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一つ目小僧

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第三章

「いいけれどな」
「じゃあ問題ないじゃない」
「そうだけれど念入り過ぎるな」
「何かあるよりずっといいわよ」
「あの」
 あかりは未佳の兄に恐縮している態度で言った。
「今夜は宜しくお願いします」
「ああ、いいよ」
 未佳の兄は彼女には鷹揚かつ気さくに返した。
「女の子は用心しないとね」
「だからですか」
「俺もちゃんとガードするからね」
 あかりにはこう言うのだった。
「安心してね」
「すいません」
「何か私と言うことと違うけれど」
 未佳はそんな兄の言葉を聞いてこう言った。
「どうしてなのよ」
「わざとそうしたんだよ」
「わざとなの」
「そうだよ」
 兄は妹に悪びれない声で答えた。
「だから気にするな」
「気にするわよ」
「御前にはいつもこうだろ」
「人によって態度を変えるのはよくないわよ」
「妹限定でいいんだよ」
「それ法律で決まってないでしょ」
「法律じゃなくてもこの場合はいいんだよ」
 あくまで言い合う兄妹だった、だが。
 何はともあれだった、三人はその寺に向かった。集合場所の未佳の家から本当に歩いてすぐであった。
 その寺の境内に入るとすぐに音楽が聴こえてきた、未佳はその音楽を聴いてすぐに怪訝な顔になって言った。
「あれっ、この音楽って」
「ラップよね」
 あかりも聴いて言った。
「そうよね」
「お寺の中でラップ?」
「誰か練習してるのかしら」
「そうじゃないとね」
 それこそという未佳だった。
「こんな曲聴こえないわよね」
「そうよね」
「普通駅前とかでパフォーマンス兼ねてやらないか?」
 兄もそのラップの音楽を聴いて怪訝な顔になって言った。
「お寺の中でなんてな」
「しないわよね」
「お寺も人住んでるからな」
「住職さんやご家族の人達が」
「だからな」
 それでというのだ。
「普通はしないだろ」
「そうよね」
「住職さん達の迷惑になるからな」
 住んでいる彼等へのというのだ。
「だからな」
「そうよね」
「ひょっとして」
 あかりは怪訝な顔でこう言った。
「お寺の人がね」
「練習してるの?」
「そうじゃないかしら」
 こう未佳に言うのだった。
「それでね」
「今ラップが聴こえるの」
「そうじゃないの?」
「まさかと思うけれど」
 それでというのだ。
「聴こえるんじゃないかしら」
「ううん、じゃあ」
「そう、一つ目小僧じゃなくてね」
「住職さんがラップしてるのかしら」
「お経を詠むんじゃなくて」
「何か想像がつかないわね」
「どうにも」
「まあとにかくな」
 未佳の兄は首を傾げさせる妹達にこう言った。 
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