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天体の観測者 - 凍結 -

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レーティングゲームⅡ

 
前書き
お待たせしました。
ではどうぞ。 

 
 遂に始まったレーティングゲーム。
 舞台は異空間に設置された駒王学園を模した精巧なるレプリカ。

 レーティングゲームは既に始まっている。
 今、リアス達はオカルト研究部の部室にて遂に始まったレーティングゲームに向けた戦略を話し合っていた。

 リアス達の本拠地は彼女達が普段から慣れ親しんだオカルト研究部の部室であり、対するライザー側の本拠地は生徒会室となっている。

 見れば朱乃達の主であるリアスは平時の時と変わらずにオカルト研究部の部室のソファーに腰掛けている。女王である朱乃はそんなリアスのマグカップに紅茶を淹れていた。

 一誠を含めた眷属達は主であるリアスの言葉を待っている。

「…遂にレーティングゲームが始まったわ。」

 リアスは紅茶が淹れられたカップを机に置き、一言。
 そう、既にリアスの将来を左右するレーティングゲームは始まっているのだ。
 
 一層気を引き締め、真剣な顔付きを浮かべる一誠達。
 王であるリアスはそんな己が眷属達を見渡し、再び紅茶を口に運ぶ。

「だけど侮ることも、騒ぎ立てることも、恐れることも、動じる必要もないわ。各自作戦通りに動き、平時と変わらずに行動してちょうだい。驕らず、早らず、ただ座して敵を迎え撃つ、これが私達のレーティングゲームにおける心構えよ。」

 ライザーという格上が相手であり、勝機が限りなく薄い此度のレーティングゲームだというにも関わらずリアスから切羽詰まった様子は見られない。

 そう、何故なら…

「私達はあのウィスの過酷な10日間の修行を乗り切ったのだから。このレーティングゲームでライザーに勝つことも決して不可能なことではないはずよ。」

 ウィスの協力のもと行われた修行という名の地獄の猛特訓、リアス達は何度死を幻視したことか。
 一度や二度ではないだろう。

 リアス達は幾度も生と瀕死の状態を経験し、その度に地獄を垣間見てきたのだ。
 大怪我を負う事態になってもウィスの手により瞬く間に回復させられ、心身諸共酷使する修行メニューを課せられる10日間。

 起床時には大樹内の寝室を崩壊させる規模の時限式爆発目覚まし砂時計による大爆発。
 ウィスが対戦相手となることで行われる数時間規模の対人練習。
 ウィスの別荘である惑星の周囲を重力を数倍にされた状態で行われた重力走行特訓。
 そして、修行後にて衣類の重さも同様に数倍、数十倍にされた状態で行われるレーティングゲームにおける心構えを説かれるウィス主催の講座。
 
 それ以外にもリアス達は10日間の間自身の能力を向上させるべく様々な修行に取り組んだ。
 結果、リアス達の実力は飛躍的に上昇し、以前と比較しても大幅な実力アップに成功したのである。

 それに比べればこのレーティングゲームでライザー眷属に勝利を収めることなどそう不可能なことではない。
 何より自分達はライザーよりも遥か格上の相手であるウィスと手を大幅に抜かれた状態ながらも修行を行ってきたのだ。

 今回のレーティングゲームにも必ず勝利を収めてみせる。
 ウィスの期待に応えるためにも。
 
「そうですね、リアス部長。」
「リアス部長の言う通りです…。」
「リアスの言う通りですわ。私達はウィスの修行を乗り切ったんですから。」
「そうですよ、部長!絶対勝ちましょう!」
「え…えっと…、頑張りましょうっ!リアス部長!」

 リアスの自信ある一言に一誠達も次第に活気を取り戻し、口々にレーティングゲームに向けてやる気を出し始めた。

「…皆。…ええ、そうね。」

 朱乃達の励ましの言葉を受け、その場に立ち上がるリアス。

「さぁ!行きなさい!私の可愛い下僕達!」

 己の主であるリアスの激励を受け、この場の一誠とアーシアを除いた朱乃達が自身の役割を果たすべく駆け出して行った。


─レーティングゲーム始動─







▽△▽△▽△▽△







 ワイングラスを揺らしながらウィスは実に面白げに、そして愉し気にモニターを眺める。

「ウィス、愉んでる…?」

 此処はVIPルーム。
 リアスとライザーの此度のレーティングゲームを観戦することが可能な場所である。

 ウィスの膝上にちょこんと座っているオーフィスが無表情にてコテンと可愛らしげに首を傾げる。
 口元はケーキのクリームだらけであるが。

「ええ、愉しんでいます。何故なら今回のレーティングゲームは誰もが予想だにしていなかった結果になるでしょうからね。」

 ウィスはワイングラスに注がれたワイン越しに眼前にて繰り広げられているレーティングゲームを見通している。

 その深紅の双眸が見据えるはこのレーティングゲームの行方か、それとも全くの別の何かか。
 それはウィスにしか知り得ない。

「それは…何故?」

 オーフィスは要領を得ることができず再び首を傾げる。


「想像してもみてください。相手を格下と見下し、侮り、己の優位を疑わず、自身の勝利を確信していた者の足元が掬われる瞬間を…。」

 モニターに映るライザーの眷属達、そして彼女達の主であるライザーを見据えながらウィスはまた一口ワインを口へと運ぶ。


「もし仮に、リアスとその眷属達の潜在能力の高さを理解し、己の眷属と自身の力を今日まで鍛え続けていればもしかしたら結果は変わったものになっていたかもしれません。」

 ワイングラスを揺らしながら饒舌に口を動かすウィス。


「ですが彼、ライザーは早々にリアス達に見切りを付け、己の力を過信しました。彼は平時の無駄な思考を続け、延々と益体の無い妄想に耽るだけでした。」


「勝利の渇望の放棄。思考の忘却。」


「即ち、それは紛れもない『慢心』です。」


「ですがこれは祝うべきことです。ライザーはついに『挫折』の何たるかを理解することになるのですから。」

 オカルト研究部で出会った当初からウィスはライザーが自身のフェニックスの力を絶対視し、慢心していることに気付いていた。

「私もオーフィスと同じく長生きですからね。娯楽に飢えているんですよ。」

 そう、ただ自分は両者の闘いの行方を少しだけ酒の肴にし、愉しませてもらうだけである。

「…『娯楽』、即ちそれは『愉悦』です。」

 とある黄金の王と酒を酌み交わしたあの頃が今では懐かしい。

「…愉悦…?」

 オーフィスはウィスの言葉を分からないとばかりに反芻する。

「私の妹であるリアスの人生を賭けたレーティングゲームを酒の肴にするのはよしてほしいのだがね、ウィス?」

 我慢ならないとばかりに隣に座していたサーゼクスが鋭い視線を此方へと飛ばしてくる。
 背後からも敵意を内包した視線が。

「『悦』を狭義に捉えるのは早計ですよ?」

 だがウィスは動じない。

「ライザーがこのゲームで味わうことになるであろう苦悩と痛み、挫折を『悦』とすることに、何の矛盾があるというのですか?愉悦の在り方に定型などありません。それが解せないがゆえに迷うのですよ、お二人は。」

 ウィスはサーゼクスとグレイフィアとの間に存在する誤解をひも解いていくように優しく語りかける。

 『愉悦』の何たるかを。


「『慢心』していたがゆえにライザーは挫折を味わい、フェニックスの力を絶対視していたがゆえにリアスに足元掬われることになるんですよ。」

 己の力に酔い、慢心していた者が地に伏す瞬間は実に爽快な気分だ。
 そのライザーを崩すのが自身が鍛えたリアス達ならばなおさら気分が高揚するというもの。

 だがこれはリアスとライザーの両者にとって人生の転機となるだろう。
 良い意味でも、悪い意味でも。


「それに私には既にこのレーティングゲームの勝敗は見えています。」







「この戦い、リアス達の勝利です。」







▽△▽△▽△▽△







 駒王学園の体育館。

 今此処ではリアス・グレモリーの眷属である『兵士』の一誠と『戦車』の小猫が佇んでいた。

 対するはライザー・フェニックスの眷属である『戦車』の雪蘭と『兵士』であるミラ、イルとネルの4人が相手である。

 だが戦況は終始一誠と小猫の2人に優位な状況で進んでいた。

 確かにライザー眷属である彼女達は強い。
 彼女達から如実に鍛錬の成果が伺えるのも事実。


 だが一誠達からすれば想定内も想定内の実力であった。 

 この10日間自分達の修行を担当してくれたウィスの足元にも及ばない。
 速度、膂力、その全てがウィスは理不尽なまでの強さを誇っていたのだ。

 故にこの結果は必然なことであり、予想された光景であった。





「次で決めます。…覚悟してください。」
「…く!?」

 当たらない。
 自身の攻撃が掠りもしない。

 否、全て見切られているのだ。
 自身の対戦相手である小猫は必要最低限な動きで、此方の攻撃の全てを見通しているのである。

 ライザーの『戦車』である雪蘭は焦燥に駆られていた。 

「…ほい。」

 小猫は大きく一歩前へと足を踏み出す。
 続けて自身の拳を強く握り締め、全身の力を満遍なく伝えた一撃を直撃させた。
 手加減をすることなく小猫は必殺の威力を込めた重い一発を雪蘭へと放つ。

「か…は…!?」

 先ずは急所である鳩尾。
 続けて小猫は相手の顎へ掌底を叩き込み、意図的に脳震盪を起こすことで意識を朦朧とさせる。
 決して敵である雪蘭に反撃の隙を与えない。

「…止めです。」

 最後に意識が朦朧とし、ふらついている雪蘭へと無数の拳の連打を打ち込んだ。
 全身の力を一点に集中させた必殺の拳である。

 その威力は凄まじく、雪蘭は体育館の壁へと激突し、大きなクレーターに埋没することになった。

 小猫vs雪蘭の対決。

 塔城小猫の勝利

『ライザー・フェニックス様の戦車1名、リタイア』

 グレイフィアの戦況を伝える無機質な声がアナウンスで周囲に響く。




「やったぜ、小猫ちゃん!」
「触らないでください、一誠先輩。」

 喜びの余り一誠は小猫の肩へと手を置こうとするも、小猫に避けられてしまう。

 見れば向こうでは一誠の洋服崩壊(ドレス・ブレイク)により衣服を吹き飛ばされ、泣いているライザーの眷属達がいた。

 何と酷い光景であろうか。
 正に一誠の欲望が具現化した必殺技である。

 どうやらウィスの名の下行われた地獄の特訓は彼にこの破廉恥極まりない技の習得を後押してしまったらしい。

 小猫は洋服崩壊(ドレス・ブレイク)の存在を嫌悪しているようだ。
 まあ、当然であるが。

「…外に出ましょう、一誠先輩。」
「わ…分かった、小猫ちゃん。」

 小猫の剣吞な雰囲気に圧されながらも彼女の言葉に従う一誠。

 一誠と小猫の2人が体育館を五体満足の状態にて出た刹那─







 上空から魔力の塊が飛来した。

 それに伴う大爆発。
 地面にはクレーターができあがり、周囲に爆煙を立ち込めさせる。



「油断大敵ですわよ。」

 不意打ちによる奇襲。
 その下手人はライザーの女王であるユーベルーナであった。

「…やはり敵を仕留める最高の好機は敵が『勝利を確信した瞬間』ですわね。」

 得意げに彼女はそう述べ、眼下の一誠達を見下ろす。

 彼女の顏に浮かぶは自身の策略が成功したことによる笑み。







「ええ、全くもってその通りですわね、爆弾女王(ボムクイーン)さん?」

 突如、高笑いを続けるユーベルーナへと雷光が飛来し、直撃した。



 



▽△▽△▽△▽△







 一方その頃VIPルームにてレーティングゲームを観戦していたウィスは……

「ここまでは全て私の計画通りですね…」

 口元に微笑を浮かべながらモニターを眺め、ワイングラスに再びワインを注いでいた。
 
 愉悦、愉悦。

「信じられないね、これは…」
「まさかこれ程までリアス達が実力を伸ばしていたなんて…」

 信じられないとばかりに、サーゼクスとグレイフィアの2人はモニターを傍観している。
 リアス達の実力は想像以上、否、想定外な勢いで飛躍的に上昇していた。

 これも全てウィスの特訓の成果なのだろうか。

 サーゼクスとグレイフィアはゲームを観戦するウィスを静かに横目で盗み見た。

 見れば当人であるウィスは実に愉し気にワイングラスを揺らしながら、お菓子を食している。
 どうやらウィスはこの為すべくしてなったレーティングゲームの戦況に満足しているようだ。

 何処までも平常運転なウィスに嘆息しそうになるサーゼクスとグレイフィア。

だがこれなら…

「…。」

 サーゼクスは一人嬉し気にリアスのことを想った。
 最愛の妹であるリアスの勝利を願って。







▽△▽△▽△▽△







 上空へと立ち込める爆炎と爆煙。

「…。」

 ライザーの女王であるユーベルーナを真横から襲撃した本人である朱乃は油断することなく前方を見据えている。




 次の瞬間、周囲の煙が晴れ、無傷のユーベルーナが現れた。

「…やってくれましたね、リアスの女王。」

 見れば彼女は右手に小さな小瓶を握り締め、朱乃を睨みつけている。

「狙ってくれとばかりに隙だらけだったもので。先手必勝ですわ。」

 本人である彼女も一誠と小猫を奇襲していたのだ。
 因果応報である。

「ッ…!雷光の巫女。」

 ユーベルーナは苦虫を嚙み潰したようような表情を浮かべる。

「それと、貴方にとって残念なお知らせですが貴方の奇襲で一誠君達の誰一人としてリタイアはしていませんよ?」

「…ッ!?」

 驚いた様子で眼下を見下ろすユーベルーナ。
 見れば自分の攻撃をその身に受けたはずの一誠達は誰一人として怪我を負っていなかった。

「どうやら貴方が無傷で健在なのは、フェニックスの涙を遣ったからのようですが…」

 朱乃の言葉に隠す様にフェニックスの涙が入った小瓶を強く握り締めるユーベルーナ。

「残念ですがそれも無駄な徒労に終わります。」

 朱乃は油断することなく10日間の修行で会得した繊細なエネルギーコントロール技術を用い、次の攻撃へと移行する。

「くっ…!」

「最後に貴方に言わせて頂きますわ。……『切り札は遣った時点で切り札ではなくなる』んですよ、爆弾女王(ボムクイーン)さん?」

 朱乃は掌に即座に堕天使の力である雷光と悪魔の力である魔力を同時に発生させ、収束、圧縮、凝縮していく。
 続けて朱乃は容赦することもなく、ウィス直伝気功波を眼前のユーベルーナへと勢い良く解き放った。

 放出に伴う眩い閃光。

 ユーベルーナの視界が即座に無力化される。

 朱乃が放ったそのエネルギー波の威力は凄まじく、雷速を誇る途轍もない速度で一直線にユーベルーナへと向かった。
 閃光の影響により前方の朱乃の姿さえまともに視認できないユーベルーナに避ける道理が存在するはずもなく、その莫大なエネルギー波をその身にもろに受けてしまう。

 直撃に伴う大爆発。
 ユーベルーナの身体は途方もないエネルギーが直撃したことにより即座に満身創痍の状態へと化していた。

 魔力に内包されていた雷の影響を受け、身体は弛緩し、まともに動くこともできない。

 ユーベルーナは為す術もなく眼下へと落ちていき、地面へと墜落する。
 当然、満身創痍の状態である彼女が落下に伴う衝撃に耐えることができるはずもなく意識は瞬く間に深く落ちた。


ライザー様……、すみません。



 最後に自身の敬愛する主であるライザーへの謝罪を心で呟きながら。

 ユーベルーナの身が光に包まれ、レーティングゲームから退場する。


 朱乃vsユーベルーナの女王対決。

─姫島朱乃の勝利─

『ライザー・フェニックス様の女王、リタイア』

 戦場である駒王学園に再びグレイフィアのアナウンスが響いた。


─レーティングゲームの終極まであと残り僅か─
 
 

 
後書き
レーティングゲームⅡでした。

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