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エアツェルング・フォン・ザイン

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そのさんじゅうに

パキンッ!

「ん?何の音だ?」

「音?」

バルコニーで真夜中のティーパーティーと洒落こんでいると、何かが割れる音がした。

「いま何かが割れる音がしたんだよ」

「何も聞こえないよ?
ご主人の聞き間違いじゃないの?」

パキンッ!

「ほらまた!」

しかし、玉藻もレミィもフランも咲夜も、誰一人として聞こえてないようだ。

パキンッ!

「んー?お前らマジで聞こえてないの?」

と聞けば全員が聞こえないと答えた。

パキンッ!

うーむ…さっきから聞こえてくるこの音は何なのだろうか…?

何かが割れたり砕けたりする音に思えるが…?

パキンッ!

しかし何が割れてるんだ?

ざっとテーブルの上のティーカップや周囲を見るが、特にヒビが入っているようには見えない…

パキンッ!

「お兄様?」

「ん?あぁ、すまん。どうやら俺の空耳らしい」

フランに声をかけられた。

どうやら考え混んでいたらしい。

「大丈夫?お兄様?私が血を吸っちゃったから?」

「心配ないよ。そこら辺はパチュリーのお墨付きだからね」

だけれど、次の瞬間。

パキッ!

その音と共に、意識が暗転した。












『こんにちは?こんばんは?おはよう?
あぁ、もうおはこんばんちわでいいか』

暗い暗い虚無の中に、ソレはいた。

「誰だお前?」

『さぁ?誰だろう?』

目の前のソレに問うと、はぐらかされた。

「つかお前何その姿?」

その姿は不鮮明で、輪郭がはっきりしない。

『ん?これかい? まぁ、そんな事はどうでもいいじゃないか』

「良くねぇよ。夢とかでなんかぼやけてたら気になるだろーが」

『あぁ、それは同感だ。だけどね、これは夢だから仕方ないだろう?』

「おまえはなにをいっているんだ?」

『はは、やっぱりそのネタで返すか。
やはりお前はお前のままだ。
うん。満足だ』

ソレは、俺から少しずつ離れ、消えていく。

「待てやコラ」

『ヒント!俺はフェイク・オブ・フェイク。
じゃぁ、また会おうぜ、オリジナル・オブ・フェイク』













「待て!」

黒い靄のような…フェイク・オブ・フェイクと名乗った存在へ手を伸ばしたが、目の前に広がっていたのは紅魔館のフランの部屋だった。

「もう朝よ。随分と寝坊助ねオニイサマ?」

「お兄様!」

「ごっふぅっ!?」

突然フランが抱きつかれた。

「こら、いきなり抱きついたらダメでしょうフラン。
咲夜、パチェを呼んできて」

「はい」

フラン以外の声がしてそちらを見ると、レミィがベッドに腰掛け、咲夜がフッと消えたところだった。

「状況説明ぷりーづ」

「御茶会の途中、貴方が何かが割れる音がすると言って暫くしたら、貴方が倒れたのよ」

「ふーん…」

あの後か…さっき見た夢が関係あるのか?

「それで、何があったのかしら?」

「知らん。例の音の後、倒れた…んだろ?
それと夢を見ていた」

「夢…ね。聞かないでおくわ」

抱き付いていたフランが更に強く抱き締める。

「おー?どうしたフラン?」

「ごめん…なさい。私が、血を吸ったから…」

どうやらかなり気にしているようだ。

「まーまー、落ち着け。それにそんなに気にやむ事は無い」

ポフポフと頭を撫でて、ギュッと抱き締める。

「ほんとうに?」

「勿論だ。それに…いや、なんでもない」

踏ん切りも付いたしな。

吸血鬼の因子を得たなら、俺は既に夜の眷属である。

もう、葵やショウや照明、キリト、アスナとは、住む世界が真反対なのだ。

ガチャリとドアが開き、パチュリーと咲夜が入ってきた。

「目が覚めたのね」

「おう」

「起き上がれるかしら?出来れば図書館で精密検査と行きたいのだけれど」

図書館で精密検査とはまたシュールな字面だ。

「ああ、直ぐに行く」













魔方陣の真ん中。

ついさっきも立ったその場所に再び入る。

そうして…

「ザイン。結果が出たわよ」

パチュリーに渡された紙に目を通す。

「ん?」

その途中の欄が目に入る。

「なんか吸血鬼性上がってない?」

「ええ、その通りよ。
貴方の中の吸血鬼性が、満月で急速に強まったようね」

「ふーん…」

「今の貴方は本当に"半"吸血鬼ね」

「ふーん」

まぁ、ぶっちゃけどうでも良い。

だってさぁ、幻想郷に来て妖精になって、その上武神でもあるとか紫が言ってたんだよ?

つまるところ、『種族なんて今さら、ねぇ?』ということである。

「あら?興味無さげね」

「あー?今さら種族とかどうでも良いからなー」

「あら、種族は重要よ?
根底となる物が揺らげば存在が消えてしまうもの」

「俺の根底は、人間でも妖精でも妖怪でも神でも吸血鬼でもない。
俺が生きた240年。
それが変わることはない。
種族なんぞ関係ねぇのさ」

200年以上、騎士として仕えた。

清く正しい騎士道、そんな物は持っていない。

その代わり、持っていたのは『あの二人』を何としてでも護るという意志と、あの世界への愛。

「240年ね…そう。わかったわ。
もう行って良いわよ」

「んじゃ」

さてと、フラン達の所に戻りますかね…





部屋に戻ると、二人共眠そうにしていた。

「ふぁぁ~」

「うーっす。フラン、レミィ。
今からお休みか?」

「んー。うん」

「ええ、そうね」

あ、一つ聞き忘れてた。

「俺って太陽の下に出て大丈夫だよね?」

一応スカーレット姉妹はデイウォーカーだし、俺はダンピールだ。

「ええ、恐らく大丈夫よ」

「そっか、じゃぁ、俺はここら辺で」

「ばいばーい…お兄様…ふぁ…」

「おうお休み、フラン。レミィもな」

「ええ、また何時でも来てちょうだい」

二人に見送られ、紅魔館を後にした。

澄んだ空気の中の太陽に照らされていると、少し気だるい。

「葵…」

side out












side someone

もう…まったく。

『アイツ』はやっぱり『あっち』なんですかね…

「おーい、どうしたんだい早苗?」

「いえ、何でもないですよ『神奈子』様」

『オレ』を置いて逝ってしまった『アイツ』…

せっかく『私』も追ってこっちの世界に来たのに

早く、会いたいです。 
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