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大阪のろくろ首

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第三章

「首が延びるなんてね」
「いいっていうんだ」
「あんたが怖いだけでしょ」
「怖いから困るんだけれど」
「成績上がったじゃない」
 このことから言う母だった。
「親切に優しく教えてくれるでしょ」
「細かいところまでね」
「じゃあいいじゃない、熱心で優しくて教え上手な先生なら」
「首が延びてもなんだ」
「全く問題なしよ」
 平気な顔で答える母だった。
「若し血を吸ってきたりしたら駄目だけれど」
「それ吸血鬼じゃない」
「ろくろ首でも首が飛ぶ人はそうみたいよ」
「そうなんだ」
「けれど先生は首が延びるだけで」
 まさにそれだけでというのだ。
「他におかしなところある?」
「そう言われたら」
「じゃあいいじゃない」
 それでというのだ。
「いい奥さんでお母さんだしね」
「それは僕にとっては」
 特にと言うのだった。
「いいけれど」
「関係ないっていうの」
「だって先生は僕の先生だから」
 それ故にというのだ。
「別に奥さんでもお母さんでもないから」
「いいの」
「うん、いいよ」
 別にというのだ。
「本当に」
「そうなの」
「それで言うけれど」
「先生がろくろ首でなのね」
「というか首を延ばすのがね」
「嫌なので」
「あのことがどうにかなったら」
 それでというのだ。
「僕も文句はないよ」
「それだけでいいのね」
「だって怖いから」
 明菜のその首が延びることがというのだ。
「そのことが」
「だからなのね」
「止めて欲しいけれど」
「けれど先生はよね」
「何か首延ばすの好きだよね」
「それがろくろ首だからね」
 首が延びる妖怪の特徴だというのだ。
「ああしてしょっちゅう首を延ばして楽しんでるのよ」
「お母さんそれ見て何も思わないの?」
「面白いわね」
 これが母の返事だった。
「お父さんも言ってるけれど」
「お父さんもなの」
「だって首が延びたり縮んだりって人にはないから」
「妖怪だから」
「妖怪とはいっても何も悪いことしないし」
「それでなんだ」
「お母さんは全然怖くないわよ」
 それこそ全くというのだ。
「ましてやいい先生でね」
「いい奥さんでいいお母さんだから」
「お母さんとしては何も思うことはないわ」
 悪く思う、それはないというのだ。
「本当にね」
「そうなんだね」
「そうよ、だから翔太もね」
「僕も?」
「早く慣れなさい」
 明菜の首が延びることにというのだ。
「別に蛇みたいにとぐろ巻かれて締め付けられないでしょ」
「そんなことないよ」
「首にはそんな力入らないしね」
 蛇とはそこが違うというのだ。
「だからね」
「怖がることはなくてなんだ」
「そう、先生に教えてもらっていけばいいのよ」
「どうにかならないのかな」
 翔太は憮然とした顔で言った、だが実際にどうにもならず。
 明菜は首を自由自在に延ばしながら彼に授業を行っていった、だがそうした日々が続くうちにだった。
 自然とだ、翔太も慣れてだった。
 明菜が首を延ばしても何も思わなくなくなってだ、こう彼女に言った。 
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