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その一言で

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第三章

「今日は晴れてるのに」
「傘を持って来たことね」
「それどうしてですか?」
「だって近所に通り魔出たでしょ」
「ああ、あのことですか」
「だからなの」
 レジで客が来るのを待ちつつ大学生の娘に話した。
「それでね」
「持って来たんですか」
「そうなのよ」
「用心し過ぎなんじゃ」
「何言ってるのよ、襲われた人は大怪我して入院してるのよ」
 若菜は大学生の娘に真面目な顔で答えた。
「だからね」
「それでなんですね」
「傘を持って来たの、傘があれば」
 それを持っていればというのだ。
「それだけでも違うでしょ」
「叩くことも突くことも出来ますしね」 
 大学生の娘もこう返した。
「傘があれば」
「そうでしょ、私剣道とかはしたことないけれど」
「棒ですからね、傘も」
「だからね」
 それを持っていればというのだ。
「充分な護身具になるから」
「持って行ったのね」
「そうなの」
「用心に用心を重ねて」
「だから貴女もよ」
 大学生の娘にも言う若菜だった。
「何か身を護るもの持って行ってね」
「そうした方がいいですか」
「傘でもいいし」
 若菜が持って来たそれもというのだ。
「他何でもね」
「身を護れるものならですか」
「何でも持っておいてね」
「わかりました、それじゃあ」
 大学生の娘は若菜の言葉を聞いた、そしてだった。
 アルバイトを終える時に店の傘を買ってそうして帰った、若菜は持って来た傘をそのまま持って帰った。
 若菜は帰宅中何もなく無事に帰ることが出来た、そして幸平も無事に家に帰って来てそうしてだった。
 警棒やスタンガンを出してだ、そのうえで妻に言った。
「買って来たよ」
「有り難う、じゃあね」
「何かあれば」
「ええ、こうしたものを使ってね」
 そうしてというのだ。
「身を護りましょう」
「お巡りさんを呼ぶにしても」
「来てくれるまでに時間がかかるし」
「その間に刺されたら洒落になってないからな」
「だからね」
 それでというのだ。
「持っておいた方がいいのよ」
「通り魔は話し合いなんて通じないしな」
 幸平は苦い顔で言った。 
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