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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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ホロウ・リアリゼーション-alternative-
  「……わたしを、つれていってくれませんか?」

 
前書き
簡単にわかるこれまでの三つの出来事。
 リズと一緒にオーディナル・スケールまでクリアしたよ
 SAOの時から使ってたデータを消して1からALOをプレイしてるよ
 そんなショウキってレプラコーンの話 

 
 カリカリと小気味良い音が教室に響き渡る。巷ではVRだのARだのと騒ぎにはなっているものの、教室の風景などというのはそうそう変わらないらしい、とリズはペンを走らせながら考えて。

「…………」

 ふと顔を上げてみると、そこにはこれでもかと眉間にシワを寄せて課題に取り組む彼が目に入って。一見すればクールだのと噂されるようなルックスで、実際の彼も確かに感情を表に出さない方ではあるが、クールというより根暗だというのが自他ともに認めるところだ。彼本人としても最近は脱根暗を目標として掲げているが、目標が達成される目処はたっていない。

「……どうした?」

「ううん、ここ間違ってるわよってだけ」

 流石にずっと見続けていたからか、怪訝な表情で彼も見返してきて。まさか、あんたの顔を見てただけよ、などと素直にリズも言えるわけもなく、ひとまず適当に理由をでっち上げると。課題の計算式が間違っていたのは確かであり、生真面目にも苦虫を噛み潰したかのような表情へと変わる彼――ショウキに、何もそこまで気にすることも、とリズもつられて苦笑いを見せる。

「何かあったの?」

「……なあ、リズ。本当に、本当に俺の心とか読んでないよな?」

「んなわけないでしょー」

 ショウキの間違いを修正する手もピタリと止まり、困った時の癖である髪の毛をクシャクシャと掻く動作を見るに、課題に集中できない何かあったのは事実のようだ。ショウキ本人は見栄っ張りなため、何かあっても顔には出してないつもりらしいが、わりと分かりやすいというか何というか。生来からして生真面目のようで、そもそも隠し事が出来ないタイプなのだろう。

 それに彼のことをあたしは理解できているのだと実感するようで、なかなかリズとしても気分は悪くない。ショウキからすれば、たまったものではないだろうけれど。

「それで? 茶飲み話くらいにはなったりしない?」

「……俺たちの……将来のこと、なんだが」

「へ?」

 こう見えても成績優秀を自負しているリズは早々と課題を終わらせ、ようやく修正を済ませたショウキに軽い気持ちで先を促すと。まるで予想だにしていなかった言葉に、リズも反射的に奇声を発してしまった後に、ショウキの言葉が脳内で反芻される。

 ショウキとリズ、二人の将来の話。それはつまり。

「なに言ってんのよ! そんなの……ま、まだちょっと早いでしょ!」

「……悪かった! こっちの言い方が全面的に悪かった。そういう話では……あるんだけど、あー……最初から話すから落ち着こう、うん」

 普通なら、あんたが落ち着けとリズが一喝するところだが、今回ばかりはショウキの方が幾分かは落ち着いていたようだ。こめかみを抑えて言葉を選びながら、そんなことを口走った経緯をゆっくりと話していく。

 いわく、ショウキの将来の夢はなんだと、母親にからかわれたのだと。来年でこのSAO生還者学校も卒業する以上、就職するにしろ進学するにしろ、確かにそろそろ決めていてもいい頃であって。その辺りは子供の頃からの夢があるリズにはもう解決した話であるが、あいにくとショウキには心当たりもないようで。

「色々とやってみたけど……俺はどうも欲望ってものが少ない、みたいだ」

「ああ、いつだか色んな資格を取るのハマってたわよね、あんた」

「……本当に、リズと一緒にいられればいいんだ。俺は」

 漢検や会計士といったよくぞといったものから、箸のキレイな持ち方検定というよくわからないものまで。ただ受けていただけではなくて、彼なりに何かを探していたようであったらしいが、あまり手応えはなかったようだ。そうしてショウキが珍しくもらす本音には、この居心地のいい学校で時間が止まればいいのに、とでもいいたげなものだった。

「どこが無欲なんだか。あたしとずっと一緒にいたいなんて、強欲も強欲じゃない」 

「言われてみれば……そうだな」

 そう冗談めかして、指と一緒に現実を突きつければ、ショウキの表情も鳩が豆鉄砲でも食らったような顔に変わる。とはいえ確かに、あのデスゲームをから生きていればそれでいいなどと、悪い意味で悟ってしまった彼は、次の瞬間にもどこか消えてしまいそうな儚さがあって。

「ゆっくり考えましょ。あたしたちのこれからは、いくらでも時間はあるんだから」

「そう……だな。悪かった、いきなりこんな話して」

「あたしが聞いたんでしょ。確かにちょっと重いけどねー」

「勘弁してくれ」

 無意味なほどに生真面目で、根暗で、見栄っ張りで、不器用で……消えてしまいそうで、放っておけなくて。それでも何かあれば、すぐに駆けつけてくれる優しさがあって。今も困ったように笑う彼の、ちょっと困らせたくなる表情が、リズは特に好きだった。

「ほら、さっさと終わらせちゃいましょ! 新しい店があたしたちを待ってるんだから!」


 ……二年半。上空に浮かぶあの浮遊城《アインクラッド》がデスゲームの舞台であった頃から、もうそれだけの時間が経過していた。言葉にしてみれば簡単なことだが、当事者からしてみれば一生の半分をあのデスゲームに費やされた、そんなような気分まで感じてしまう。

「ん……」

 とはいえ二年半という時間は決して短いものではなく。ようやくあのデスゲームから真に解放されたショウキは、ただ妖精たちの遊び場となった《ALO》でゆっくりと目を覚ました。

「はぁ……」

 新生アインクラッド第十八層。今や第五十層までが解放されており、最前線は三十六層だというのだから、こんな中途半端な層には人気があるわけもなく。予想外にも泊まることとなった安宿から出ていくと、辺り一面に広がる古代都市を見渡してため息を吐く。見ての通りの外見からして、レアな鉱石が出るというガセ情報に踊らされたとしても、自分を責めたくはないところだとショウキは思う。

 とある事情で《SAO》の時のデータを消したために、かつての店を手放してしまったショウキたちからすれば、安定した鉱石の入手先の確保は急務であるが、そう簡単に見つかれば世話はない。新しく店を始めたプレイヤーには、本来ならばレプラコーンの商人連合からの支援があるのだが、人気店を勝手に辞めた前科のあるリズベット武具店にはそれもない。

「……はぁ」

 店で待っているはずのリズにどんな顔をして会えばいいのか、と思いながらも、ため息をもう一度だけと決意してショウキは気を入れ換えると。アバターを変えた時に決心した脱・根暗はまだショウキの心中にくすぶっており、癖となった髪の毛をぐしゃぐしゃと掻く動作とともに歩き出すと。

「……ん?」

 ――目の前には、昨日ここらを調べた時にはいなかったNPCが立っていた。前髪をぱっつんと切り揃えたショートカットの黒髪に、水色のワンピースと足元のサンダルと、とてもモンスターがいる世界の住人とは思えぬ軽装の少女。まるで人形のようだ、という第一印象のままに、古代都市をフラフラとただただ歩いていて。

「…………」

 じっくりと見ていてしまったからか、あちらの少女もこちらに反応して視線が交差する。しかして目と目が合ったというのに目立った反応もなく、こちらを見据えながらもゆっくりと歩き出してきた。

「……わたしを、つれていってくれませんか?」

「あ……ああ」

 舌ったらずな言葉とともに、少女の頭上にクエスト開始を示すマークが浮かぶとともに、こちらのログが更新されていく。内容はただの一言、『イグドラシル・シティへ連れていけ』という単純なもの。反射的に肯定する答えを放ってしまったものの、どうせ今から帰るところだとショウキが受け入れるのを見計らったように、少女の頭上にあったマークがクエスト進行中のものへと変化して。

「……ありがとうございます」

 お礼の言葉とともにNPCの少女はショウキの背後につくと、それきり何も語ることはなかった。ただキョロキョロと辺りを見渡しながら、黙ってこちらが歩いてくる方向に着いてきていて。

「……」

 ……少し、立ち止まってみれば。そのNPCの少女もまた、まるで親に連れ添っている子供のように、こちらの動きと連動してピタリと立ち止まった。とはいえ特に何も言うことはなく、不思議そうな視線をこちらに向けてきて、いたずら心で立ち止まったことにばつが悪くなってしまう。

「変わったクエストだな……」

 フィールドならばともかくとして、町中で襲撃イベントというのも考えにくく、護衛の類いではないだろう。ならば本当に、この物言わぬ少女をイグドラシル・シティに送り届けるだけなのかと、そんなクエストの噂があったかと首を捻る。あまり公にはなっていない……とされていることだが、ここ《ALO》ではクエストはあるシステムによって完全に自動生成されており、まるで全貌を把握することは出来ていない。故にプレイヤー間での情報交換が盛んになっていたり、情報屋という商売が成り立っているわけだが……あいにく、ショウキはこの少女についての情報を持ち合わせておらず。

「あー……転移門は使えるか?」

 そうしてNPCの動向に気を使いながらも、宿場から町の中央に設置された転移門へとたどり着く。イグドラシル・シティへ直通の転移も可能なため、もちろんこの場所に来たわけだが、NPCの少女が転移門を使えるか失念していて。背後をトコトコと着いてくる少女に確認すれば、幸いなことに伝わったらしく、少女はコクリと頷いた。

「つれていってくだされば、大丈夫です」

「連れていく……って言われてもな」

 表情を変えることなくそう言ってのける少女に対して、多少なりとも悩んだ後に、少女の手を取って転移門の順番待ちの列に並ぶ。連れていく、というのがこれでいいのかは分からないが、ここまで来てはぐれるのも目覚めが悪いと、ショウキは知り合いに見つからないように祈りながら思う。

「転移! イグドラシル・シティ!」

 幸いにも誰かに話しかけられるようなことはなく、少女とともに浮遊城の直下に浮かぶ、地上と浮遊城の交易地へと転移する。地上と浮遊城を結ぶのはこの都市だけということもあり、相変わらずな人混みに多少なりとも息が詰まってしまうが、もう慣れたものだとショウキは一息つく。

「ありがとうございました」

 そうしてついでとばかりに、人口密度のもっとも厚い転移門の側から少女の手を引いて離れれば、無表情な少女からお礼の言葉をいただいて。結局、このクエストはなんだったんだか――と、ショウキが髪を掻くとともに少女から手を離すと、視界の端にクエスト達成を示すマークが浮かび上がった。

「これ、お礼です」

「あ、どうも」

 馴染みの店でちょっとしたサービスを貰ったような、そんな返答を反射的に取ってしまったが、もちろんNPCの少女はそんなことに反応することはなく。先に放したばかりだというのに、手を差しのべてきた彼女と握手すると、クエストを完全にクリアした証とともに報酬が振り込まれた。得たいの知れないクエストだったからこそ、報酬ともなればどんなものか気になるのが人情というもので、内心に留めてはいたものの、ショウキもいつになく楽しみに報酬を確認すると。

「……1ユルド?」

「では、ごきげんよう」

 最低賃金。そんな単語が頭をよぎるとともに、ショウキの疑問の声もよそに少女はどこかへ消えていく。とはいえ文字通りに消えるわけもなく、ただフラフラと雑踏に紛れて歩いて行くだけだったが。確かにやったことと言えば、少女を転移門に連れていき共にイグドラシル・シティへ来たのみで、何をしたわけでもないのだが。

「……なんだったんだか」

 それでもショウキとしては、多少ながら愚痴らずにいられなかったが、特に苦労をしたわけでもないと、愚痴をそれだけに留めて歩き出す。むしろ目的地で待っているだろう彼女には、いい土産話が出来たかと思うほどであり、転移門近くに栄えている商店街へと足を伸ばす。

 商店街という名前通りに様々な店が密集しており、客入れがよい店もあれば悪い店もあったが、ショウキが目的地としていた店はあいにくの客入れのようだった。

「ただいま」

 店の隣でなびく旗を横切りながら、裏口から店内に侵入する。扉を開ければすぐに工房ということで、店内は多少なりとも広いものの、客を招き入れるようなスペースはなく。よって屋台のように店員が外に顔を出して、そこで注文を承るシステムを導入しており、店番をしていた彼女が振り向いた。

「おかえり! ……どうだった?」

 ボサボサに跳ねたピンク色のロングヘアを頭に巻いたバンダナでなんとか束ね、暑いのかツナギは半脱ぎで上半身はピッチリとしたシャツ一枚で晒していて。そんなピッチリしたシャツに支えられた胸部は、服も変わったせいもあろうが以前のアバターよりさらに……と、ショウキはその二つの暴力を見ないように努めていて。とにかく、矯正の意味合いはないが装備された伊達眼鏡も相まって、機械いじりの好きな変わり者の少女、といった雰囲気を感じさせて、ある意味でレプラコーンに相応しいアバターなのかもしれない。そんな先の姿とは似ても似つかないアバターではあったが、こうして出迎えてくれる笑顔は『リズベット』のままだ、とショウキも自然とはにかんでいて。

「……なによ、いきなり笑っちゃって。あたしの顔になんかついてる?」

「ああ、油汚れが」

「アバターで設定されてて取れないのよねぇ、これ……それで、首尾は?」

「さっぱりだ」

 怪訝な表情でこちらを見つめ返してくるリズに、まさか笑顔に見惚れていたなどとは言えず、その頬についているシミのようなものに話題をすり替える。いかにも整備に夢中で気づきませんでした、的なあざと可愛さになる目立つようで汚いとは思えない汚れ――とはリズからのうけうりだったが、そんな油汚れを煩わしそうに顔から拭こうとするものの、アバターに刻みつけられたそれは消えることはなく。もう諦めたのか肩をすくめるリズに対して、ほとんど同じ動作で返していた。

「うーん、そこもガセだとなると……難しいわね」

「……そう簡単には見つからないだろうとは思ってたけどな……」

 繰り返しになるが、レプラコーンの商人ギルドからの援助がないこのリズベット武具店には、インゴットや素材の安定した供給先の確保は急務だ。今はNPCの店から勝った素材や軽いメンテナンス、とある副業で間に合わせてはいるが、やはり店売りのインゴットでは見劣りは避けられないでいる。かつてキリトの武器の素材となった《クリスタライト・インゴット》のように、特殊な素材にしなくばリズベット武具店に未来はない。

「となると、残りは……また調べないとね。情報代も高くつくわねぇ……」

「ああ……調べると言えば、リズ」

 外から訪れる客には見えないように可視化されたウィンドウには、ショウキが趣味も兼ねたここ一週間ほどの収入と収支がまとめられているが、赤字ではないのが奇跡のようだった。そこはこのアインクラッドに繋がる転移門近くに店を確保したリズのおかげと、思いつきで始めてみた副業がわりと好評なことによってであり、肝心の自社製品は伸び悩んでいるのも確かだが。ついでにインゴットの入手先の情報などの雑費もかかっていて、二人でため息まじりにウィンドウから目を離せば、ショウキが思い出したかのように声をあげる。

「どうしたの?」

「いや……さっき、変なクエストに遭遇してさ」

「変なクエスト?」

 いつまでも赤字ギリギリなウィンドウだけ見ていても仕方ないと、お互いに自分の出来る店の準備をしながらも、ショウキはつい先に遭遇した妙なクエストのことを呟いた。感情表現が薄いドレス姿の少女を、このイグドラシル・シティに連れてきたクエストを。

「へー……確かに聞いたことないわね、何かの連続クエストの始まりっぽいけど」

「そうならいいけどな」

 リズは新しく作っていた出来映えのよい武器を店頭に飾っていて、ショウキはまだ使っていないインゴットや研磨剤など素材の残量を確かめながら、先程の少女のことを話し終えた。連続クエストの始まり、というのはショウキには思いもよらなかったが、クエストログにそんな兆しはない。

「最終的に未知の鉱石が見つかるようなクエストなら、あたしとしても大歓迎なんだけど……っと、いらっしゃませ! 何をお求めですか?」

 外から覗く場所から常連のお客様が見えると、二人とも即座に軽口を止めると、ショウキはそのお客様が恐らく頼むであろう商品を用意し始めた。昔のリズベット武具店になくて今のリズベット武具店にあるものの一つとして、鍛冶をするための炉の上に大きい鉄板が置いてあることだ。鉄板は特にそれ自体が鍛冶に役立っているようなことはないが、つい最近に始めた新事業のためには必須であって。

「いつもの3つ、よろしく!」

「はい、少々お待ちください。……ショウキ!」

「了解」

 いつものって何だよ、というツッコミを心中に留めながら。件の炉の上に置かれた鉄板は、炉の火によって溶けそうになるほど熱されており、ダメージを受けないと分かっていても触れたくはない。そんな炉によって熱された鉄板へ、ストレージから取り出したソーセージ状の肉をおもむろに放り込んだ。肉と油がはぜて焼ける音が聞こえてくるが、そんな音を聞いている暇はないと、ストレージからさらに切り込みを入れたパンと特製の調味料を取り出し、自作のトングで焼き目のついたソーセージを引っくり返していく。

「お待ち!」

 現実ともなればまだ生肉同然だろうが、随分と手順が簡略化されたこの世界ではすぐさま熱されていて、むしろこれ以上に待たせていては肉が焦げてしまう。しっかりとし焦げ目がついて、まさしくソーセージとなったことを確認すると、用意していたパンに挟んで特製の調味料を多少。

 そうして完成した品は、待機していたリズへと渡されていく。どうしてリズにわざわざ頼むかと問われれば、ショウキがお客様に渡すよりリズが渡した方がリピーターになりやすいから、という理由以外には全くない。

「お待たせしました。3つで450ユルドになります」

 そうしてリズが笑顔とともに、待っていたお客様へと品物を渡す。切り込みを入れたパンにソーセージ状の肉を挟んだもの――要するに、出来立てのホットドッグである。つい最近に始めた副業というのはつまり、どんな素材でも変形せしめる火力を誇る炉の炎を利用した、簡単な軽食の提供だった。

「どうもー」

「またのお越しを!」

 最初はボロボロだった炉の応急処置に鉄板を置いただけだったが、そこで失った料理スキルのレベル上げに利用できると気づいて。そこで偶然にも訪れていたキリトのアイディアによりホットドッグが完成し、アスナが試作に作っていたケチャップを塗ってみれば、なかなかの味となって完成したのだ。とはいえそのほとんどはアスナの調味料のおかげであり、リズとともにレシピだけでもと頼み込んだ甲斐もあって、アスナのものには遠く及ばないがそれなりの売り上げだ。

「……やっぱ、ちょっと複雑ね」

 調子に乗って実装した第二弾である焼きそばは爆死したものの、さらに導入した石焼き芋ならぬ炉焼き芋がそこそこ好評なところを見るに、食べ歩きも出来る軽食が売れ筋なのかもしれない。そうして赤字危機へのストッパーに一役買ってくれている、リズベット武具店の食品部門だったが、単純に武具の品質で勝負したいリズは複雑な心境らしく。

「……リズ」

「わーかってるわよ。ああして目当てのお客様も来てくれるわけだし……いらっしゃませー!」

 そうしてショウキの困った時の癖のように、バンダナで結んだ髪をぐじゃぐじゃと掻こう……とした腕をすんでのところで止めたリズは、言葉とは裏腹にあまり面白くない表情はしていて。その表情は新しいお客様が来たことですぐに隠れてしまったが、ショウキも現状をどうにかしたいとは思いながらも、ひとまずは追加注文を受けたホットドッグをさらにもう二つ。

「ま……でもね、嫌いじゃないわよ。こんな感じも」

「え?」

 颯爽とホットドッグを渡し終えて、つまみながら去っていくお客様の後ろ姿を眺めながら、リズは感慨深そうにそんなことを呟いた。落ちそうになった眼鏡を指で整えながら微笑み流し目でショウキを見るその姿に、見られた当人は何故だか照れくさくなってそっぽを向いてしまう。

「こうやって二人で試行錯誤していきたかったんだから、むしろバッチ来ーい! って感じ?」

「……なるほど、確かに」

「そりゃー……まあ、鍛冶屋としてはアレなのは、ちょっと気にくわないけど。ついでにあんた!」

 いつぞやのことで《SAO》から使ってきていたデータを失い、それでも二人で店を切り盛りして、また店を盛況させながらあのリンダースに帰ろうと。現状をどうにかしたいというのは当然だったが、リズに気を使いすぎていたのは杞憂だったか――などとショウキは思っていたところに、リズから思いっきり指を突きつけられ、ホットドッグの作り置きをしようとしていた手を止める。

「かっこつけて『なるほど、確かに』じゃないわよ。ほら、アバターを変えて脱・根暗の宣言したじゃない、もっと体全体で感情を表現しなさいな」

「いきなり難易度が高くないか……?」

 確かにニヤニヤとショウキをからかうように笑うリズの言った通りに、《SAO》の時から使っていたアバターを変えたのはいい機会だと、かねてよりの後ろ向きな性格を直そうとはしていたが。いざ何かやってみせろと問われれば、どうにもならないのが現状だった。

「別に難しいことじゃないわよ。あんたが今、思ってることを口に出せばいいんじゃない」

「思ってること……?」

 ――幸せだ、とショウキは真っ先に思っていた。あのデスゲームから続いていてしまっていた因縁も終わり、ただ何事もなくこうしてリズと遊んでいけるのだから、それ以上に幸せなことなど望めるはずもない。そもそもショウキがこうして生きていられるのも、デスゲームの時からずっとリズが明るくいてくれたからだというのに。

 それが嘘偽りないショウキの気持ちだったが、当人はふと、頭を抱えていた。

「……重いな」

「え?」

「あ、いや、何でもない。ちょっと待ってくれ」

 ……SAO生還者という自分達の経歴が経歴であるため、どうしてもこんなありきたりな会話に似つかわしくない話題の重さになっていて。生死などと関係なく、もっと手軽な感じで伝えるにはどうすればいいかと髪を掻いていれば、楽しそうにニヤケているリズと視線が交差する。

「……楽しんでそうだな」

「あら、分かっちゃう?」

「ああ、体全体から伝わってくるよ」

「見本ってことね」

 ぬけぬけと言ってのけた後、今まで我慢していたかのようなリズの笑い声が店内に響き渡った。自然と縮こまってしまうショウキに対して、わざわざ炉まで歩いてきてリズから背中への激励を頂戴する。

「ごめんごめん……でも、そう簡単に変わられちゃ困るかも」

「困る?」

「ええ。あたし、ショウキがいっぱいいっぱいなとこ、応援するのが好きなのかもしれないのよね」

「……是非とも、勘弁してほしいような、歓迎したいような」

 背中を叩いてきたあとは肩を掴んで、その『困る理由』とやらを言いながらいい笑顔を見せてくるリズに、どうリアクションするべきか苦笑いで返して。ああ、彼女は自分のこんな『困った』様子が好きなのか――と、未だにクスクスと忍び笑いをもらすリズの趣味嗜好のことを、ショウキはどうにか多少なりとも理解する。

「じゃあリズベット先生の授業! やっぱりね、イメチェンとかすればいいんじゃないかしら?」

「イメチェン?」

「そ。ほら、せっかく新しいアバターになったって言うのに、あんたってば目付きと柄が悪くなっただけじゃない?」

「……確かに」

 ショウキも中断していた作り置き出来るホットドッグの作成に戻りながらも、本当に楽しそうにしているリズから、何やら怪しい授業の開幕を指示される。あんな表情が見れるのならば、たまにはこうして困るのも悪くはないと、たまには、を強調しつつショウキは思うものの。

「だから、思いきってイメチェンしちゃえば、ちょっとは変わるんじゃないかしら」

「なるほど。でも今さらアバターをまた変えるのは」

「そこまでする必要はないわよ! ちょっと服を変えてみるだけ」

 とはいえリズベット先生の授業はあながち的外れとは言えない内容であり、レプラコーンとしてはあまり有利には働かないであろう、柄の悪い銀髪と射るような目付きのアバターを再確認する。リアルと同じ童顔から解放された当のリズも、伊達眼鏡や着流しツナギなどといったオシャレを試行錯誤して楽しんでいるようで、服装も変われば意識も変わるというのもあるやもしれない。

「という訳で仕入れてきたわ! ショウキのイメチェン用の服!」

「待て」

「待たないわよー? あんたが選んだらイメチェンにならないでしょうが、ほら! 観念なさい!」

 ……と、少しだけリズの言うことに納得してしまったが最後、どこから取り出してきたかも分からぬマフラーや帽子、コートにネックウォーマーなど、どこにスキーにでも行くんだと言いたくなる小物類がリズの手にはあって。呆気に取られたこちらが逃げる間もなく、リズのイメチェン術が炸裂することとなると――

「……どう?」

「簡単に言えば……そうだな」

『妖精の世界に現れた、大道芸人に扮した暗殺者』

 ――微妙に違う表現を用いられていたものの、ショウキもリズも似たような第一印象を述べていた。シルクハットにゴーグル、マフラー、ローブを纏ったその姿は、明らかなミスマッチかつ装飾過多な芸人のようだ。ただし入念に顔を隠した奥から見える、射抜くような眼光には暗殺者のような冷たい印象を与えてきて、そう見るとマフラーも暗器が仕込まれているかのような錯覚を覚えて。

「……いいんじゃないかしら?」

「変わってやろうか」

「でもインパクトは抜群よ? ……絶対に変わりたくはないけど」

 シルクハット、ゴーグル、マフラー、ローブ。どれか一つならばアクセントにでもなっただろうが、それを全てぶちこんだ為にこんな大道芸人か暗殺者になってしまって。そんなイメチェンとは果てしなく違う結果となった元凶は、いけしゃあしゃあとそんなことを言っていて。

「っと……!」

「い、いらっしゃませー! ……って、あら?」

 しかしてこのイメチェンのことは後回しだと、二人はとにかく行動していた。ショウキは鉄板の方で焼いていたまま放置していたホットドッグを、焦げる直前でそのままの状態に保つブランケットに放り込んでいき、自分たちがいない時にも店員NPCが最低限の応対が出来るように準備していれば。客が来たことに気づいたリズは……何やらすっとんきょうな声をあげていたために、ショウキも店頭を見てみると。

 ……そこには、見覚えのある少女が何も言わずに立ち尽くしていた。

「……ショウキの知り合い?」

「いや、知り合いというか……さっき会ったばかりだ。ほら、さっきの話のNPC」

 そこにいたのは、ショウキにこのイグドラシル・シティへと連れて行ってほしい、と頼んできたNPCの少女だった。特徴的な黒髪ぱっつんと水色のワンピースを着た小柄な姿は、流石にその特異性もあって忘れられるはずもない。

「ああ、あの……あなた、何か用?」

「ごきげんよう」

「クエストの続きか……?」

 リズの問いかけにはよく分からない応対が返ってきて、少女の用件は結局はっきりしない。先のクエストの続きかとショウキも店頭に出てみれば、少女はやはりショウキの方を向いていた――いや、正確には。

「お腹すいてるのかしら……?」

 リズが耳打ちしてくる言葉にノータイムで自ら頷けるのも分かるほど、少女はショウキではなく、つい手に持ってきてしまっていたホットドッグを凝視していた。作り置きのためのホットドッグなので、確かに出来立てホヤホヤではあるが。

「……食べるか?」

「いいのですか?」

「ああ」

「では、いただきます」

 NPCの少女にそんな魂胆があったかどうかは不明だが、無言の誘惑に抗えずに少女へホットドッグを明け渡す。それでも少女は特に表情を変えるようなことはなかったが、心なしか瞳を輝かせながらホットドッグを手に取った。

「はむ、はむはむ、もきゅ……」

「ゆっくり! ゆっくり食べなさい!」

 ただし浮遊城に赴く男性プレイヤー向けに作られたもののため、少女には少しホットドッグは大きかったようで。一生懸命に頬張ってはいたものの、それでも食べるのには手こずってしまっていた。見かねたリズの指示を受けてからは、少しずつ食べていったために、見ててひやひやするようなことはなかったが。

「……ごちそうさまでした」

「お粗末様」

「あ、ちょっと……ほら、ケチャップついてるわよ」

 そうしてホットドッグはNPCの少女の胃袋へと収められ、少しだけ無表情からほころんだような気のする表情にて礼をされたが、リズが口の近くを拭いても反応しない姿はやはり人形のようで。サイズの違うホットドッグを無理やり頬張った代償に、口の近くをケチャップで汚しまくった姿には、非常に愛嬌を感じるものの。

「はい、綺麗になったわよ。ねぇショウキ、この子……」

「……わたしを――」

 そうしてハンカチを赤く染めたリズが何か言おうとするより早く、少女が祈るように両手を合わせるとともに、最初に会った時のようにクエストログが更新される。そこに表示されているのも同じく、ただ少女をある場所に連れていくという単純なもののみ。

「――つれていってくれませんか?」

 そして何者かも分からぬ少女は、純真な瞳でもって、ただショウキたちを見上げていた。

 
 

 
後書き
ホロリア編っていってもALOです 
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