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英雄伝説~西風の絶剣~

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第36話 ルーアンでの一日

side:エステル


「くあ~……よく寝たわね~」


 マノリア村の風車近くにあるベンチで30分位お昼寝をしてからあたしたちはルーアンを目指してメーヴェ海道を歩いていた。


「エステル、寝起きだからって集中力を切らしちゃ駄目だよ。魔獣はどこから襲い掛かってくるか分からないからね」
「分かってるわ。寧ろ頭がすっきりしたから集中力も上がってるくらいよ」
「ならいいけど……」


 二人で暫く海道を歩いていると前方の分かれ道から二人の少女が歩いてきた。


「あれ?あなたたちは……」
「さっきエステルがぶつかった……」
「あ、さっきのカップル」


 銀髪の少女が言ったカップルという言葉にあたしは顔を赤くしてしまった。


「カップルって……違う違う。あたしとヨシュアは姉弟よ。ね、ヨシュア」
「……うん、そうだね」


 あれ?なんかヨシュアが残念そうな顔をしてるけどどうしたのかしら?


「またお会いしましたね。先ほどは失礼しました」
「いえこちらこそ……そう言えば探していた男の子は見つかったのかい?」
「はい。無事に見つけることが出来ました。気にかけてくださりありがとうございます」


 ヨシュアの質問に紫髪の少女は微笑みながら答えた。よかった、探していた子は見つかったのね。


「お二人はもしかしてこれからルーアンに向かうんですか?」
「ええ、そのつもりだけど……」
「宜しければ私たちが案内いたしましょうか?ルーアンについては詳しいですしお力になれると思いますが……」
「えっ?いいの?なら頼んじゃおうかしら」


 あたしたちはルーアン地方には来たばかりだから現地の人に案内してもらえるのは助かるわ。


「ちょっと、クローゼ……」
「どうしましたか?フィルさん?」
「えっと、その……この二人も一緒に連れて行くの?」
「もしかして駄目だったでしょうか……?」
「いや、駄目って訳じゃないけど……」


 なんだか銀髪の少女はあたしたちと行くのが嫌そうね。さっきぶつかっちゃったこと、やっぱり怒ってるのかしら?


「フィルちゃんでいいのかしら、もしかしてさっきぶつかっちゃった事を怒ってる?」
「あ。ううん、そういう訳じゃないけど……」


 フィルと呼ばれた子はあたしが近づくと紫髪の少女の背後に隠れてしまった。


「ごめんなさい。フィルさんは人見知りが激しいので知らない人に話しかけられるのが苦手なんです」
「そうだったの。フィルちゃん、無理に話しかけてごめんね」
「ん、わたしこそごめん。あなたのことを怒ってる訳じゃないから……」


 フィルちゃんは本当に申し訳ないという表情であたしを見つめてきた。うわぁ……何だか守ってあげたくなるような子ね~。


「そっか。じゃあ友達になりましょう?それならもう知らない仲じゃないでしょ?」
「あっ……」


 ポンポンとフィルの頭を撫でるとフィルは何やら驚いたような表情を浮かべた。


「どうしたの?」
「あ。なんでもないよ……(びっくりした。まるでリィンみたいな撫で方だった……)」


 もしかして急に撫でたのが嫌だったのかと思ったけどそうじゃなさそうだから安心したわ。


「改めて自己紹介をするわね。あたしはエステル。よろしくね」
「……フィル。それがわたしの名前。よろしく、エステル」


 そっと差し出された手をあたしはギュッと握り返した。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「へ~、クローゼってあのジェニス王立学園の生徒だったんだ。通りで気品の佇まいだと思ったのよね」
「そんな、エステルさんとヨシュアさんの方が凄いですよ。私と年が変わらないのに遊撃士として活動されているんですから。私、憧れちゃいます」
「えへへ、そうかな?」


 あの後クローゼとも自己紹介をしてあたしたちは4人でルーアンを目指していた。それにしてもクローゼが前に戦ったジョゼットが偽りで名乗っていたジェニス王立学園の生徒だとは奇妙な縁よね。


「そういえばフィルちゃんは……」
「フィルでいいよ。ちゃん付けはあまり好きじゃない」
「そう?ならフィルって呼ばせてもらうわね。それでフィルとクローゼは一緒に行動しているけど姉妹なの?」
「いえ私はフィルさんが住んでいる孤児院によくお邪魔しているんです」
「孤児院?」
「はい、私は学園の寮に住んでいるんですがあまり遠くないので休日などにはついつい遊びに行ってしまうんです」
「へー、そうなんだ。それにしても学園生活かー、あたしも一度は体験してみたかったな」
「まあエステルは勉強してるよりも体を動かしている方が様になってると思うよ」
「うん、出会ってちょっとしか経ってないけどわたしも同感」
「あんですってー!」
「うふふ。仲がいいんですね」


 まあ確かにヨシュアの言う通りあたしは頭を使うより体を動かす方が好きだから遊撃士の方が向いてるっちゃ向いてるかもしれないわね。


 そんなことを話しているとあっという間に海港都市ルーアンにたどり着いた。


「うわ~、ここがルーアンか。なんていうか綺麗な街ね」
「海の青に建物の白……眩しいくらいのコントラストだね」


 ヨシュアのいう通り青と白が眩しいくらい輝いてる素敵な街ね。ロレントやボースとはまた違った良さがあるわ。


「ふふ、色々と見どころの多い街なんですよ。すぐ近くに、灯台のある海沿いの小公園もありますし街の裏手にある教会堂も面白い形をしてるんですよ」
「でも一番の見どころは『ラングラング大橋』だね」
「ラングラング大橋?」


 あたしはフィルが話したラングラング大橋が気になり聞いてみるとこっち側と川向うの商街区を結ぶ大きなはね橋で降りている時の全長は109アージュはあるんですって。遊撃士の修行で来てなかったら是非観光してみたいわね。


 クローゼとフィルに街の紹介をしてもらいながらあたしたちは遊撃士協会ルーアン支部に着いた。


「こんにちは~……って受付の人は?」


 ルーアン支部の受付には誰もいなかった。


「おや?お嬢ちゃんたち、何か依頼でもあるのかい?」
「ふえっ?」


 背後を振り返ると黒髪の女性が立っておりあたしたちに話しかけてきた。


「すまないね。受付のジャンは2階で客と打ち合わせ中なんだ。困ったことがあるならあたしが代わりに聞くけど?」
「ごめんなさい、あたしたちは客じゃないの」
「おや、その紋章は遊撃士の……なるほど、同業者だったか。私はカルナ。このルーアン支部に所属している。見かけない顔だけど新人かい?」
「うん、あたしは準遊撃士のエステル」
「同じく準遊撃士のヨシュアです。よろしくお願いします」


 あたしとヨシュアはカルナさんに自己紹介をするとカルナさんは納得したような表情を浮かべた。


「なるほど、あんたたちがロレントから来た新人コンビだね。ロレントやボースでの活躍は聞いてるよ」
「あ、あはは……それほどでもないけど」


 やだ、あたしたちって結構有名になってるのかしら?ま、まあ取りあえず今はそのジャンさんが対応できないようだからあたしたちはルーアンの街を周ることにした。


「そうだ、クローゼとフィルも一緒に街を周らない?折角知り合えたんだしもうちょっとくらいいいよね?」
「はい、是非ご一緒させてください」
「ん、まあ偶にはいっか」
「決まりね。じゃあ早速街を見て周るわよー!」


 それからあたしたちは、灯台のある海沿いの小公園や街の裏手にある教会堂を見て周ったりラングラング大橋を渡った先にある商街区を周った。


「待ちな、嬢ちゃんたち」


 商街区を歩いていたらなにやらガラの悪そうな3人組があたしたちに話しかけてきた。


「えっ、あたしたち?」
「おっと、こりゃあ確かに当たりみたいだな」


 ……どうみても友好的には見えないわよね。あたしやクローゼ、それにフィルをやらしい目で見まわしてるしいい気分はしないわ。


「あの、なにか御用でしょうか?」
「へへへ、さっきからこの辺をブラブラしてたからさ、ヒマだったら俺たちと遊ばないかなっ~って」
「え、あの……」


 もしかしてナンパって奴?今時古いわねー。


「悪いけど、あたしたちルーアン見物の真っ最中なの。他をあたってくれない?」
「お、その強気な態度。俺、ちょっとタイプかも~♡」
「ふえっ!?」


 タ、タイプだなんて初めて言われたわ。あたしがちょっと照れてるとヨシュアが3人の前に立ちはだかった。


「すいません、彼女たちも嫌がっていますしここは他をあたってくださいませんか?」
「あん?なにボクちゃん?随分と余裕かましてくれてんじゃん」
「むかつくガキだぜ、上玉3人とイチャつきやがって……」
「へへ、世間の厳しさって奴を教えてやる必要がありそうだねぇ」


 3人はヨシュアに詰め寄っていった。


「ちょ、ちょっとあんたたち!?」
「や、やめてください……!」
「……」


 男の一人がヨシュアの胸倉をつかんだのであたしは止めようとしたけど先にヨシュアが動いた。


「僕の態度が気にくわなかったなら謝ります。でも、3人に手を出そうとするのなら容赦はしませんよ?」


 ヨシュアが冷たい声でそう言うとヨシュアの胸倉をつかんでいた男が手を離して後ずさりした。


「な、なんだコイツ……!?」
「ヤバい奴なんじゃねえか?」
「ハッタリだ!こっちは3人いるんだぜ、こんなもやし野郎……!」
「お前たち、何をやってるんだ!」
「……チッ、うぜえ奴が来やがったか」


 そんな時だった、誰かが橋の方から来て3人組に注意をしだした。


「お前たちは懲りもせずまた騒動を起こしたりして……いい年をして恥ずかしいとは思わないのか!」
「うるせぇ!てめぇの知ったことかよ!市長の腰巾着が!!」
「おや、呼んだかね?」


 また橋の方から声が聞こえたので見てみると、すごく威厳のありそうな人がやってきた。


「て、てめぇはダルモア!?」
「市長が俺たちに何の用だ!」


 市長?じゃああの人が海港都市ルーアンの市長さんなの?


「このルーアンは自由と伝統の町だ。君たちの服装や言動についてはとやかく文句を言うつもりはない。しかし他人に、それも旅行者に迷惑をかけるなら話は別だ」
「けっ、うるせぇや。この貴族崩れの金満市長が」
「てめえに説教される覚えはねえよ」


 3人組がゲラゲラ笑うと市長さんの傍にいた男性が顔を真っ赤にして怒った。


「無礼な口を利くんじゃない!いい加減にしないとまた遊撃士協会に通報するぞ!!」
「フン……何かといえば遊撃士かよ」
「ちったぁ自分の力でなんとかしようって思わないわけ?」
「たとえ通報されても奴らがここに来るまでに時間がある、それまでにひと暴れしてからトンズラしたっていいんだぜ?」


 3人組は勝ち誇った顔をしてるけど残念ながらここに遊撃士がいるのよね。


「悪いけどあたしとヨシュアも遊撃士よ」


 胸の紋章を見せると3人は驚いた表情を浮かべていた。


「ぐっ、今日の所は見逃がしてやらぁ!!」
「今度あったらタダじゃおかねえ!」
「ケッ、あばよ!」


 3人組は見事な捨て台詞を吐いて逃げて行った。


「済まなかったね、君たち。街の者が迷惑をかけてしまった。申し遅れたが、私はルーアン市の市長を務めているダルモアという。こちらは私の秘書を務めてくれているギルバート君だ」
「よろしく。君たちは遊撃士だそうだね?」
「あ、ロレント地方から来たエステルっていいます」
「おなじくヨシュアといいます」
「そうか、君たちが来てくれて助かるよ。唯でさえ今は人手が欲しいからね。もしこの町にいて何か困ったことがあったら是非私の元を訪ねて来てくれたまえ、必ず力になろう」
「はい、期待にこたえられるように頑張ります」
「うむ、それじゃ私たちはこれで失礼するよ」


 ダルモア市長はそう言って秘書を連れて去っていった。


「うーん、何て言うかやたらと威厳がある人よね」
「確かに、立ち振る舞いといい市長としての貫禄は十分だね」
「ダルモア家といえばかつての大貴族の家柄ですから貴族性が廃止されたとはいえ今でも上流階級の代表者と言われている方です」
「ほえ~……なんか住んでいる世界が違い過ぎて想像できないわね」
「……」
「うん?どうかした、フィル?」


 フィルはダルモア市長が去っていった方をジッと見ていた。


「……ううん、何でもない」
「そう?あ、もういい時間じゃないかしら?」
「うん、一度ギルドに戻ってみようか」


 あたしたちはいいころ合いになったので一度ギルドに戻ってみると受付に眼鏡をかけた男性が立っていた。どうやら彼がカルナさんが言っていたシャンさんのようであたしたちを見るなり嬉しそうにしていた。相当人手不足のようね……


 手続きを終えたあたしたちは取りあえず今日は宿屋で休むことにした。旅行シーズンだったから部屋が取れるか心配だったんだけどなんでも最上階のいい部屋に泊まるはずだった人がいきなりキャンセルしたらしくてそこに泊まれることになったの。しかも遊撃士にはお世話になってるからって通常料金で泊まらせてくれるですって!いやー、日ごろの行いって大事よねー。


「それじゃ私は学園に戻りますね。急がないと門限に間に合いませんから」
「あ、そっか。夕方までって言ってたわね。名残惜しいけどしかたないわよね」
「良かったら学園まで送ろうか?」
「ふふ、お気遣いいただきありがとうございます。ですが大丈夫です、いつも通っている道ですしフィルさんもいますから」
「フィルはどうするの?孤児院に戻るの?」
「ん。わたしはクローゼを送ってから孤児院に戻るよ。本当は用事があったんだけどわたしも疲れちゃったしね」
「用事?よかったらあたしたちも手伝おっか?」
「ん、大丈夫。まあ危ないことじゃないから気にしないで」


 うーん、何だか気になるけどこれ以上の詮索は野暮ってもんよね。あたしたちはクローゼとフィルと別れて最上階の部屋に向かった。



side:フィー


 エステルとヨシュアと別れた後わたしはクローゼを学園まで送っていた。


「ごめんなさい、フィルさんにお手数をかけてしまって……」
「私が好きでやってる事だから気にしないで」


 クローゼには色々お世話になってるからね。このくらいは当然の事だと思う。


「フィルさん、何だか楽しそうでした」
「?……急にどうしたの?」
「いえ、フィルさんと出会ってからフィルさんは何か焦っているように……余裕がないように思ってたんです。でも今日のフィルさんはとても楽しそうでした」
「……まあ、楽しかったかな」


 リィンの事が心配でちょっと焦り過ぎていたかもしれない。リィンの事は勿論心配だけどそれでクローゼに心配をかけていたら意味ないよね。その後はあまり会話することなく先に進んでいく。学園の校門前に来るとクローゼは門の前でこっちに振り返った。


「どうしたの、クローゼ?」
「私はまだフィルさんと出会って間もないです。あなたの事は何も知らないし非力な私では頼りないかもしれません」
「……」
「でも私はフィルさんを友人だと思っています。もし何か困ったことがあったらいつでも行ってください。できる限り力になりますから……」
「……ありがとう、クローゼ」


 クローゼは多分わたしがコソコソと何かしていることに感づいていると思う、でもわたしを気遣って何も聞こうとはしない。そんなクローゼの優しさが有り難かった。


「じゃあね、クローゼ……」
「はい、また明日お会いしましょう」


 わたしは去っていくクローゼを見送ってから孤児院に戻った。


「あ、お姉ちゃん。お帰りなさい」
「あー!フィルお姉ちゃんだー!お帰りなさい!」
「お帰りー」
「遅かったな、フィル」
「ただいま、ポーリィ、クラム、マリィ、ダニエル」


 わたしは孤児院の前で遊んでいたマリィとクラムとダニエルとポーリィに挨拶をして駆け寄ってきたポーリィをギュッと抱きしめた。


「今日はねー、テレサ先生がカレーを作ってるんだよ」
「そっか。じゃあ私たちも手伝わないとね。ほら、クラムも行くよ」
「ちょ、何でおれだけ引っ張るんだよ!」
「まあ偶にはテレサ先生に貢献しなさいよね」
「カレー、楽しみだね♪」


 いつかはこの子たちと別れなくてはならない日が来るだろう。でもそれまではこの子たちと過ごしていたい。そう思うのは我儘かな?


 わたしはそう思い孤児院の中に入っていった。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


 夕食を終えたわたしは子供たちと遊んで寝かしてからテレサと一緒に子供たちの服のほつれた部分や破れた部分を裁縫で塗っていた。


「フフ、繕いものが多いのは元気な子が多い証拠かしら」
「まあクラムは元気すぎると思うけどね」
「それにしてもフィルさんは裁縫もお上手ですね。お料理もできるしその年でよくできますね」
「ん、まあ正直面倒だけどわたしも女の子だからこれくらいはできたほうがいいって思うからね」
「本当はお世話してあげたい人がいるんじゃないですか?」
「……黙秘する」
「あらあら……微笑ましいですね」


 まあマリアナも女の子ならある程度の家事が出来るのはポイントが高いって言ってたしいつかリィンのお世話をしてあげたいしね。


「さてと、そろそろ休みましょうか」
「そうだね……ッ!?」


 わたしは懐から二丁の銃とナイフを抜いて辺りを警戒する。この銃とナイフはクローゼに買ってもらったものだ。以前孤児院に入ってきた魔獣と戦った時負傷したんだけどその後に護身用にとクローゼがミラを出して今着ている服と一緒に買ってくれたの。
 だからわたしはクローゼにも大きな恩があり彼女の為に動いている……話がずれちゃったね。わたしは武器を構えて窓から外の様子を伺う。うん、間違いない。外に誰かいる、それも複数。


「フィルさん?どうかしたんですか?」
「テレサ、皆を起こして下に行って。何者かが孤児院の周りにいる」
「ま、まさか強盗じゃ……!?」
「分かんない。でもこんな夜遅くにコソコソしてる時点で怪しい。わたしが対処するから万が一の時に逃げられるようにして。早く!」
「わ、分かりました!」


 わたしとテレサは子供たちを起こして一階に集め二階の窓や一階の玄関のカギを閉める。


「お、お姉ちゃん……怖いよ」
「大丈夫、皆はわたしが守る」
「き、気を付けろよ、フィル……」
「ありがとう、クラム。後私が出たら外にいるやつらが中に入ってこないように玄関のカギは閉めておいて」
「お願いします。フィルさん」
「テレサは子供たちをお願い。それじゃ行ってくる」


 泣いているポーリィの頭を撫でてからわたしは外に出る。すると外には数人の黒づくめの恰好をした怪しい集団がおり薪を孤児院の傍に置いて火をつけようとしていた。


「……『クリアランス』!!」


 わたしは問答無用で怪しい集団に銃弾をお見舞いした。数人の肩や足に当たり辺りに血が飛び散った。


「ぐっ、なんだ!?」
「この孤児院には非戦闘員しかいないはずじゃ!?」
「『スカッドリッパー』!!」


 更に追い打ちで黒づくめの集団に切りかかるが黒と金の混じった剣を構えた男が現れてわたしの攻撃を弾いた。


「ふん、思わぬ邪魔が入ったか……」
(!?……こいつ、凄く強い!)


 目の前に立つ仮面の男からは団長やユンお爺ちゃんから出る達人のようなオーラを感じてわたしは強く警戒する。本来なら戦わず逃げる選択をとるほどの強者だが今はそんなことはできない。


「……」
「ほう、構えるか。その様子から俺とお前の実力の差は把握したと見たが戦うのか?」
「……今は引くことなんてできない!」


 わたしは覚悟を決めて男に向かっていった。


「意気込みは買おう、だが少し無謀だったな」


 ザシュッ!!


 男が消えた瞬間わたしの左腕から血が噴き出した。どうやら気が付かないうちに斬られていたようだが全く反応できなかった……!


「ぐうぅ……!」
「加減したとはいえ俺の攻撃を受ける瞬間に無意識に後ろに飛んでダメージを減らしたか……その年で大したものだ。だがこれで終わりだ」


 男の背後で孤児院が燃えているのが目に写った。


「しまった……!?」
「お前の覚悟に免じて今日は見逃してやろう。さらばだ」


 仮面の男はそう言うと他の仲間を連れて逃げて行った。


「み、皆……」


 わたしは左腕を抑えながら孤児院のドアを銃弾で破壊して中に入る。子供たちは落ちてきた木材に阻まれて出られないようだ。


「フィル!お前、血が……!?」
「これくらい大丈夫。それよりも皆離れていて……」


 わたしはナイフで燃える木材を斬りさいて皆を孤児院から連れ出した。


「はぁ……はぁ……テレサ、ごめん。孤児院を守れなかった……」
「そんな……フィルさんがいなければ皆死んでいました!それよりもフィルさんが!」
「ん、ごめん……ちょっと限界かも……」


 わたしは意識を失い地面に倒れてしまった。


 
 

 
後書き
 ジークの紹介はまた次になります。 
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