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おぢばにおかえり

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8部分:第二話 神殿その五


第二話 神殿その五

「新一君と一緒の部屋なんて。絶対に願い下げよ」
「俺はいいけれど」
「冗談じゃないわよ」
 この言葉も本当に口癖になってます。
「私は男の人とは一緒の部屋には」
「そうなんだ」
「それも結婚してからよ」
 本当にそう決めています。それまではっていうのはやっぱり古いでしょうか。
「旦那様になる人だけしか一緒には」
「凄いね、何か」
 新一君もそれを聞いて言います。
「そんなに真面目なんて。今頃何ていうか」
「悪い?」
 きっと見返します。
「それが」
「別に」
 ところが新一君はソフトを食べながら軽く返してきました。
「人それぞれだし。そんなのは」
「いいの」
「俺はね。それは別に」
 そう答えてきました。
「いいと思うけれどさ」
「そうなの」
「じゃあそれは俺かな」
「馬鹿言わないでよ」
 何を言うかと思えば。こんなことばかり言うし。
「何で新一君とよ。ふざけないでよ」
「ふざけてるように見える?」
「ええ」
 それ以外に思えません。他にどう思えっていうんでしょう。いつもいつもふざけてばかりでこっちも立腹し通しです。それじゃいけないっていうのに。
「少しは真面目にしなさい」
「厳しいなあ」
「厳しくて結構」
 またきっとして言ってやりました。
「新一君みたいなふざけた子にはね。いいわね」
「はいはい」
「はいは一回」
 どんどん保護者めいてきました。それに自分でも気付いて妙な気持ちです。
「わかったわね」
「はい。さて、着いたし」
「あれ、もう」
 気付けばもう詰所の門の前です。詰所ひのきしんの梶本さんがお花にお水をやっています。太った白髪のお爺さんです。
「早いわね」
「話していたからね。あっ、梶本さん」
「あっ、デートしてたんだ」
「なっ、そんな」
 梶本さんにいきなり言われてまた顔が真っ赤になりました。冗談じゃありません。
「あの、梶本さんそれは」
「はい、そうなんです」
「えっ、ちょっと」
 また横から新一君が言います。軽やかに笑って大嘘をつきます。
「ちょっと子連れで。未来の練習に」
「うん、それはいいことだね」
「あの、梶本さん」
 たまかねて根岸さんに言います。
「そんなのじゃないです。だって私主任先生に呼ばれて」
「先輩八重歯見えてるよ」
「うっ」
 私八重歯あります。それも何か子供っぽいって言われます。そう言われるので気にしていますけれど。可愛いって言ってくれる人もいたりします。
「口開くから」
「新一君が言うからじゃない」
 それもこれも。
「だからよ。失礼するわ」
「いつも仲がいいね」
 すると側から梶本さんが笑ってきました。
「陽気ぐらししてるやん」
「違います」
 天理教の目標は陽気ぐらしといいます。簡単に申し上げますとお互いが互いの良いところを伸ばし合って足りないところは補い合う。そうして助け合って一緒に生きることです。親神様は人がそうして生きるのを見て共に楽しもうと考えられて私達人間を御創りになられたんです。ですから天理教の教えの中でも最も重要なものの一つなんです。
「だって新一君・・・・・・いえ阿波野君いつも私を困らせてばかりで」
「困らせてま〜〜〜〜す」
 全然反省していません。こんな子なんです。
「先輩に何かと」
「ほら、本人もこう言っていますし」
「ははは、それでいいんだよ」
 梶本さんはそれを聞いても笑います。
「助け合いだからね」
「はあ」
 助け合いも大切な教えですけれど。何かこの場合言われてもいい気持はしないです。
「そうですか」
「まあ中に入って」
 中に入るように言われます。
「疲れたろ。休みなさい」
「わかりました」
「先輩、お茶」
「甘えるんじゃないのっ」
 また八重歯が出ました。
「それ位自分で入れなさい」
「だって先輩が入れてくれたお茶が一番美味しいから」
「そんなの変わらないわよ」
 むっとして口を閉じました。本当に。
「とにかく中に入るわよ」
「はいはい」
「じゃあわしも一休みするかな」
 梶本さんも手を止めて腰を伸ばしながら言いました。
「一服してと。じゃあ千里ちゃん」
「はい」
「お茶ね。阿波野君の分も」
「えっ!?」
 また顔を顰めてしまいました。
「入れてあげて。いいよね」
「どうも根岸さん」
 横から新一君が笑顔で言います。子供達の相手をしながら。
「御馳走になります」
「じゃあ御願いね」
「わかりました」
「いやあ、先輩の入れてくれたお茶が飲めるんだ」
 『彼は』すっごく楽しそうです。
「よかったよかった」
「全く」
 また溜息が出ます。
「どうしていつもこうなるのよ」
「これもいんねんってやつかな」
 天理教の教えでいんねんと心つかいにより出来上がっていくものです。前世や親からのつもり積もったものが現われることを言います。いいいんねんを白いんねん、悪いものを悪いんねんと言います。種蒔きに例えますと良い種と悪い種があってそれを撒くことでそれがいんねんというものになるんです。
「やっぱり」
「困ったいんねんよ」
 新一君から目を離してまた溜息です。
「何でよりによってこんなに手のかかる子が」
「俺って子供だったんだ」
「背は高いけれどね」
 それは認めます。私がちっちゃいせいもありますけれど。
「全く」
「じゃあ子供だから何かお菓子頂戴」
「またそうやって事務所にたかって。信者さんから頂いたものなのに」
「まあまあ」
「まあまあじゃないの。一人でどれだけ食べるのよ」
 何か新一君と一緒だといつもこうです。結局覚えているのは彼にあれこれ言ったことだけ、子供達の相手をする方がずっと大切なのに自分が嫌になります。本当に背が高いだけの子供の相手をするのは困りものです。


第二話   完


                    2007・9・8
 
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