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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・28

~吹雪:ショートケーキ~

「司令官……私、ショートケーキのような駆逐艦になりたいです」

「いきなり何言ってんだ?お前。頭でも打ったか?」

「私大真面目ですよ!?それに頭打っておかしくなった訳でもありません!」

 とある日。吹雪がスイーツチケットを持ってやってきた。リクエストはイチゴのショートケーキ。言っちゃあ何だが、普通というか、地味というか……。

「考えてみて下さい。昔から今に至るまで、スイーツと言えば沢山の種類があります」

「ほうほう」

「和菓子や中華菓子、洋菓子と数え切れない程の種類がありますが……中でも、1番人気のあるお菓子ってこのイチゴのショートケーキだと思うんですよ!」

「あ~……まぁ、1番かは知らんがランキングを付けるとしたら上位には入るだろうな」

 日本人がランキングを付けたら、という但し書きが付くが。

「ですよね!まさに駆逐艦の主役たる私……引いては特Ⅰ型駆逐艦の皆が、目標とすべきポジションにいるケーキでは無いでしょうか」

「あー、そういう事か」

「はい!ウチの鎮守府でも夕立ちゃんや時雨ちゃん、秋月ちゃん達の活躍が目立っていて、私の活躍は地味な感じですけど……いずれはショートケーキのような皆に愛される艦娘になりたいんです!どうでしょうか?」

「う~ん……」

 俺は腕組みをして、暫く思案してから答えを導きだした。

「いや、考え方事態は立派だし、悪くはないと思うんだが……」

「思うんだが?何ですか?何か言いたそうですけど、勿体振らないでハッキリ言って下さいよ~!」





「これはあくまで俺の想像……いや、妄想に近い物かも知れん。その前提で聞けよ?」

 と、前置きをしてから俺なりの考えを語る。

「こう言っちゃなんだが、ショートケーキって完成されてるよな」

「……?はい、そうですねぇ」

 日本人に『ショートケーキってどんなケーキ?』と質問をぶつければ、ほとんどの人が同じような答えをするだろう。2段に分けられたフワフワのスポンジ、間に挟まれたフルーツとホイップクリーム、上と外周にもたっぷりのホイップクリームでデコレーションされ、その上にはイチゴが主役だとばかりに鎮座する。間に挟まるフルーツがイチゴ以外に変わったりもするかも知れんが、大体はこんな所だろう。

「完成されてる物が目標、っていうのがどうもな……」

「え、完成されてる物が目標のどこが……」

 いけないんですか?と言いかけて、ハッとした表情になる吹雪。

「改二。特Ⅰ型駆逐艦の中で改二が来てるのってお前と叢雲だけだろ?」

「ま、まさか……」

「今ここでそれを宣言しちまうと、後々妖精さん達の気分次第で改二の実装が遅くなるフラグが立つ可能性がある」

「撤回します」キリッ

「切り替えはえーなオイ、拘りどこ行ったし」

「拘りを捨ててでも得るべき物があると思うんです、私」

 そういうしたたかな所は評価すべきなんだろうな、ウン。





「しかし、吹雪型よりも陽炎型の方が不遇だぞ?改二が実装された奴が一人もいねぇ」

「で、でもでも!この間磯風ちゃんと浜風ちゃんにーー……」

「実装されたのは乙改な、乙改。言ってみれば大幅なチューンナップはしたが、モデルチェンジはしてないって事だ」

「でもそれは、陽炎型の皆が私達吹雪型や睦月型なんかの蓄積で作り上げられてて、基礎能力が高いから……」

「まぁ、そういう側面もあるだろうな。上を高くするより底を嵩上げした方が戦略にも幅が出る」

 実際、駆逐艦の改二が実装された艦を見ていけば武勲に秀でた艦も多いが、それよりも作られた年代が古い事で性能が他と比べて低い艦娘が選ばれているように見える。

「そうですよ、だから次はきっと吹雪型に」

「それでも、気にする奴は気にするさ。事実、陽炎にもその辺の事を相談された事もある」

「うぅ……」

「ま、そういう小難しい話は現場のお前らが考えるべき話じゃねぇさ。ホレ、ショートケーキのお代わりは?」

「あ、い、いただきます!」

 俺がそう言うと、吹雪は皿に半分ほど残っていたショートケーキを口に押し込んだ。いや、焦らなくてもケーキは逃げないからな?





「それにしても……私達って不思議な存在ですよね」

「んー?まぁな」

 俺も海軍に在籍して長いが、海軍黎明期の頃の話は知らない。俺が海軍にに入り、提督になった頃には第2世代型……いわゆるクローンによる艦娘の量産化が始まった頃の艦娘が主流だった。実際、ウチの艦娘は全員第2世代型だ。そのベースに当たる第1世代型艦娘は、元は艦娘になる適性のある人間らしい。サイボーグとか、改造人間に近いんだろう。

「確か、元帥閣下の奥様は第1世代の艦娘だったとお聞きしましたが……」

「『元』元帥な、元。今はただの隠居ジジィだよ」

 あのジジィの嫁さんというと……三笠教官か。確かに、あの人は第1世代型艦娘だと聞いた事がある。敵は大砲やら機銃やらぶっぱなして来るって中で、刀一本で斬って回ってたとか……どういう神経してんだか。

「第1世代型の方々は、やはり武芸に秀でた方達だったのでしょうか?」

「あ~……そう聞いてるな。正規空母の第1世代型の適合者はほとんど、弓道の全国クラスの実力者揃いだったとかな?」

 三笠教官も、どこぞの古流剣術の道場のお嬢様だったとか聞いたが……本人に確認した訳ではないので定かではない。ただ、その第1世代をベースにコピーしたからこそ、弓や刀の扱いに長けた艦娘がいるというのもまた事実だ。

「駆逐艦のベースになった方々も、そういう強味があったんでしょうか……」

「さぁてねぇ?俺はその辺の話は知らん」

 嘘だ。深海棲艦が出現し始めた当初、俺は軍には居なかったが普通に生活はしていたんだ。少なからず情報は入る。それによると、深海棲艦にやられて孤児となった少女から志願者を募り、適性があった者を順次艦娘に改造、戦地に送り出していると報道されていた。家族を殺された少女達の復讐心を利用した格好だが、当時の追い詰められた日本では非人道的だなどと叫ぶ連中はほんの一握りで、そんな連中も生活が賭かっている漁業関係者や海運業者等にデモを喰らって黙らされていた。

「そもそも、何で日本に艦娘が?」

「あ~……これは俺の推論なんだがな。九十九神って解るか?」

 俺の問いに、ふるふると首を横に振る吹雪。

「九十九神……まぁ付喪神とも書くんだが、100年近く使われた道具には精霊や下級の神が宿る、と言われている」

「私達艦娘は、それに近い存在だと?」

「まぁな。そうでもなきゃ、鉄の塊の軍艦が祖国を護る為にってこ~んな少女の姿になってまで化けて出てこねぇだろ」

「そ、それは……そうかも知れませんが」

「実際、艦娘の力の源である艦霊(ふなだま)の存在は確認されてる。その艦霊が軍艦に宿った精霊や神の一部だと考えれば、大体の説明がつく」

 その艦霊に同調出来る素養のあったのが、第1世代型艦娘となった女性達。そしてその身体をクローン技術で量産化したのが第2世代型の艦娘。

「妖精さん達はかつての船員達の生まれ変わりとも言われてるしな。ほら、艦載機にもいるだろ?昔のエースパイロットの名前が付いてるのが」

「じゃあ、昔のご先祖様達が私達を護ろうと戦ってるんですね!」

「そう考えると、死んだ後もこき使ってるみたいで多少心苦しいがな」

 俺の推論にも穴はある。深海棲艦の存在だ。あいつ等は艦娘とほとんど変わらない……それどころか、艦娘が堕天して深海棲艦に『堕ちる』事さえあるんだ。奴等は何故生まれたのか?目的は?艦娘との関連は?卵が先か鶏が先か、的な話になるがどちらが先に生まれたのか?何故、何故、何故……。

「……司令官?大丈夫ですか?」

「…………ッ!あぁ、何でもねぇよ」

 深く考えるのは止めだ。今は俺の出来る事を全力でやるだけさ。 
 

 
後書き
 いかがだったでしょうか?後半が少しヘビーな話になってしまいましたが、実はこの話が重要な分岐点だったりします。

 詳しくはつぶやきの方にて。 
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