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煙草の味のキス

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第二章

「思わないですけれどね」
「そうか、そこはそれぞれだからな」
「人それぞれですか」
「そうだよ、俺の今の彼女だってな」
「今度結婚されるんですよね」
「その娘のキスの味はな」
 それはとうかというと。
「朝はパンの味がして夜は御飯の味がするな」
「それどういうことですか?」
「御前も彼女出来たらわかるからな」
「そうした味だってことは」
「ああ、それに御前も実はわかってないか?」
「キスの味が?」
「もうな」
 一言言ってから金本も焼酎を飲んだ。
「わかってるだろ」
「いや、わかってないですよ」
「いや、もうと思うけれどな」
「そうですか?」
「まあとにかく他のキスの味を知りたかったらな」
「彼女を作ることですか」
「風俗嬢で吸わない娘としてもいいけれどな」
 それもありだというのだ。
「まあそれでもな」
「まずはですか」
「ああ、一番は彼女を作って」
「その娘とキスをすることですか」
「そうしろ、とはいってもその娘が煙草吸うならな」
「やっぱりキスは煙草の味ですか」
「そうなるさ、まあとにかくキスの味は一つじゃないってことだ」
 これが金本が今言いたいことの根幹だった。
「そこはわかっておけよ」
「わかりました、あと俺は」
「何だ?」
「キスは女の子とだけします」
 このことは断っておく様に言った宮田だった。
「男とはです」
「安心しろ、それは俺もだ」
 すぐにだ、金本も答えた。それも真顔で。
「俺もキスは女の子とだけする主義だ」
「そうですよね、先輩も」
「そうした趣味はないからな」
「時々そんな趣味の人もいますね」
「女同士でもな、けれどそれもな」
「人それぞれですね」
「ああ、俺達は俺達だ」
 キスは女の子とだけする主義の人間もまた、というのだ。
「それでいいんだよ、それに御前がそうした趣味だったらな」
「今こうしてですね」
「飲まないからな、不意に襲われてキスでもされたら」
 それこそとだ、肴を食べつつ言う金本だった。
「一生の地獄だからな」
「俺もそうですよ」
「ホモの趣味はないからな」
 このことは断る金本だった、そうした話をしてそのうえでだった。宮田は彼女を真剣に探すことにした。
 具体的には合コンに出たり会社の中でいい娘の話を聞いたりしてその娘と話したりした。その努力が実って。
 彼は合コンで知り合った獅童沙織と付き合う様になった、彼が働いている会社の近くにある旅行会社の社員だ。黒髪を長く伸ばして奇麗に整えており歯が白く黒い眉のラインが奇麗な一重の澄んだ目の女性だ。明るい面長の顔立ちで背は一五六程度で楚々とした外見である。
 沙織と知り合ってから宮田は彼女とすぐに意気投合してだ、デートもする様になり宮田は金本に会社の休憩時間に喫茶コーナーで紙コップのコーヒーを一緒に飲みながら話した。
「次のデート位には」
「キスをか?」
「出来るかも知れないですね」
「流石に最初からはないな」
「それはないですよ」
「風俗と違うからな」
「風俗はそういうことをする店じゃないですか」
 率直なことを率直にする場所だというのだ。 
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