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相談役毒蛙の日常

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三十日目

某都内高校生徒玄関。

「およ?灯俊と葵?部活は?」

「なんだお前か…」

ロングヘアーに眼鏡を掛けたこの女。

「あっれれぇー?年上にそんな口聞いていいのかなぁ?」

「ワーケイナサンダーアエテウレシーナー」

何を隠そう彼女こそがカオスブレイブズヒーラー隊隊長カールターナー。

RN黒川慧奈だ。

面倒な気配がして慧奈を放置し葵の袖を引っ張って進むと、慧奈が小走りで追い付き反対側の葵の手を握った。

「さ、この年功序列を理解していないバカは置いてスイパラ行くわよ葵」

「え!?マジで?行く行く!」

「待てやこら。いつぞやのオフ会での取り決め忘れたか?もうボケたか?若年性アルツハイマーか?」

先日のイクシードのオフ会での取り決め。

上下関係は無し。

現実の生活に関しては全員が同等の存在であり命令権を持たないというものだ。

明文化されていない暗黙の了解をわざわざ明文化したのは、この女が事あるごとに年上として俺をからかってくるからだ。

「その取り決めは学校内…つまるところ公式の場という範囲には適応されないのさ。
残念だったねぇ、ひ と し く ん !」

うぜぇ…

「その理論は破綻している。
この場には俺達三人しかない。
つまり、公共の場ではない」

「なぁ灯俊、スイパラ行こうぜスイパラ!」

まったく…『オレは男だ!』とか言うならその犬耳と尻尾が見えそうなテンションをどうにかしろよな…

「はいはい。スイパラねスイパラ。
慧奈、どこ行くんだ?」

「そうねぇ…灯俊、あんたエンゼル・ケーキのクーポン持ってなかった?」

「この前林檎と蜜柑と行った時に使った」

林檎と蜜柑の笑顔の為だ。

文句は言わせん。

「はぁ!?そんなの聞いてないわよ!?
なんで私も呼ばなかったのよ!?」

「あー、姉さん。ごめん。そん時はオレも含めて四人で行ったんだ」

「ま、まぁ…ならしょうがないわね…
でも何で言わなかったのかしら?
そこを聞かせないよ灯俊」

「あ?今みたいにお前が騒ぐからだろうが」

「知ってたら騒がないわよっ!」

「あー、はいはい。じゃぁ、その時貰った別の割引券あるから今から行くぞ」

「勿論奢ってくれるのよね灯俊君?」

「はぁ?自分の分は自分で払え」

「えー?男のくせにー?」

「なら年上のお前が全員分払うか?」

「チッ…仕方ないわね」

「舌打ちするな。そんなでも一応女子なんだから。
お前のファンが失望するぞ」

すると慧奈はニヤァ…! と悪そうな笑みを浮かべた。

葵の手を放したかと思うと、俺の方へ回り込んで、唐突に俺の腕を取った。

「ふはははは!私のファンにギッタンギッタンにされちまえ!」

「おまっ!?冗談が過ぎるぞ慧奈!
この前本当に追われたんだからな!」

俺達は未だに学校の敷地内。

他の生徒達の目が多くある。

急いで振りほどこうとしたのだが…

「やーん!灯俊君って私とは遊びだったのー!?」

「テメェ…!」

この女に少しでも俺に対する好意が伺えたなら、まぁ、許そう。

だが、コイツは単に俺をからかって遊んでいるだけ。

「はっはー!そんな訳ないじゃないかー!
我が愛しの慧奈よー!」

なら、好意には好意を、悪意には悪意を返すべきだろう?

後ろから抱きつく…振りをして慧奈の手を捩り上げる。

「いだいいだいいだい!?」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい痛い!やめて!」

「もうしませんは?」

「もうやんないから!本当折れるマジやめろクソ蛙!」

パッと離してやると、直ぐ様俺から距離を取った。

無意識だろうか、ALOで錫杖を構える時の姿勢を取っていた。

「アンタねぇ…」

「いやはやー!急に抱きついてすまなかったなー!
君がそんなに照れるなんてー!」

どうだ…! 今回は俺の勝ちだ!

刹那、嫌な予感がして上体を反らす。

シュッパァン!と目の前を何かが高速で横切った。

飛んできた方向は…

「テメェ…!なに女侍らせてんだ…!」

うげぇ…

「ど、どうされました野球部の方?」

「君、灯俊と言ったか?」

「はい」

「俺達は、君を敵と認める!」

なんかヤベェよこれぇ!?

「野郎共!」

「葵!慧奈!」

「追えぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼」

「逃げるぞ!」

野球部が追ってくるのを、全力疾走で逃げる。

くそぉ…こっちは荷物があるって言うのに…!

校門までもう少し…逃げきれるか…?

「灯俊!前!」

葵の声に、前を見ると、学校正面の信号機が青だった。

「うまく行くか…?」

後方から来る鬼に捕まったら何をされるかわかった物ではない。

どうにか校門を抜けると、信号機が点滅していた。

「あーもう!なんで私も走らないといけないのよ!」

「お前が着いてきたんだろうが!」

「あんたが呼ぶからでしょ!?」

俺達が横断歩道の真ん中辺りを走っている時、信号機が赤になった。

道路の対岸に着いた後、待って貰っていたドライバーに一礼し、学校側を見る。

野球部の連中が爆笑しながら校内に戻って行く所だった。

「嵌められた…!」

ぜぃぜぃと呼吸しながら、野球部の思惑に乗ってしまった事に腹が立った。

「どういう…事だ……灯俊…」

「よう…するに…アイツ等…は…。
必死こい…て逃げ…る俺達…を…笑って…たん…だ」

思えば、野球部の連中が俺達三人に追い付けない訳がないのだ。

「はぁ…はぁ…なに…よ…それ…脚…痛いわ」

まぁ、帰宅部の慧奈にはきつかっただろうな。

だが、そも今回の事は慧奈の悪戯が発端だ。

「慧奈、慧奈」

慧奈の肩をチョンチョンとつつく。

「はぁ…はぁ…何…よ…灯俊…?」

m9(^Д^)ぷぎゃー

この中で最も体力が無いのは慧奈。

それが自分の策に溺れ走ったのだ。

こんな好機はあるまい。

「ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?
自分の策に溺れて走らされて、ねぇ今どんな気持ち?」

膝に手を着く慧奈はキッと此方を睨む。

「あんた…覚えてなさいよ…!」

「やー忘れてると思うなー。
仕方ない仕方ない。日本は政治家でさえ物忘れが激しいんだからなー」

「あんた…そのネタすきねぇ…」

るせー。

「ほれ、荷物寄越せ。スイパラ行くんだろ?」

と手を差し伸べると大人しく鞄をこっちへ差し出した。

「然り気無く鞄を持ってやる俺優すぃー!」

「台無しだよクソ蛙!」

ガスッとケツを蹴られた。

痛いだろうがこの野郎。

つか復活したなら自分で持てよ。

「灯俊、オレのも」

「お前はそんなに疲れてねぇだろうが…」

仕方なく自分の鞄を小脇に抱え、両手に一つずつ鞄を持つ。

「ほら、行くわよ灯俊」

「へーへー、慧奈様の仰せの通りに」

前を行く二人の後ろを歩いていて思った。

「あれ?付き合ってなくても女子二人と放課後過ごせるとかもしかして俺って勝ち組?」

「野球部呼んで来ようかしら」

「止めてくださいお願いします」
 
 

 
後書き
灯俊と慧奈の関係はこんな感じです。
魔法科のレオとエリカみたいな。 
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