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ときめき

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第四章

「可愛い感じがするわ」
「あら、可愛いの」
「そうなの」
「そんな感じの子なの」
 こう話してた。
「これがね、それでね」
「それで?」
「それでっていうと?」
「どうしたの?」
「いや、放っておけなくて」
 それでというのだ。
「こっちも熱心に教えてるわ」
「そうなのね」
「そう言えばあんたずっと女の子にばかり教えてて」
「男の子にはね」
「そういうことしてなかったから」
 だからだというのだ。
「新鮮よ、こっちもどんどん教えて」
「そしてなのね」
「後々の総務のお仕事に活かしてもらう」
「そうしてもらうのね」
「そのつもりよ、だから今もね」
 カルボナーラを食べつつ言うのだった、その白く濃厚な味のスパゲティを。
「食べないとね」
「食べないと体力もない」
「体力がないと教えられない」
「そういうことね」
「だからカルボナーラを食べてさらにね」
 まだ食べるというのだ。
「イカ墨も食べるわ」
「白黒ね」
「そのどっちも食べて」
「それで午後もなのね」
「頑張って教えるわ」
 こう言ってそのイカ墨のスパゲティも食べた、そうして午後は実際に小林に教えた。小林は彼女の言葉を熱心に聞いてメモも取っていた。
 そうした日が続いていてだ、ふとだった。
 自分の話を熱心に聞いてメモを取っている小林の顔を見ていると不意にだ、胸に感じるものがあった。この時が最初で。 
 それからもだ、何かあるとだ。
 感じるものがあってだ、それで同期の面々に夜また居酒屋で飲んでいる時にその感じるものを話した。
「何か彼を見てるとね」
「あの後輩の子ね」
「小林君ね」
「あの子を身てるとなの」
「そう、もうね」
 それこそとだ、ビールを飲みつつ話した。肴には烏賊の足を焼いたものや焼き鳥といったものがある。
「胸に来るのよ」
「きゅんとくる?」
「胸がときめく?」
「そんな感じ?」
「そうなの、どうもね」
 実際にというのだ。
「あの子とても熱心で生真面目だから」
「おや、タイプじゃない筈なのに」
「ああした子は」
「それがなの」
「そうなの」
 どうにもというのだ。
「私もね」
「まさかこうなるなんてね」
「母性本能とかお姉さん気質くすぐられた?」
「そうなったの」
「まさにそれね。確かに少し不器用でもの覚えもいい方じゃないけれど」 
 それでもというのだ。
「熱心で真面目だから」
「教えていてなのね」
「それでなのね」
「来たのね」
「ええ、だからひょっとしたら」
 会社の先輩と後輩だけでなく、というのだ。
「プライベートでもってなるかも」
「いやあ、本当に意外な展開ね」
「そうよね」
「麻美ちゃんが年下の子にそう思うなんて」
「性格は凄くいい子だし」
 そのことはわかった、要領はいい方ではないが性格のよさは折り紙付きだ。だから誰からも好かれるし織部も彼に優しく教えていた。もっとも織部の性格も見ていると決して悪いものではなかった。多少個人主義が過ぎているがだ。 
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