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大阪のろくろ首

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第一章

               大阪のろくろ首
 大阪市天王寺区に住む藤宮翔太には悩みがあった、それは家庭教師である浜崎明菜のことだ。
 明菜は八条大学教育学部に通う大学生で翔太のところにはアルバイトで来ている。大きな優しい目と色の濃い細い眉にほんわかとした顔立ちが茶色の横で三つ編みにしてまとめている長い髪によく似合っている。胸はかなり大きく一六五程の背の身体に九十三はある。
 普段から露出の多い服装であるがその顔立ちやスタイルや露出が翔太の悩みではなかった。では何が悩みかというと。
「問題出来た?」
「出来ました」
 翔太は自分の部屋の机に座って実際に問題を解いていたので自分に顔を傍寄せてきている明菜に答えた。
「今」
「ええ、見せてね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「あの、お願いですから」
 自分のすぐ横に顔をやっている明菜に言うのだった。
「首だけ持って来るの止めてくれません?」
「駄目なの?」
「先生今何処に座ってます?」
 このことから言う翔太だった、見れば。
 明菜は部屋の端に座っている、そこからだ。
 首を延ばして翔太の顔に自分の顔を持っているが二人の座っている場所は三メートルは離れているのだ。
 見れば明菜の首はうんと延びている、翔太が言うのはこのことだったのだ。
「お願いですからせめて」
「横にいて欲しいのね」
「はい」
 こう明菜に言うのだった。
「首を延ばさないで下さい」
「いや、こうしてるとね」 
 明菜は首を延ばしたまま翔太に答える、そしてだった。
 彼が解いた問題を首をさらに延ばして間近に見てまた言った。
「全問正解よ、やったわね」
「ですから首延ばさないで下さい」
 またこう言う翔太だった。
「怖いですから」
「怖いって先生何もしないわよ」
 返事はあっけらかんとしたものだった。
「本当にね」
「あの、前から思ってたんですが」
 その首を延ばしたままの明菜にさらに言った。
「先生ろくろ首ですよね」
「そうよ」
 明菜は翔太にあっさりとした口調で答えた。
「見てわかるわよね」
「はい、ろくろ首ですね」
「最初言った通りにね」
 翔太の家庭教師として紹介されたその時にだ、明菜は彼と彼の家族に明るく笑ってこのことを言ったのだ。
「先生ろくろ首よ」
「それはわかりましたけれど」
「先生駄目なの?家庭教師として」
「首を延ばすこと以外は」
 これが翔太の返事だった。
「いいと思います、教えてくれて小学校の成績も上がりましたし」
「平均点十点上がったのよね」
「八十点から九十点になりました」
「よかったわ」
 明菜は彼の成績が上がったことには明るい笑顔で応えた、ただし顔は彼の横をぐるぐると周りだしている。首を延ばして。
「本当に」
「それはいいんですが」
「首のことは?」
「本当に止めて下さい」
 首を延ばすことはというのだ。
「怖いですから」
「だから先生別に襲ったり食べたりしないわよ」
「ただ首が延びるだけで、ですね」
「普通よ」
 一般人と変わらないというのだ。
「この通りね」
「それはそうですが」
「代々のろくろ首だし」
 座って首だけ翔太のところにやったまま言うのだった。 
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