、この鎮守府に来てからの記憶が飛んでるみたいです』

 もう、強く殴り過ぎですよ?と小声で呆れられた。

「心配し過ぎだよ、加賀姉……いてて」

「当麻、起きて大丈夫なの?」

 さっきまで俺にメンチビームぶっ放してた加賀が、起き上がった上条君に心配そうな顔ですり寄る。この手のひら返し。これだから女はおっかねぇんだよ……全く。

「よぅ、思ったより元気そうだな?」

「大将さん……俺、よく覚えて無いんスけど。何があったんでせう?」

「だから何なんだよ、その『せう』ってのは……まぁいいや。こっちもビックリしてんだよ、何せ俺がフルパワーでぶん殴ったのに1時間で復活しやがった」

 俺が事も無さげにそう言うと、上条君の目が点になった。そして数秒後、

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?お、俺大将にぶん殴られたの!何やらかしたんだ俺!っていうか記憶飛んでた時間の俺ぇぇぇ!」

 とベッドの上で悶絶し始めた。器用な奴だ。

「まぁ、その辺は追い追いな。俺も奥歯折られたし、そこはおあいこって事にしとこうや、な?」

「……え?俺が、大将殴ったんスか?」

「あぁ」

 まぁジョーと力石のクロスカウンターのシーンみたいな感じになってたけど、殴り殴られた事に変わりはない。俺を殴ったと聞いた途端、上条君がベッドの上で土下座を始めた。

「すんまっせんしたああぁぁぁぁぁ!おおお、俺はどうなってもいいんで、どうかコイツらにだけは寛大な処分をおぉぉぉぉぉ!」

 ホントに何も覚えてねぇんだな、コイツ……。しかし、自分が覚えて無いやらかし(かもしれない)に全力で頭を下げられるような奴に、悪党は居ねぇさ。

「くっ……くくく、ぷはははははは!」

 何だろうなぁ、いきなり笑えてきたぞ。とりあえずジジィよ、俺ぁこのガキを信用する事にしたぜ?





「あ~……腹痛て。まぁその辺のぶっ飛んでる記憶の話もあるからよ、積もる話は飯でも食いながらにしようや」

「いや、でも流石に大将にそこまで世話になる訳には……」

 と上条君は断ろうとしたが、その本人の腹が盛大に鳴る。頭じゃ断りたくても、身体はそれを拒否してるらしいなぁ?

「うっし、決まりだな。お嬢さん方も迷惑かけたし、そのお詫びも込めてご馳走させて貰いたいんだが……どうかな?」

「そんな物、要らないわ」

 加賀に即答で拒否されてしまった。

「まぁまぁ、折角ご馳走してもらえるって言うんだからいいじゃないの、加賀」

「そうじゃ。それに、ここの提督の作る料理は絶品と聞くぞ?」

 そんなご立腹の加賀を陸奥と利根が引き留める。

「そうですよぉ、折角海外まで来たんだからゆっくりしたいですよぉ」

「同感。たまには骨休めもいいんじゃないの~?」

「青葉は是非とも取材したいです、かの有名な金城提督の『Bar Admiral』!」

 更に比叡、川内、青葉の3人がそれを援護する。

「俺も腹へったしさぁ、いいだろ加賀姉?」

「み、皆がそこまで言うなら行くのも吝かではありません」

 上条君の言葉がトドメになったか、渋々だが加賀もウチの店に来る事を了承した。……しっかし、ウチの店ってそんなに有名なのか?

「有名ですよぉ!ここの鎮守府の艦娘さんとかがスマホで写真撮ってイ〇スタとかツ〇ッターとかに写真載せてますから!」

 ウチの連中、んな事してたのか。店内撮影してもいいかと聞かれたりしたが、そう言う事だったのね。

「まぁ、とりあえず移動すっか」




「へぇ……じゃあもう30年近く提督やってんですか」

「まぁな。長くいたお陰でこんな地位に座っているがな」

「いやいや、それどんな皮肉っスか」

 別に皮肉のつもりは無いんだが。店(執務室)に向かう道すがら、上条君と当たり障りの無い会話を交わす。どんな風に艦隊を運営してるか?とか、仕事の年数は?とかそんな所だ。出自不明の彼のディープな所に突っ込んで行きたいが、それはまだ時期尚早だろうな。

「おっと、着いたな」

 そんな会話をしている内に、目的地へと辿り着く。

「ここ、執務室ですよ?」

「あぁ、執務室だ」

「いやいやいやいや!何の冗談すか!?」

 まぁ、テンプレの反応だよなぁコレが。

「まぁまぁ、とりあえず中に入った入った」

 ゾロゾロと中に入っていく上条御一行。そこは普通の執務室よりも広いという以外は何の変哲も無い執務室。ここで料理をして食べるのか?と皆怪訝な表情を浮かべている。

「そのまま動かないで立っててくれよ?今から店に『する』から」

「え?そりゃ一体どういう……」

 意味ですか?を言わせる前に、俺が執務机に付けられているスイッチをポチっとなする。するとガシャコンガシャコン音を立てながら、執務室の家具がピストンやら何やらで入れ替わっていく。さながら変形ロボや合体ロボの変形シーンのようで、男ならばテンションが上がらないハズは無い。上条君が連れてきた青葉も大興奮で、バッシャバシャ写真を撮っている。他の5人は呆気に取られているようだが。

「ようこそ、『Bar Admiral』へ」

 変形が完全に終わった所で、一行にそう挨拶する。皆あんぐりと口を開けたまま固まってしまっているが。

「ほれほれ、お客さん方は座った座った」

 パンパンと手を叩きながらそう促すと、そこでようやく意識を取り戻したのかカウンター席に腰掛ける上条御一行。それに付いてきたウチの連中も好きなようにソファやその辺の席に座っている。

「俺ぁ着替えしてくっから。説明は任せたぞ早霜」

「了解です、店長」

 そう言って奥の更衣室に引っ込むと、早霜の声が聞こえる。

「『Bar Admiral』へようこそ、お客様。私は当店の助手を務めております、バーテンダーの早霜です……どうぞよろしく」

「さて、今宵は皆様への店長からのお詫びも兼ねておりますので皆様の飲食代は無料とさせて頂きます」

 早霜がそう告げた瞬間、ウチの連中が大歓声を挙げる。

「あ、ウチの連中は有料だぞ?」

 更衣室から俺がそう告げると、途端に歓声はブーブーというブーイングの嵐に様変わりした。ウチの連中にタダ飯とタダ酒なんてさせてみろ、ウチが破産するわ。

「さて、店長が着替えしている間にウェルカムドリンク等如何でしょう?」

「あ~……俺未成年なんスけど」

「大丈夫です、当店では下戸の方でも楽しまれるようにノンアルコールのカクテル等もご用意してございますので」

 よしよし、いい対応だぞ早霜。

 
 

 
後書き
飯テロまで行けなかったお……(´・ω・`; ) 
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