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おぢばにおかえり

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80部分:第十二話 制服その六


第十二話 制服その六

「ひょっとしてこの学校三学期が短いのって」
「部活やってればあまりだけれどね」
 天理高校の冬休みは一月、春休みも一月です。夏なんかは二ヶ月近くあります。ただし部活があればそれでおぢばにいることになります。特におぢばがえりの時が忙しいんです。あと三学期がはじまるのも早くて一月五日からです。それはおせちひのきしんといって新年の催しに参加しないといけないからです。
「それでも長いのってやっぱり」
「夏と冬が地獄だからかしら」
「もっともその夏にこそ忙しいんだけれどね」
「まあね」
 なおこれは私達だけではなくておぢばの人、いえ天理教の人皆がです。天理教で忙しいのは夏のおぢばがえりとお正月です。ついでに言えば二十六日もです。月次祭の。
「夏嫌よねえ」
「本当よ。男の子の目だって気になるし」
「そうそう、それそれ」
 何かこの言葉皆使っているような。何故でしょう。
「白で薄いじゃない。つまり」
「ブラが透けちゃうのよね」
「しかも。目立つ色だと余計にね」
「ええ」
 元々派手な色は着けられないですけれどそれでも。実質的に白だけになっちゃいます。もっとも殆ど皆下着は白だけなんですけれど。理由は寮のしきたりです。
「下手したらショーツまで」
「それはないわよ」
 私はそれは否定しました。
「どうしてそうなるのよ」
「狙われているのよ」
 私が否定したらこう返してきました。
「狙われているって男の子から?」
「そうよ。スカートだって薄くなるでしょ」
「ええ」
 何か話がまたそっちにきています。
「それで少しラフな動きをしたら」
「めくれたりするのね」
「そういうこと。それにも気をつけないとね」
「何か夏ってかなり気をつけないといけないのね」
「そうね。まあ逆に言えば」
 ここで彼女はふと思わせぶりな笑みを見せてきました。如何にも何かよからぬことを考えていますよ、って感じの顔になっています。
「あれよ。男の子をゲットするには」
「何かそういうのって好きになれないけれどね」
 私はそれは否定しました。
「駄目よ、そんなの」
「相変わらず真面目ね」
「真面目っていうかあれよ」
 そしてまた彼女に言いました。
「やっていいことと悪いことがあるじゃない。そんな誘惑みたいなことを」
「本命の子を一人だけ誘惑するのはいいことよ」
 中森明菜さんの曲?みたいなことを言い出してきました。中森明菜さんはお父さんとお母さんがファンなんです。昔の映像を見て私あんなに奇麗っていうか妖しくなれるのかなあ、って凄く不思議に思ったりもしますけれど。私も中森明菜さんは嫌いじゃないです。
「そううちのお母さんが言っていたわよ」
「一人だけなのね」
「そう、一人だけ」
 色々な人にそんなのやったら確実にやばいですけれど。
「そうらしいわよ」
「凄いお母さんね」
「それでお父さんゲットしたらしいのよ」
 何かよくあるお話のような。
「学校の後輩だったお父さんをね」
「そういえばあんたのお母さんって」
「そうよ、天理高校から天理大学で」
 つまり私達の先輩でもあるんですね。
「それで教会継がないといけなかったから」
「後輩を捕まえたの」
「捕まる方が悪いのよ」
 凄く身勝手っていうかそのまま女郎蜘蛛っていうか。やっぱり中森明菜さんの曲な感じに思えます。
「それに捕まってお父さんも幸せになったんだし」
「そうなの」
「といってもあれなのよねえ」
 ここでふと話を困った顔で変えてきました。
「教会っていうか天理教って」
「何?」
「女の人の方が大変じゃない」
 話はここでした。
「何かっていうと動いたり話を聞いたりするのって女の人じゃない?」
「そうなのよね」
 これはお母さんを見ていてわかることでした。むしろお父さんの方が動いていないような気がします。それは大抵何処の教会でも同じのような。
「うちの家も会長はお父さんだけれど」
「お母さんばかり動いているのね」
「そうなのよ、完全な姉さん女房だけれどね」
 そういうことみたいです。これも天理教じゃよくあります。
「お父さんはまあ。いるだけかな」
「いるだけって」
 けれど笑えないのは何故でしょうか。
「そうなの」
「完全にお母さんが仕切ってるしね。全部」
「そういえばうちもかな」
 うちも結構。お父さんが会長なんですけれど大体のことはお母さんがしています。それを考えたら何か天理教の教会は結構そうした感じが多いんです。
「何か」
「でしょ?そういうものだと思うわよ」
 彼女も言います。
 
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