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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【比べられぬもの】

 
前書き
 アニボルのボルトの誕生日をアレンジした話。アカデミーに入る前のボルトで、ネジは生存している設定。 

 
「どーせ父ちゃんは今年も火影で忙しくて帰って来れないからって、代わりみたいにわざわざ来てくれなくてもいいのにさ。…おじさんも忙しいんだろ?」


 夕刻、自分の誕生日に家に訪れた“いとこ伯父”のネジを、ふてくされた顔でボルトは出迎える。

「もう、ボルトったらそんな言い方して……。ネジ兄さんに来てくれてありがとうって言うべきでしょう?」

「いや……俺が来ようと思って勝手に来ただけだ、それこそ気を遣わなくていい」

 台所にいるヒナタが控え目に言って聞かすが、ネジは特にボルトの態度を気にしたわけでもなく手提げ袋を手に、うずまき家に上がらせてもらう。


「ネジおじさん、いらっしゃーい! …ねぇねぇ見て、ママと一緒にお兄ちゃんのためにケーキ作ったんだよ! 他のお料理もいっぱいお手伝いしたの!」

「そうか、偉いなヒマワリ」

「えへへー」

 ネジに頭を片手で優しくぽんぽんされ、ヒマワリは嬉しくなって顔をほころばせる。


「それで……ボルト、これは俺からの誕生日プレゼントだ」

「……? 巻物がいっぱい入ってる」

 大きめの手提げ袋をネジから渡され、怪訝そうに中身を見るボルト。

「ボルトももう少しでアカデミーに入るわけだし、それに見合った教材を一式──」

「おじさん分かってねーなぁ、最近新しいゲームが出たってのにさ……」

 ボルトの不満げな顔に、ネジは機嫌を損ねるでもなくすぐ謝っておく。

「そうか……すまなかった。俺はどうもそういう物には疎くてな」

「い、いいって、別に……せっかくだし、使わしてもらうってばさ。ありがとな、おじさん」

 ボルトの方が若干申し訳なくなり、一旦二階へ上がって自分の部屋に入り机の上に手提げ袋をそっと置いてまた階下のリビングに戻る。

──ヒマワリがいっぱいお手伝いしていつもより豪華な料理と手作りケーキを囲み、父親のナルトの代わりにネジおじさんの居るボルトの誕生日パーティは、ケーキひと切れだけを残してささやかに過ぎていった。


「……これさ、新しいカードゲームなんだけど、おじさんは知らないよなぁ?」

「うむ、知らん」

「しょうがねーなぁ、オレが教えてやるから勝負しようぜ、おじさん!」

「ヒマもやるー!」

「ふふ…、私も洗い物終わったらまぜてもらおうかしら」

 ボルト、ネジ、ヒマワリ、ヒナタはカードゲームに興じ、そんな中なぜかおじさんばかりが負けてしまいネジはがっくりと肩を落とす。


「……またしても俺か」

「あはは、おじさんどんまーい!」

「ネジ兄さん、昔からカードゲームは得意じゃないのよね……」

「おじさん、面白れぇくらい弱いのな……。けどこれじゃ勝負になんないってばさ、父ちゃんとならいい線行くのに──」


 ボルトの一言で、その場の空気が微妙になる。

「あ、いや、別に父ちゃんは関係ないっつーか……。ごめん、何かオレ……もう寝る」

 ボルトは居た堪れなくなり、一人立ち上がる。

「ネジおじさん、今日は来てくれてありがとうってばさ。その……、嬉しかった。じゃあ、おやすみっ」

 その言葉に嘘はなく、ボルトは若干照れた様子で二階へ駆け上がって行った。


「──ねぇおじさん、ヒマに絵本読んで!」

 ヒマワリのその屈託のない声に、ネジはふと我に返る。

「あぁ、いや……ヒマワリもそろそろお休みした方がいいんじゃないか?」

「うん、だからおやすみ前にネジおじさんに絵本読んでほしいの!」

「ネジ兄さん、そうしてあげて。ヒマワリも喜ぶから」

 従妹のヒナタもそっと促す。

「あぁ……判った」



───────



 ……ソファで絵本のお話をしばらくネジが読み聞かせていたところ、ヒマワリはいつの間にかネジの膝の上ですやすやと眠ったらしかった。

「ふふ、ネジ兄さんの読み聞かせがヒマワリには子守唄になったみたいね」

「そんな事は、ないと思うが……」

「ヒマワリを、部屋に寝かせてくるわね」

 ヒナタはそう言ってヒマワリをネジの膝からそっと抱き上げる。

「じゃあ、俺はこれで帰るとするよ」

「待って、ネジ兄さん。……少し、二人でお話しない?」

「ん……?」

「先にヒマワリをベッドに寝かせてくるから、ちょっと待ってて」

 ネジは立ち上がった姿勢から、再びソファに腰を下ろした。



「──ネジ兄さんはお酒よりお茶が好きだものね、今淹れるから」

 ヒナタは盆に二人分の湯呑みを用意し、熱い茶を淹れて従兄の元に運ぶ。

「ありがとう、ヒナタ。……それで、俺に何か話したい事があるのか?」

「あの子の……ボルトの事、なんだけど」

 ネジは茶を受け取って少し口に含み、ヒナタは顔を俯かせた。

「あぁ……、俺が来る事で逆に、気を遣わせてしまっただけかもしれないな」

「そんな事はないわ、あの子なりに楽しそうにしていたもの」

「楽しそうにしてくれていたのであって、実際はやはり父親のナルトでなければ寂しいんだろう」

「寂、しい……。そうよね、母親の私でも、ボルトの寂しさは埋められないのよね。私、なかなかあの子の事を分かってあげられなくて……。寂しいのは、私もヒマワリも同じだけれど……ナルト君にとって、里のみんなが家族だから──」

 ヒナタは手元の湯気の立つ茶を見つめたまま続ける。

「でも実際、家族を早くに亡くした人からすれば、とても恵まれていると思うの。火影の責務で家にはなかなか帰って来れなくても同じ里に居るわけだし、ボルトは全くナルト君に会えないわけじゃない。……家族が健在でも、疎遠の親子だって存在するし……」

「そうだな……ボルトは、恵まれているとは思う。だが、わざわざ他と比較する必要もないんじゃないか。そんな事をしていたら、ボルトは我が儘だと言っているようなものだ」

 感情は特に表わさず、静かな口調で述べるネジ。


「そう……よね。寧ろ我が儘なのは、私なのかもしれない……。私もヒマワリも我慢しているんだから、ボルトも我慢しなさいって、言っているようなものなのよね。あの子はあの子なりに、我慢しているのに」

「ヒナタは無意識の内に……いや、意識的にも自分やナルトとボルトを比較しているんだろう。──俺に対してもそうだ」

「……え」

「親を早くに亡くしたという意味では、ナルトも俺も似たようなもので、寂しかったというのも事実だ。……気づいた時から親が居ないのと、途中から失うのとでは、また意味合いが違ってくるだろうが」

「────」

 微かに揺れる茶の湯面にうっすらと映る自分の顔が、酷く動揺しているかのように感じるヒナタ。


「お前は、父親に妹と比較され、嫡女だが跡目から外された。……名門の家に居づらかったのは判る。今でこそ家を出た上で表向きは父と妹と仲良く出来ているように見えても、根底にある拭いきれない寂しさを、未だに抱えているんだろう」

「それは……、ネジ兄さんも、なんでしょう。今でこそ、私も兄さんもこんな風に話していられるけど、根底にある寂しさはネジ兄さんだって──」

「なら俺がボルトに直接言ってやればいいのか? ……俺の父は、俺が四つの時に亡くなって寂しい思いをしたが、ボルトには火影として立派に働いている父が居て、なかなか家に帰って来れないとはいえ俺と違って全く会えないわけじゃない。だから我が儘を言うな、我慢しろと」

 ネジはあくまで静かな口調は崩さず淡々としており、ヒナタにはネジの表情が読み取れず目を伏せる。

「⋯⋯──」

「他人だろうと身内であっても、寂しさを比較するものじゃない。……せいぜいしてやれる事があるとすれば、その寂しさを少しでも紛らわせてやるくらいだろう。それが本人にとって、余計なお世話だとしても」


「ごめんなさい……私、自分勝手な事ばかり…っ」

 母親として自分が余りにも不甲斐なく感じヒナタは、はらはらと涙を零す。

「すまん……俺も少し言い過ぎたな」

 抑えていたものを絞り出すように涙する従妹を、ネジはそっと慰めるようにヒナタの頭に優しく片手を置いた。

「俺では……このうずまき家の太陽であるナルトの代わりは到底務まらないが、俺なりに陰ながら支えて行きたいと思っているよ。俺もそんなにしょっちゅう来れるわけではないが、なるべく力になるから」

「うん……ネジ兄さん、いつも本当に、ありがとう……。いつまでも情けない従妹(いもうと)で、ごめんね」

「こらこら、自分を卑下し過ぎるのはヒナタの悪いクセだぞ。お前はお前なりによくやっているよ、自信を持て」

 ネジは微笑してヒナタの頭をぽんぽんし、目に涙を浮かべながらヒナタもネジに微笑み返した。


「さて、今日はもう流石に帰らなければ……」

 ネジはソファから立ち上がって玄関の方へ歩き出し、ヒナタもそれに続く。

「引き留めちゃってごめんなさい、ネジ兄さんも色々忙しいのに」

「大丈夫だ。俺で良ければ、いつでも頼ってくれていい」

「うん、今日は本当にありがとうネジ兄さん。それじゃ、おやすみなさい……」

「あぁ、お休みヒナタ。……またな」



《終》


 
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