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おぢばにおかえり

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117部分:第十六話 色々と大変ですその四


第十六話 色々と大変ですその四

「福山の方なの」
「福山ですか」
「そうなの。だから違うのだけれど」
「それでも言われます?」
「言われるわ」
 先輩の顔が憮然としたものになりました。
「一年の頃はそれで言われたし」
「そうなんですか」
「やっぱり言葉でね。あとは」
「あとは?」
「お好み焼き」
 今度は食べ物の話が出て来ました。
「いい、ちっち」
「はい!?」
 急に言葉も顔も真剣なものになってきました。
「お好み焼きは一つしかないのよ」
「一つしか、ですか」
「そう、広島のね」
 何か急に気迫まで感じてきました。雰囲気も全然違います。先輩はその目のせいかかなり穏やかなオーラを感じるんですけれど。もっとも先輩達のお話だと佐野先輩は所謂かなり『やんちゃ』で元気な人らしいですけれど。それはよく知らなかったりします。
「広島のお好み焼きしかないのよ」
「大阪のはどうなんでしょうか」
「邪道よ」
 はっきりと言ってきました。
「あんなのはお好み焼きじゃないわ」
「やっぱり広島ですか」
「あれこそがお好み焼きよ。特に」
「特に?」
「もんじゃ」
 これが出て来ました。私は食べたことがないですけれど。
「あんなのは絶対に食べないわよ」
「絶対にですか」
「あれって巨人の歌聴きながら食べるのよね」
「えっ!?」
 これはかなりびっくりでした。幾ら東京でもそれは。
「巨人はこの世で一番嫌いなのよ」
「広島でもそうなんですか」
「潰れてしまえばいいのよ」
 どうやら本当に嫌いらしいです。
「あんなチーム。何が球界の盟主よ」
「そうですよね」
 それは同意です。そんなこと言ってやってることっていったら。何処かの独裁国家と同じだと思います。マスゲームが練習じゃないかしらって思ったこともあります。
「あんな最低最悪のチーム、日本からなくなって欲しいわよ」
「悪いんねんばかり積んでいますよね」
「そのうち大変なことになるわ」
 そうなって欲しいです、是非。
「人気もなくなって新聞も売れなくなって」
「はい」
「最下位ばかりになってね。今だって変な補強ばかりしてるじゃない」
「あのオーナーが駄目なんでしょうね」
「でしょうね」
 日本の誰もが知っていて嫌っているあのオーナー。私もお爺ちゃんお婆ちゃんや年輩の信者さん達にあんな人間とは一緒にならないようにって言われています。誰があんな人間と。
「とにかく東京は大嫌いよ」
「大嫌いなんですね」
「巨人ももんじゃもね。何もかも」
「東京に行かれたことあるんですか?」
「一度だけあるのよ」
 そうらしいです。
「お父さんが信者さんの都合で行った時に。まだ子供だったけれど」
「どんなのでした?」
「寒かったわ」
 眉を顰めさせての言葉でした。
「何か底冷えして風が冷たいし」
「おぢばよりですか」
「そうね、おぢばよりね」
 何かかなり寒いみたいです。私は神戸の人間なんで冬は風に苦労しますけれどどうやらそれよりもまだ風が強いみたいです。
「寒いし東京ドームはあるし」
 また巨人が出ました。
「新聞は巨人贔屓だし」
「それは凄く嫌ですし」
「美味しいものはないし物価も高いのも」
「いいことないじゃないですか」
「やっぱり広島が一番よ」
 そこまで言ってにこりと笑う佐野先輩でした。
「それとおぢばがね。ここも慣れるとね」
「いいんですか」
「落ち着かない?」
 確かにそれはそうです。
「人情もあるし穏やかだしね」
「そうですね。それは」
 とりあえず東寮は置いておいて。確かに人は優しいですし穏やかです。
「だからいいのよ。野球は阪神ばかりだけれどね」
「広島じゃなきゃ駄目ですか」
「やっぱりあれね。江夏の二十一球」
 聞いたことがあります。何でもこれを実際に見てはいないのにずっと心に残っていて一生忘れられない人までいるそうです。そこまでの名場面だったとか。
「あれを見ずして野球はないわ」
「ですか」
「ちっちはやっぱり阪神ファンかしら」
「ええ、そうですけれど」
 それこそ一家代々の阪神ファンです。それを誇りにすら思っています。
 
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