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歌集「冬寂月」

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三十五




 夜もすがら

  人そ恋しき

   花冷の

 月もなからむ

   空ぞうらめし



 春も半ばに差し掛かろうと言うのに、この夜はやけに冷え込む…。

 一人でいると何とも寂しく…あの人を恋しく思ってしまう…。

 空には雲が掛かり…月も見えず、ただ闇が漂う…。

 こんな寂しい時は、ずっと月を眺めていたいものを…。



 春の夜は

  僅かなりしと

    明けにける

 朝来たらば

    夢そ散らばや



 春の夜は短い…然して時もなく暁を迎えてしまうものだ…。

 物思いに耽っていれば、直ぐに夜は白み始め…朝が来たのだと分かれば、思う夢さえも花が散りゆくように散ってゆく…。


 忘れ得ぬ想いさえも…散って消えゆけば楽なものを…。



 
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