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おぢばにおかえり

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5部分:第二話 神殿その二


第二話 神殿その二

「これって・・・・・・何の曲よ」
 何か明るい曲です。見れば新一君の携帯からです。
「どっかで聞いたような」
「ああ、これ仮面ライダーブイスリーの曲」
 仮面ライダーって。何でそんなのを。
「仮面ライダー!?」
「だってこれラルフ様の曲だったんだよ、応援歌」
 また話がわからなくなってきました。ラルフ様って誰なんでしょう。
「ラルフ=ブライアント様の。知ってるよね」
「誰よ、それ」
 冗談抜きで知りません。何処の誰なのか。
「近鉄バファローズの選手だった。知らないんだ」
「だって私阪神ファンだし」
 神戸生まれですから。当然ですよね。あの縦縞のユニフォームも甲子園も大好きです。
「バファローズはちょっと」
「そうなんだ。すっごいホームラン打ってたんだぜ」
「その人の応援歌だったの」
「そういうこと。あっ」
 携帯を見て声をあげました。
「主任先生からのメールだ」
「何処におられるの?」
 彼に聞きながら携帯を覗き込みます。見たら。
「教祖殿?」
「そうみたいだよね」
 新一君が私に答えます。
「じゃあそっちに行こう」
「わかったわ。それじゃあ」
「うん」
 こうして私達は教祖殿に向かいます。中庭を通って直接です。そこに入ると入り口に白い髪でしっかりとした背筋の背の高い初老の方がにこにこと笑って立っていました。主任先生です。
「やあ、よく来てくれたね」
「いえ、そんな」
 主任先生のにこやかな笑顔に応えて言いました。
「先生、先輩でいいですよね」
「うん」
 主任先生は新一君に応えて言います。
「中村さんでないとね。駄目だから」
「私なんですか」
「そう、中村さんでないと」
 何のことかわかりません。思わず首を傾げてしまいました。
「あの、私でなければって」
「実はね。私の孫が来ているんだけれど」
「先生のですか」
「そうなんだ。三人いてね」
「はあ」
 先生の言葉に頷きます。何か横では新一君が妙ににこにこしているのが気になります。
「よかったら孫達におぢばを案内してくれないかな」
「お孫さんのですか」
「主任先生急な仕事が入ったらしいんだ」
 また横から新一君が言います。また変ににこにこと笑っています。何が楽しいのかわからない位に。どうしてそんなに笑っているんでしょう。
「それで急にお墓地の方に行かないと行けなくて」
「お墓地に」
 神殿から少し北に行った場所にお墓地はあります。教祖や歴代の天理教のトップであられる真柱様、本席といって天理教を導いて下さった方の御一人である飯振伊蔵先生のお墓なんかがあります。他には教会の方や信者の方々のお墓もあります。
「だから俺達が呼ばれたってわけ」
「そうだったの」
「いや、実は困っていたんだ」
 主任先生はまたにこやかに笑って私に言いました。
「本当にね。急に信者の方々が来られて」
「はあ」
「いや、阿波野君だけじゃ彼が苦労するなと思ったら。中村さんを推薦してくれて」
 えっ!?今の言葉は聞き捨てなりませんでした。
「悪いけれど頼むね。私が帰るまでの間」
「わかりました」
 ジロリと新一君の方を見て答えます。何かすっごい腑に落ちません。
「それじゃあね」
「はい」
「行ってらっしゃい」
 新一君と私で先生を見送ります。その時お孫さん達と一緒になりました。
 教祖殿から祖霊殿に行く廊下で。私は新一君に対して言いました。私は小さいお孫さんの一人の手を引いています。新一君は二人です。
「ちょっと」
「あのさ、先輩」
 私が言おうとしたらその前に言ってきました。
「ちょっと聞きたいんだけれど」
「こうしていると俺達あれだよね」
「人の話は聞きなさい」
 ムッとして言ってやりました。いつもいつも。
「聞きたいことがあるんだけれど」
「家族みたいだよね。子供の多い若夫婦」
「なっ」
 それを聞いて思わず声が詰まりました。いきなり何を言うのって感じです。

 
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