| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ロボスの娘で行ってみよう!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第23話 第三次ティアマト会戦 後日談


改訂しました。お騒がせして済みませんでした。
********************************************
第23話 第三次ティアマト会戦 後日談

宇宙暦789年2月11日〜12日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部

 ティアマト会戦が始まり、統合作戦本部でリアルタイムに状態が流されると、本部長以下の職員が固唾を呑んで戦況を見ていた。FTLによる戦況の報告は次第に途切れ途切れに成るのが、戦況が油断なきものになることが判ってきた。リーファは非常に渋い顔で戦況を確認していた。

徹夜しながら二日目になり両軍がガチに組んでの戦闘で次第に第二艦隊が敵艦隊を押し込み始めたとき本部内では良しと頷く者が居たが、リーファは不味いと言い出した。
「不味い、アレは恐らく擬態です。このまま行けば第二艦隊は袋だたきに遭います」

その言葉を聞いた本部長が訪ねてくる。
「ロボス大尉、それはどう言う事かね?」
「第二に押されているように見えますが、整然と退却していきます。更に後方の総予備が動いているはずです、このまま行けば第二艦隊は側面攻撃を食らい全軍崩壊の危機になります」

その言葉を聞いて、本部長以下が唸り出す。
「確かに、その恐れがあるな。どうすれば良いのか?」
「速攻に第二艦隊を呼び戻し、そのまま全艦隊を20光秒程後退させ戦線を整理します」

「うむ」
「その後、敵の圧力を受け流しながら長距離攻撃を行い敵の疲労とエネルギーの消耗を計ります。その際戦場は第二次ティアマト会戦でマーチジャスパーが防戦しようとした恒星と小惑星帯に陣をひいて持久戦に入れば敵は不利を悟り始めます、その後は辺境警備隊でも構いませんから、イゼルローン回廊からの補給線をゲリラ戦で断てば敵が後退を始めるはずです」

「しかし今からでは難しいか」
「残念ながら、この状態では至難の業かと」
「どうなるね」

「今の状態ですと兎に角後退です、その際に敵に全力で反撃し疑似突撃を行いながら急速後退するしか有りません」
「しかし連中の面子が立たないだろうな」
「面子などより、どれだけ多くの味方を死なせないかが最重要です」

その話から統合作戦本部長が宇宙艦隊司令長官宛に電文を送った為に統合作戦本部ではリーファの話を聞き、一時の興奮状態から次第に落ち着きを取り戻してきた。しかしその矢先に第二艦隊が側方攻撃を食らったと連絡が入った。その報告に皆がリーファを見る。

リーファに本部長が驚いた表情で話しかけてくる。
「ロボス大尉、貴官の予想通りに成ってしまったな」
「はっ、このまま行けば非常に不味い事になります」

「どうすればよいか?」
「一刻も早く第九、第十一艦隊を後退させ、戦線を整理して撤退させるしかありません」
「連絡をしよう」
「恐らくは、ワイドボーン中尉も同じ事を意見具申しているはずですが、念には念を入れた方が宜しいかとお思います」

連絡を入れながらも次第に悪化する戦況に統合作戦本部の面々が宇宙艦隊の作戦が失敗に終わるのを感じ始めて居たが、リーファ自身は戦後処理に頭をシフトしていた。

このまま行けば、必敗は確実、何処まで損害を抑えられるのか、最悪六万隻六百万人が戦死する羽目になる。そうなると残存艦隊8個艦隊12万隻で防戦することになるが、防戦だけなら何とか成るはずだ。しかし今回の様な事を又行われたら壊滅的な打撃を受けることになる。艦隊隻数を一万五千隻から一万三千隻に落とせば9個艦隊に出来るが、ジリ貧になりかねないな。

リーファがその様な考えをしている中でリーファの献策どうりに事が進んでいき結局撤退が行われていく、それを見ている統合作戦本部長以下は深い溜息と失望感に包まれていた。

「本部長閣下、負けたモノは仕方有りませんが、此から再編成で大変です。一旦部員を休憩させて、出来るだけ早い内に行うべきかと思いますが」
「そうだな、早急に被害の全容を調べてこちら側からの見た限りの報告書と艦隊の再編成計画を立てよう」

その言葉に、詰めていた部員達が敗戦の悪夢を振り払うように交代のオペレーター以外はゾロゾロとタンクベットへ向かい二時間ほどの仮眠の後で仕事を始めた。同じ頃ティアマト星系から撤退した艦隊からの第一次報告が入り艦艇喪失が三万隻に近いことが判り、部員達が大慌てになるのであった。

「ロボス大尉、残念ながら貴官の判断が正しかったと言うわけだな」
「嬉しくはありませんが」
「半数残っただけでも良しとしないとならんとは」

その言葉に部員達のテンションが下がる。
「我々のやらなければ成らないのは、何故負けたかを戦訓にして誤魔化さない事です」
「そうだな、今回のような事が続いては駄目だな」

その言葉に部員達が頷いた。
もっともリーファにしてみれば、隠蔽体質の同盟では隠されるのではないかと感じていた。


宇宙暦789年2月20日

■自由惑星同盟軍 第二艦隊旗艦パトロクロス

敗戦のショックが冷め止まないこの日、第二艦隊残存艦隊は敗残の群れと成って首都星ハイネセンへ向かっている。数日前には会議中にドーソン臨時司令官をパエッタ分艦隊司令官が胸ぐらを掴んで罵倒する事態が起こりギクシャクした状態での帰還であった。

艦内ではドーソン准将がハイネセンへFTLで幾度と無く連絡を取りっていた。
「はい、私です。先生にはご機嫌麗しく、はい、責任追及で委員長を辞任させるチャンスと言うわけですな。パエッタを英雄にさせてから、虚構の英雄とするのは如何でしょうか?えっ奴は仲間ではありませんよ。ラムゼイ元帥とガムラン大将は引責辞任に追い込むと、はい、はい、委員長は隠蔽しようとするがそれをすっぱ抜くのですね。それは素晴らしいアイデアです。はいはい、それでは又連絡致します先生」

旗艦アイアース内ではラムゼイ元帥とガムラン総参謀長が自室に入ったままで会議にも出無い状態であった。その為副参謀長達が中心となって、ワイドボーンも一緒に事後処理を行っていた。

リーファ済まんな、お前に頼まれた事も殆ど出来なかった。俺の力不足だな。未だ未だ精進しないと行けないな。せめてこの戦訓だけは持ち帰って研究さねばならないな。隠蔽などさせて堪るか。


宇宙暦789年2月22日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン  
 
統合作戦本部では第三次ティアマト会戦の全容がほぼ判ると、部員一同が唸るほどになっていた。正面決戦で有る以上、損害が馬鹿にならないのは判るが、作戦が余りにもいい加減な事で必要以上の犠牲を出したと言う事であり、その責任追及の声が統合作戦本部から上がり始めた。

国防委員会ではどの様にして今回の大敗を隠蔽し発表するかで連日連夜の話し合いが行われていた。委員長としても先年のエル・ファシルの大勝利に対して今回は空前絶後の大敗である以上完全隠蔽は不可能と判断し、一応ティアマト星系から敵が居なくなった以上は勝利と嘯いても良いであろうと考えていた。

喧々諤々の委員会で1人トリューニヒトだけが内心でほくそ笑みながら事態の推移を伺っていたがどうやるかと言うときにトリューニヒトが巧みな話術で誘導しておいた委員が意見を行った。
「委員長、宜しいですかな?」
「ヤマノウチ君、何かアイデアが有るのかね?」

「ここは、エル・ファシルに習うべきだと思いますが」
「どう言う事かね?」
「英雄を作り、それに耳目を集めるのです」

「なるほど、で、候補は居るのであろうね」
「無論です。第二艦隊の崩壊を僅か二千隻程度で阻んで敵中突破し帰還したパエッタ准将こそが英雄に相応しいと思います」
「なるほど、良い案だ。ヤマノウチ君、シナリオを書いてくれたまえ」
「委員長、お任せ下さい」

ヤマノウチはトリューニヒトのアイデアを掠め取ったとドヤ顔だが、その顔と言葉を聞きながら、トリューニヒトは自分の手を汚さずに委員長が罠にかかったと、再度ほくそ笑むのであった。


宇宙暦789年3月10日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 

自由惑星同盟ではこの日の国防委員会発表で第三次ティアマト会戦は同盟軍の大勝利に終わったが、有力な敵との戦闘で艦隊にかなりの損害生じたと報道された。更にその崩壊の中僅か二千隻程度で一時でも戦線崩壊を防ぎ、敵中突破を計り生還した。パエッタ准将がティアマトの英雄として報道が成された。

人々は、損害よりもエル・ファシルの英雄達に次ぐ新たな英雄に狂喜乱舞したのであり、大敗の責任云々は記憶の片隅に追いやられてしまっていったのである。

二日後の3月12日、迎撃艦隊はその敗残の姿をハイネセン軍事ステーションに表し停泊した。その後レクチャーが行われて、首脳陣には国防委員会の作ったシナリオが渡されたあと、迎撃の真相について箝口令がひかれてシャトルにて軍事宇宙港へ帰還が始まった。

艦隊首脳陣がハイネセンに到着すると、パエッタがティアマトの英雄としてマスコミの大攻勢にさらされその日の内に少将への昇進が発表された為、その日はお祭りムードになり、政府、国防委員会、宇宙艦隊司令部は責任追及が無くホッとしていた。

しかし翌13日に第三次ティアマト会戦の本当の全容がマスメディアにすっぱ抜かれ、お祭りムードは一気に冷えまくったのである。

無謀な迎撃案、宇宙艦隊司令長官ラムゼイ元帥と総参謀長ガムラン大将の無謀さと無知さ、各艦隊司令官の無謀さ思慮のなさ、側面攻撃を受けた際の慌て振りなどが、発表され。更にティアマトの英雄が実は国防委員長の作った虚像だったと知られたのである。

パエッタ准将は確かに二千隻程度で敵中突破はしたが、戦局には何ら寄与できなかったと無論多大な嘘が混じって居たが、そこはトリューニヒトであるから、嘘に真実を絶妙なバランスで混ぜ合わせた結果大多数の市民に信じられたのである。無論トリューニヒトは自身が表に出ることなく憂国騎士団を動かしているだけであるが。

その為にティアマトの英雄パエッタは英雄でも何でもないと言われてしまうのである。
結局支持率の低下を懸念した政府は振り罹る火の粉を防ぐ為に国防委員長の辞任を教唆し、宇宙艦隊司令部の醜聞もほぼ真実で有る以上庇いきれなくなり、宇宙艦隊司令長官と総参謀長の引責辞任に成っていった。又パエッタ准将は非公式の査問会で少将から准将への降格が決定し、降格の新記録を達成した。

政府では国防委員長が辞任した結果、トリューニヒトは国防委員会書記に就任し又一歩権力の階段を上ったのである。政府にしても火の粉が自分たちにかからなければ一議員の役職就任などは気になら無かったのである。

宇宙艦隊はラムゼイ元帥ガムラン大将の引責辞任に伴う人事異動で、シトレ大将が宇宙艦隊司令長官に任命され総参謀長にはサダ中将が任命され、人事の一掃を行う事に成った。
ヤンもワイドボーンも宇宙艦隊作戦課に配属となり新たな作戦を立てる事に成るのである。

統合作戦本部では、この一連の事件を驚きをもって迎え入れていた。持ち上げておいて叩き落とすとは、よほどの奴がシナリオを書いたなと言う事が統一見解であった。

リーファは、この動きがトリューニヒトの手に寄ると考えて、空恐ろしさを感じていた。あの化け物はあらゆるチャンスに自己の栄達を絡めてくると。

その後の編成替えで第二艦隊、第三艦隊は当分の間再建に努めることになり、残存艦艇から第九、第十一艦隊へ戦力を移転させて、第九、第十一は一万五千隻のフル編成に編成し直したが、残存艦艇の殆どを供出した、第二、第三艦隊は僅か数百隻の司令部しかない状態と成った。

第二艦隊臨時司令官には、コーネフ少将が就任し再編成の指揮を取る。第三艦隊臨時司令官にはルフェーブル少将が就任し再編成の指揮を取る事に成った。又降格された、パエッタ准将は恨みを残しながら辺境警備隊へ転属となったのである。又、サダ中将が第四艦隊司令官から総参謀長に異動した為にグリーンヒル中将が第四艦隊司令官に任命された。ドーソンは帰還後査閲部に異動と成り、その年の7月にひっそりと少将へ昇進した。

帝国暦480年3月10日

■オーディン 

銀河帝国では第三次ティアマト会戦の大勝利に沸き立っていた、敵軍に六万隻の内、四万隻近くを撃沈破したのであるから、門閥貴族も辛うじて溜飲を下げたのである。
皇帝陛下もことのほか御喜びになり昇進の大盤振る舞いが行われた。

ベヒトルスハイム元帥はエル・ファシルの失態が相殺になっただけで有るが、ミュッケンベルガーが上級大将にゼークト、ヴァルテンベルク、メルカッツがそれぞれ大将に昇進し作戦に参加した全将兵が一階級昇進したのである。

その頃、エル・ファシルでの逆亡命者達は帝国では珍しく収容施設に入所していたが、第三次ティアマト会戦の大勝利の恩赦で釈放の末、全員が帝国軍軍人として任官する事に成った。
ウィリアム・ジョイス准将も帝国軍准将として同盟軍に対するプロパガンタを行う情報課へ配属になった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧